プレミアリーグ第11節、三笘薫所属の8位ブライトンは、2位マンチェスター・シティと対戦した。
マンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラ監督は、いいサッカー、いい選手、いい監督について褒めたがる人物として知られる。昨夏、プレシーズンマッチで来日した際には、その会見の席上で、聞かれもしないのに、ブライトンの三笘について賛辞を送っていた。
バルサでの現役時代には試合後、対戦相手であるオビエドの監督のもとに駆け寄り、「なぜあなたはこんないいサッカーができるのか」と詰問したこともある。現在、自身の横に参謀として座るフアン・マヌエル・リージョ(元ヴィッセル神戸監督)がその相手になるが、この日のブライトン戦の試合後は、CBのヤン・ポール・ファン・ヘッケのもとに駆け寄った。
事実、このオランダ代表選手の存在なしに、いまのブライトンは語れない。同じくオランダ代表のGKバルト・フェルブルッヘンとともに、チームを最後方から支えている。この試合もそうだった。前半23分、アーリング・ハーランド(ノルウェー代表)に先制弾を許し、1点ビハインドの状況が続いた後半33分。ファン・ヘッケが左ウイングの三笘に向けて配球した1本の長いサイドチェンジによって、試合は大きく動いた。
三笘は例によってこれを右のアウトでナイストラップ。相手の右SBカイル・ウォーカー(イングランド代表)の接近を確認すると、右のアウトで中央にそのまま折り返した。1度は跳ね返えされるが、目の前にこぼれてきたボールに的確に反応した。右足のインサイドで、ゴール前に構えるダニー・ウェルベック(元イングランド代表)にダイレクトで送ると、次の瞬間、傍らから現れたジョアン・ペドロ(ブラジル代表)が同点弾を蹴り込んでいた。
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ファン・ヘッケから三笘に向けて蹴り込まれたこのサイドチェンジ。現在のブライトンを象徴するワンプレーになるが、毎度、ホットラインと言っていいほど効果を発揮する。ゴールへの期待感はこのパス1本でグッと上昇する。ブライトンにあって日本代表にないプレーの代表例と言いたくなる。
【ブライトンの選手層の厚さを実感】
1対1で迎えた後半38分のシーンも、後方でファン・ヘッケがパスワークの起点になった。カルロス・バレバ(カメルーン代表)、ウェルベック、ジョアン・ペドロで真ん中を崩し、最後は今季セルティックから移籍してきたマット・オライリー(デンマーク代表)押し込み、決勝点とした。
伏兵ブライトンは昨季のプレミア覇者に対し、劇的で痛快な逆転劇を収めたわけだが、采配的には100点満点だったわけではない。
マンチェスター・シティは立ち上がり、ブライトンに対し、それなりに苦戦を強いられていた。プレミアで直近の2試合で連敗。4日前に行なわれたチャンピオンズリーグ対スポルティング戦は1−4の大敗だった。試合開始直後は、ブライトンの高い位置からのプレッシングに苦しんでいるかに見えた。
だが、そこでブライトンのファビアン・ハーツラー監督は引く作戦に出た。右ウイングのシモン・アディングラ(コートジボワール代表)を最終ライン付近まで下げる5バックサッカーに変更した。
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ハーラントに先制弾を浴びたのはその直後だった。つまりこの守備的な作戦は失敗に終わっていた。マンチェスター・シティのペースはその後も続いた。ここで失点を喫していたら、ブライトンの勝利はなかっただろう。
前任のロベルト・デ・ゼルビとの比較でいえば、ハーツラーのサッカーは守備的だ。攻撃的サッカーに対してデ・ゼルビほどのこだわりはない。もちろんグアルディオラ的でもない。森保一監督ではないが、まさに臨機応変に試合を進めようとする。
そのサッカーはある時間までうまくいっていなかった。それが後半に持ち直し、逆転劇を生んだ原因は何か。選手層の厚さだ。
ハーツラー監督は後半開始と同時にヤシン・アヤリ(スウェーデン代表)に代え、カルロス・バレバを投入する。後半12分には、ジャック・ヒンシェルウッド(U−21イングランド代表)に代えオレアリーを、後半20分にアディングラに代えてジョアン・ペドロを投入すると、ブライトンのサッカーはそのたびに逞しくなっていく。圧倒的に劣勢だったボール支配率は次第に回復。ブライトンがクラブとして大きくなっていることを実感させられる試合展開となった。
【5バックでも日本代表と違う使われ方】
そんななかで三笘は後半45分までプレーした。アディショナルタイムに入ろうかという時点でヤクブ・モデル(ポーランド代表)にポジションを譲った。
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ハーツラー監督は前任のデ・ゼルビより森保似だと前述したが、三笘の使い方は森保監督とまったく違う。三笘を3−4−2−1のウイングバックで起用する森保監督に対し、ハーツラー監督は5−2−3の左ウイングで使う。それぞれの基本ポジションには20メートル以上の差がある。三笘がウイングバックとしてプレーしたならば、ジョアン・ペドロの同点ゴールは、生まれていただろうか。ファン・ヘッケのサイドチェンジを高い位置で受けて、対峙するウォーカーと1対1になっていただろうか。
三笘がウインガーとして最後まで高い位置を張り続けたことと、この逆転劇は密接な関係にある。三笘のプレーを採点するならば6.5〜7となる。
もっともウォーカーとの1対1で、縦に抜ける機会は1度もなかった。右足のアウトで中央にパスを送るプレーは確かに光っていた。周囲とのコンビネーションも上々だった。だが、ウインガーとしての価値は縦抜けを決めるか決めないかに左右される。
イングランド代表の右SBを向こうに回し、2度、3度と縦抜けを決めたとなれば、ウインガーとしての商品価値は著しく上昇する。そのチャンスは実際、何度かあった。ウォーカーに対し、客観的に見て、三笘は勝てそうなムードにあった。この大一番で、三笘にアタッカーとしての野性味を発揮してほしかったというのが正直な感想だ。
惜しい気がするが、逆に言えば、縦抜けを決めなくても7に近い採点を得られそうな点も三笘の魅力だ。ひと言で言えばクレバー。相手ボールへの対応も完璧だ。毎試合、ほぼフルタイム出場を果たす理由である。試合後、三笘がグアルディオラに声をかけられる日は訪れるだろうか。次戦に期待したい。