プレミアリーグ第11節、三笘薫出場のブライトンはマンチェスター・シティに2−1と逆転勝利。試合後の三笘と、31歳のプレミアリーグ史上最年少指揮官として注目されているファビアン・ヒュルツェラー監督のコメントから、現地取材の記者が熱いゲームの模様をレポートする。
【グアルディオラも称えたブライトンの戦い】
「ペップ、一体いま、チームに何が起きているというのですか?」
11月9日のプレミアリーグでブライトンに1−2の逆転負けを喫し、これで公式戦4連敗となったマンチェスター・シティ。一昨季に欧州3冠を果たし、昨季に前人未到のプレミアリーグ4連覇を遂げたチームが、かつてないスランプに陥っている。試合後の会見では、ジョゼップ・グアルディオラ監督にまずはそんな質問が投げかけられた。
「4試合の内容はそれぞれ異なる。今日は前半はとてもよかったが、後半に動きが悪くなり、リードを守りきれなかった。これからの10日間で内容を精査したい」
今季絶望となったロドリを筆頭に、多くの負傷者を抱えていることが理由のひとつにあるのは確かだ。シティのようなトップ中のトップチームは今季、最大で85試合を行なう可能性がある。ただしこの53歳のスペイン人指揮官は、そうした背景を嘆くのではなく、むしろ努めて明るく話そうとし、相手のブライトンを次のように称えた。
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「すばらしいパフォーマンスだった。ロベルト(・デ・ゼルビ前監督)がブライトンの選手たちにショートパスの使い方を教え、それが基礎になっていると思う。ロベルトの影響は実に色濃く、そこにファビアン(・ヒュルツェラー現監督)が独自のスタイルを加えていると思う。例えば、中央とサイドをリンクさせる方法や、アグレッシブにプレスをかけてくるところなど」
ブライトンは前半にアーリング・ハーランドに先制されたものの、後半に立て直し、まさに敵将が称えた軽快なパス交換と激しいプレスで、リズムを取り戻していった。そのカギを握ったひとりが、左ウイングの三笘薫だった。
中央寄りの位置でボールを受けた三笘が、左のスペースに駆け出したペルビス・エストゥピニャンへスルーパスを送り、そこからのクロスをジャック・ヒンシェルウッドが強烈なヘディングでGKエデルソンを強襲。
さらに78分には、DFからのフィードを受けた三笘がアウトサイドで折り返し、一度弾かれたボールを再び中へ送ると、ボックス内に混戦が生まれ、最後は途中出場のジョアン・ペドロが詰めて同点に。
畳み掛けるブライトンはその5分後、ダニー・ウェルベック、ジョアン・ペドロとリズミカルにパスをつなぎ、最後はこちらも途中出場のマット・オライリーが決めて5分間で逆転に成功した。
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【私は彼をゴールやアシストで評価しない】
プレミアリーグに初挑戦している31歳のヒュルツェラー監督――リーグ史上最年少指揮官だ――は就任に際し、グアルディオラ監督との対戦を一番楽しみにしていると言った。そんな憧れの相手を好采配で下したドイツ人指揮官に、筆者は試合後の記者会見で三笘の出来の印象について訊いてみた。
「とてもよかったと思う。私はいつも彼に守備面の働きを求めているが、その点でもポジティブな動きが多かった。彼がゴールを決めていれば、私もうれしかったが、私は彼をゴールやアシストで評価しない。それよりも、チームのためにハードワークしてくれているところを評価する。彼は最高のチームプレーヤーだ。チームの成功のために、すべてを捧げてくれている」
三笘本人も試合後にゴールやアシストが欲しいかと聞かれると、「そうですけど、勝てれば、全然問題ないですね」と絶対王者シティからの逆転勝利を喜んでいた。また後半にパスが回り始めた要因については、次のように説明した。
「後半は相手がそこまでプレスに来なくなって、余裕ができたことがひとつ。それから相手のディフェンスラインは中がコンパクトなので、サイドが開く。そこで前進できれば、簡単でしたね」
これは同点につなげたクロスのシーンを語っているようだった。そしてグアルディオラ監督が称えた連係については、対峙するカイル・ウォーカーを攻略する上で重要だったと明かしている。
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「相手が嫌がることをやろうと思っていましたけど、前半は守備に追われてなかなかできませんでした。でも後半は高い位置で、近くのジョアン(・ペドロ)やペルビス(・エストゥピニャン)がサポートしてくれて、いいトライアングルができたのでよかった」
試合前の記者会見では、先週末に惜しくも1−2の逆転負けを喫したリバプール戦について質問され、ヒュルツェラー監督はこう話していた。
「惜しい機会だった。フットボールは結果がモノを言い、いいパフォーマンスをしても、勝ち点が得られなくては意味がない。ただし長期的には、いいプレーをしていくプロセスの先に、結果がついてくると信じたい。私はいつも選手たちに、勇気を持って戦うことが大事だと言っているんだ」
【ホームならではの展開だった】
この日のシティ戦では、その教訓が生かされたのだろうか。三笘は語る。
「そうですね。今日はセカンドハーフでもっとつなげた。前回はつなげなかったので、(今日は)勇気を持ってやれたと思います」
そして、実際にピッチ上で手応えを感じながら、プレーできていたことも明かした。
「あれだけ押し込んで、あれだけ後ろがセカンドボールを拾ってくれれば、サポーターも後押ししてくれる。ホームならではの展開だったと思います」
ブライトンのサポーターの一体感は、現地で取材するたびに強く感じるものだ。この日もメリハリのある声援が後半になると大きくなっていき、同点となったあとはさらに力強くチームをサポートしていた。
シティという圧倒的な強者を逆転で下したチームのファンは、帰りの電車の車内でも「シーガルズ!」や「アルビオン!」(ともにクラブの愛称)といった掛け声で騒いだり、選手の応援歌を合唱したりして、パーティーを始めていた。駅に着くと、その声は高い天井に響き渡り、楽しい土曜日の夜の始まりを予感させた。
アンジェ・ポステコグルー監督が統率するトッテナム、守田英正を擁するスポルティング、そして三笘が所属するブライトン――。世界一との呼び声も高いシティが喫した4連敗のうち、ここ3つはすべてJリーグ経験者のいるチームだった。ブライトンの夜に、同胞として誇らしい気持ちになれた。