満員電車から背中を押され、勤務先へと向かう主人公の一幕を描いた漫画『とらんすふぉーまーず』が2024年10月にXで投稿された。そんな主人公の日常は新しい社長との出会いから少しずつ変化していきーー。
(参考:漫画『とらんすふぉーまーず』を読む)
不思議な空気が漂う本作の作者・雉鳥ビューさん(@byuooo)に本作を創作したきっかけ、漫画を描くなかで意識していることなど、話を聞いた。(あんどうまこと)
ーー本作を創作したきっかけを教えてください。
雉鳥ビュー:「仕事」をテーマに作品を描いてみようと思ったことがきっかけです。意味があるんだか、ないんだか……ちょっと不思議な仕事にしてみようかなと思い、主人公は「玉を送る」といった変な仕事をしている設定にしました。
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ーー本作は物事の捉え方に白黒つけず、解釈の余地を保ったまま描かれている作品だと感じました。
雉鳥ビュー:「こんな仕事、意味ないぜ」と断言することはなく、かといって「こういう仕事をやってるだけでいいのかな」といった不安もある……。そのグラデーションは自分の表現したかったことだと思います。
満員電車に乗ることなど、思考を停止させ物事をこなす様子を描きましたが、最後には自分のやってきたことが自分の背中を押してくれる。一見すると意味がなさそうな仕事にどういう意味を与えるか、結局は自分次第なのかなと感じています。
ーー本作を描くなかで印象に残っているシーンは?
雉鳥ビュー:中盤の夕日を眺めるシーンです。主人公が振り返って夕日を見るだけのシーンなのですが、その前のページで5コマ使って、だんだんとカメラワークが逆さになっていく様子を描きました。新しい社長が来たことによる主人公の心境の変化を表現しようとネームを描くなか、このカメラワークを思いついたときにはテンションが少し高まりました。
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ーー社長のキャラクターが印象的でした。
雉鳥ビュー:いわゆる「カリスマ性がある経営者」みたいなイメージを膨らませながら社長のキャラクターを考えました。悪役にしたいわけではなく、みんなとは違う次元で物を見ているといった印象にしたくて、まるで宇宙人を思わせるような見た目や言動を意識していました。
ーー「加藤ジョン」に改名したエピソード、好きです。
雉鳥ビュー:社長本人もウケを狙ったわけではないと思いますが、無機質だけど人間としてお茶目というか、少し抜けているところはあると思います。
ーー最初と最後で「背中を押される」ことの印象が大きく変化するといった仕掛け、カメラワークの工夫など、どのような工程を経て作品を制作していますか?
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雉鳥ビュー:最初に全体の流れやモチーフなどを大まかにイメージして、プロットやネーム、下描きといった順番で進めており、変わったことはしていないと思います。ただ行き詰ったとき、もう少し面白くならないかなと思ったときに、逆さまのカメラワークといったワンアイデアを付け足しながら制作しています。
計算しながら描くというよりも、描いていく最中のライブ感に委ねているといった印象でしょうか。「ここで印象的な台詞を言わせたいな」とか「台詞が説明的すぎるから、もっと文章を短くできないかな」など、面白さや読みやすさにつながるよう微調整をしていく感じです。
ーー雉鳥さんの作品には少し不思議な空気が漂っていると感じます。
雉鳥ビュー:メッセージをわかりやすいかたちで伝えたいというよりは、作品を読んだ人の中になにかを残せたらいいなと思っていて。読んでから時間が経ち、ストーリーは覚えてないけれど、いい作品だったなと思える。面白さというよりも、印象に残るといったニュアンスが近いかもしれません。想定していたものが読者に伝わらなくても、作品の空気感みたいなものなどが、読んでくれた人の中に残ってくれたらうれしいです。
ーー今後の活動について教えてください。
雉鳥ビュー:創作活動でもう少しお金を稼げるようになったら嬉しいですが、ひとまず創作することは長くつづけていきたいと思ってます。自分の表現の幅を広げていきたいと思い、現在は小説と漫画の中間のような創作物「グラフィック・ノベル」を制作しています。直近で開催される「文学フリマ」にて出展予定です。
ーー創作活動を長くつづけたい理由、創作することの魅力を教えてください。
雉鳥ビュー:最初に漫画を描いたのは大学時代でした。当時「コミティア」の存在を知り、足を運んでみると自分の漫画を描いている人がたくさんいることに衝撃を受けて、自分も参加したいと思い漫画を描きはじめてーー。
作品で表現している人たちが多くいる空間には独特の居心地の良さといいますか、面白さのようなものを感じて、漫画を描いていくうちに漫画を描く人たちと知り合いになれたりすることも面白くて……。そんな面白さに惹かれて、今日まで創作をつづけています。
(あんどうまこと)
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