11月8日と9日、ベルサール秋葉原(東京都千代田区)でサードウェーブ主催の「AIフェスティバル 2024」が行われた。
本イベントは「AIをもっと身近に、もっと楽しく」をコンセプトとして、2023年に第1回が開催された。第2回となる今回は、さまざまなセミナーやトークセッションなどに加え、東京/福岡/大阪会場で「24時間AIハッカソン」の開催、AIアートノミネート作品の展示、各社製品の展示などが行われた。
ここでは、メディアアーティスト 落合陽一氏による基調講演を中心にイベントの様子を紹介していく。
●“計算機の中の自然”と“自然が計算機である”ということ
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2022年にChatGPTが登場してから、さまざまなメディアにAIという言葉が満ちあふれている。最近では「AIスマートフォン」や「AI PC」なるワードも飛び交っている。
このように、AIが既に身近な存在になり、誰もが手にするデバイスでAIと人がつながるようになっていることもあり、落合氏は「ビジュアル(デザイン)やもの作り、考え方、さらには芸術や文化、死生観、宗教にどのような影響を与え、AI時代にどのような変化が生まれるのかに興味を持つようになった」という。
その答えを導き出すのに欠かせないのが「デジタルネイチャー」という考え方だ。これは、「自然は計算機と見なすことができ、自然は計算機の中にも存在する。その融合が計算機時代の自然である」というものだ。
「計算機は電卓ではなく、コンピュータをイメージして欲しい」という前提を説明してから「計算機の中に自然が存在するという考えならイメージできるだろう」と落合氏は続けた。つまり、気候や地震、大陸の動きなどのシミュレーションはコンピュータの中で行える、というわけだ。
では、「自然が計算機」というのはどういうことだろうか。それは、自然界の中に見られるあらゆる事象には法則があり、そのような計算機的なプロセスにより持続していると見なせるということだ。また、実際に“量子”という自然物を計算機に使っているという例と、米国の物理学者リチャード・ファインマン氏の「自然をシミュレーションしたければ、量子力学の原理で(自然を使って)コンピュータを作らなくてはならない」という言葉を挙げた。
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そして聴衆の表情から「理解しづらい」と考えている人が多いと判断し、落合氏は次のような質問をした。「この中に、(新型コロナウイルス)ワクチンを接種した人はいますか?」
挙手した人たちが一定数いることを確認した後、「それはみなさんが、自分の中に計算機があると認識しているからこその行動です」と告げた。つまり、メッセンジャーRNAワクチンが体内に入り、ウイルスの情報を免疫機構に伝達し、それによりウイルスが体内に侵入した際にすぐに対処できるようにする、という予防策を取っていることこそ、体が計算をしている、人体の持続が計算の上で成り立っているということを認めていることに他ならないというわけだ。
そのため落合氏は「自然を計算機とみなす“デジタルネイチャー”の概念は皆さんの中にも根付いている」と解説した。さらに「AIが発達することにより、自然とデジタルの融合は加速するだろう」という考えを述べた。
その一例として、落合氏の研究室では、大量に飼育しているマダガスカルゴキブリをロボット化(神経系を制御する極小マシンの組み込み)をして、思うようにコントロールするという試みを行っている。「(Googleのスマートフォンである)Pixelが言うことを聞かない場合、それは故障。でもゴキブリなど生き物の場合ならそれはデフォルトである。神経が刺激に慣れてしまうから」とネイティブなデジタルとの違いについて解説する。
「命令を聞かなくなった個体の代わりに、別の個体が司令を達成するようプログラムしていく。その切り替えや、エラーを出さないような仕組みを素早く作ることが重要になる。生き物が言うことを聞かないのであれば、デジタルネイティブなロボットアームではどうかという考えもあるが、それは故障しても自然治癒しない。なので、自然とデジタルをどのように融合させていくのか、そこを解決するループを早めるのかという試行錯誤がデジタルネイチャーとして、今後は世の中にたくさん出てくると予想している」(落合氏)
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●デジタルネイチャーの定式化
デジタルと自然の融合の一助になっているものとして3Dプリンタを落合氏は挙げた。より精密になり、さまざまな素材を扱えるようになってきていることから、新しい素材や構造を生み出せるようになった。AIが自然物に関与し、融合するようになる。「自然は計算機によって拡張され、拡張された自然は計算機に戻って来る。そのループの高速化が、今世紀は進むだろう」と落合氏は語る。
このようなデジタルネイチャー系を定式化すると、「3つぐらいしかやることがない」と落合氏は言う。「1つはループを高速化すること、2つ目はループの適応範囲を広げること、最後は自動最適化の範囲を広げること」だ。
これを、先ほどのマダガスカルゴキブリの場合で説明した。
「虫の状態を計測して動かし、行動モデルを更新する、その速度を上げること。次いで数匹だけでなくそこにいる1万匹全てにそのモデルが更新されるようにすること。量に加え動きにくかったものや、計測しにくかったものをどのように動かすか適用するか、範囲を広げること。勝手に進化したり、勝手に動いたりするようにAIとつながり自動的に更新されていく。2050年には、砂に話しかけても答えてくれるようになっているかもしれない」(落合氏)
●AIは人間より賢くなっている
AIへのインプット量は増え続け、今では人間が生涯中に得られるものを超えた量を学習投入されていると落合氏は解説する。
2010年代にはデザインスケッチ程度のクオリティーだった画像生成AIが、17年頃には実用レベルに成長した。その一例が、謎の囲碁棋士“Master”の正体である「AlphaGo」というGoogle DeepMindによって開発されたコンピュータ囲碁プログラムだ。Masterは、並み居る棋士たちを次々と破って話題になった。
学習投入量を表すFLOPSは、17年にはミツバチ程度の10の17乗だったが、22年にはカラス以上の知能を獲得する10の24乗になり、ChatGPT(GPT-3.5)が登場した。2023年3月に登場したGPT-4では計算投入量が10の25乗となり、IQは70程度になった。今ではIQが120程度に向上したOpenAI o1が利用されている。
「推論性能が10の22乗の頃まではあまり伸びがなかったが、23乗になった頃から学習量が急伸しこのまま上がるのではないかと考えられている。OpenAIのサム・アルトマン氏も28乗まではストレートフォワードで行くのではないかと先日(Redditで)回答している。10の25乗という学習量は人間が生涯に得る知識量と同じで、1.5年で学習投入量が4倍になっているし、IQも比例して高くなっていることを考えると、超知能の世界がまもなく来るという予想の裏付けになっている」(落合氏)
では、ホワイトカラーの仕事はAIに奪われるのだろうか。その点について落合氏は、ラボ生がAIを使ってボードゲームを作るという試みを行ったことを例に解説した。確かにさまざまなシナリオを自動的に作り上げていったが、面白いかどうかまでの判断をAIに任せられなかったという。人間がプレイしないと面白い/面白くないとのジャッジができなかったのだ。
「3分の動画や音楽をAIが作るのに、今では30秒から60程度しかかからない。実時間より短い時間で作成できる。しかし、それをキュレーションするのは人間じゃないとできない。作り出すのはAIに任せ、人間はキュレーションするという役割を担っていくようになるのではないか」(落合氏)
●AIの発達による死生観の変化と宗教 「そして神社を作る」
AIが「超知能」になり、1人の人間が獲得する知識を超えるデータを学習するようになれば、落合氏の考えるデジタルヒューマンが普及するようになる。
「大阪万博で担当しているシグネチャーパビリオン『null2(ヌルヌル)』では、中へ進んでいってもらうと、デジタルヒューマンと対話でき、そのデジタルヒューマンを持って帰ってもらえる」と落合氏。「2025年がデジタルヒューマンを持ち帰れ、デジタルヒューマンと会話できるようになるという自分の考えが的中した」と語る。
デジタルヒューマンが実現すると、「人間とは、生き死にとは何かということを考えるようになる」。そして「死生観にまでAIが影響を与える時代になる」と、落合氏は「胡蝶の夢」の故事から解説する。「そのうち、身近で亡くなった人をスマホに入れて会話できるようになるのではないか、お墓に行っても、戒名だけがあるような世界になるのではないか」と予測した。
このようなAIの発達により、自然との融合、未知のものへの恐れ、死生観への影響が生まれ、必然的に「宗教や信仰も変化するのではないか」と落合氏は考えを述べた。AIや計算機技術に対する畏敬の念や、それらとの共存のための儀礼が必要になるというわけだ。
「自然への恐れから、人は神に祈るようになった。五穀豊穣(ほうじょう)を祈願するようになった。それならAIやデジタルという未知のものへの恐れからの救い――例えば、パスワードが流出しませんようにとか、ハッキングされませんようになどと祈るのは至極当然の流れではないか」(落合氏)
このようなデジタルネイチャー時代の宗教観の体現として、最近の落合氏は神社作りに専念している。そして、禰宜(ねぎ)として一定期間働いて神事を行う資格を得て、実際に神事を行ったというエピソードも披露された。
最後に、落合氏は次のような言葉で基調講演を締めくくった。
「カルチャーの中にAIをいかにフィットさせるかということに興味があり、AIアートを作ったり、デジタルヒューマンを作ったり、神社を作って禰宜をしたり、さまざまなことをしている。これからの時代、家でつまみを作るようにAIに音楽を作らせて友だちにシェアするようになるだろう。AIがコンテンツを作成したり、システム最適化のループを高速化したりするが、結局は人間がキュレーションしなければいけない。それが重要な点だ。AIが皆さんの人生を冒険的なものに変化させられるのを応援するような活動を、これからも行っていきたい」(落合氏)
●生成AIとビジネスの“いい感じの関わり”とは?
続いて、会場では「ビジネスとしての生成AI」と題したトークセッションが行われた。登壇したマヨラボ 共同代表/CEOの片岡翔太郎氏は、AIが発達し続けているおかげで、「これまで登記のことなど事務作業が面倒で、能力はあるのに起業しなかったような人でも、事務作業を請け負うAIエージェントにより、起業しやすくなるのでは?」と展望を述べつつ、「AIを活用したツールの作成や、世界に通用するIPの多さなどの分野で日本は強いので、どんどん起業してほしい」と来場者にエールを送った。
ファシリテーターのAINOW編集長 小澤健祐氏は「取材前に、AIが対象者の好みなどを把握し、質問項目をある程度作ってくれるようになるのではないか」と期待する。
AI CROSS 代表取締役CEO 原田典子氏は「自分の講演を全てテキスト化し、プールしておいて、質問を投げかけるだけで言いたかったことを言語化できるようになった。質問するだけで原稿が完成するようになるのかも?」と語る。
最後にIT批評家 尾原和啓氏は、「論理的な壁打ちはAIに任せれば良い。それらがスピードアップして取り組み、人間側はそれを消化して直感を磨いていけば良い。最終判断を下すのは人間の仕事なのだ」と締めくくった。
●エッジAIの進歩を感じさせる展示も
会場には、協賛会社による展示ブースも開設されていた。
インテルでは、エッジAIを生かしたフリーソフト「OpenVINO ツールキット」のデモンストレーションを行っていた。
AI PCのカメラが捉えた映像をリアルタイムで解析し、骨格の重畳表示を行うというものだ。カメラが捉えた人たちの頭/肩/肘/腰/膝などとそれぞれをつなぐ線がディスプレイに表示されるのが、見ていて楽しい。モーショントラッカーをつけることなく、無料でここまで解析できるのかという驚きもあった。
担当者は、「今回の展示のため初めて触ってみたが、意外なほど簡単に実装できた。これを元にしてアニメーションを作るなど、さまざまな展開が望めそうなので、興味のある人はぜひやってみてほしい。無料ですし」と語っていた。
日本マイクロソフトでは、THIRDWAVEブランドのCopilot+ PCを展示していた。一般的なビデオ会議ツールには、背景ぼかしやバーチャル背景を表示するような機能があるが、Copilot+ PCではエッジ側(OS標準の「Windows Studio Effects」)で処理できる。PCに搭載されるNPUを使うため、遅延のない処理、消費量の少ない電力などのメリットも得られるという。
「2024年内には、PC上で作業したありとあらゆることを振り返ったり検索したりできる『リコール』や、Windows標準アプリで不要なオブジェクトを消せる『コクリエイター』、ビデオ会議の音声をリアルタイム翻訳して(現在は英訳のみ対応)字幕表示する『ライブキャプション』など、NPUを活用したAI機能で、ビジネスが加速する仕組みを搭載予定です」と担当者が語っていた。
もちろん、主催のサードウェーブもCore Ultraを搭載したTHIRDWAVEブランドの法人向けノートPCや、ビジネス向けミドルタワー「raytrek 4C」などを展示していた。
その他、「第三回AIアートグランプリ」ノミネート作品や24時間AIハッカソンの各会場優勝チームの展示も行われていた。
今回の展示作品は、もともと絵心がある、才能がある人の作品かもしれないが、最新の画像生成AIでは、ラフスケッチでもそれなりのイラストに仕上げてくれる。落合氏が語っていたように、「誰もが酒のつまみを作るかのように」コンテンツを作る――そんな未来がもうそこまで来ているのかもしれない。
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