石垣市、NTT西日本、NTTビジネスソリューションズ、マクニカ、東運輸は、石垣市における「地域住民向けの持続的な交通手段の維持」や「観光客向けの二次交通手段の拡充」という地域課題の解決に向けて、2024年11月12日から11月16日まで自動運転の実証調査を実施。実証走行区間は、石垣港新港地区旅客船ターミナル〜南ぬ浜町緑地公園〜石垣港離島ターミナル間となっている。
本実証調査の開始に先立ち、2024年11月11日、ユーグレナ石垣港離島ターミナルにて、セレモニーとして自動運転EVバス実証実験出発式および次世代モビリティ(自動運転EVバス)の試乗体験会を実施。セレモニーには、コンソーシアム事業である石垣市、NTT西日本、NTTビジネスソリューションズ、東運輸に加え、関係団体であるマクニカや各地域コミュニティが参加した。
最初に登壇した、事業コンソーシアムの代表である石垣市市長の中山義隆氏。まずは石垣市における地域公共交通計画について、ライドシェアの規制緩和、乗降場所や時間の自由度の高いデマンド交通の導入に向けた実証実験など、「利便性の高い移動手段の構築」に取り組んでいる状況を紹介。「今後とも市民ニーズに対応した移動手段の多様化とその充実を図ってまいりたい」との意気込みを明かした。
今回実証実験が行われる自動運転EVバスは、公共交通各事業者が抱える運転手の高齢化や担い手不足の課題への対応とともに、「市民や観光客の移動ニーズの高まり」に対する施策であり、平成29年に実施されたユーグレナ石垣港離島ターミナルと新石垣空港間での実証実験に続く、より精度の高い自動運転システムの検証と位置付け。実証実験が行われる、ユーグレナ石垣港離島ターミナルと石垣港新港地区旅客船ターミナル間は、団体の場合は大型バス、少人数の場合はタクシーといった棲み分けが現在行われているが、「自動運転バスが実装されれば、市街地への近距離移動手段として、大きな効果が期待される」との見解を示した。
「今回の実験を通して、自動運転技術の将来的な地域公共交通ネットワークへの組み込みを見据えている」という中山市長。次年度以降、今回の路線のほか、別ルートについて、走行距離なども考慮したうえで実験を進めていくという予定を明かし、今回の実験で有意義な結果が得られること、事故なく安全に運行することに期待を寄せつつ、実証実験への参加を呼びかけた。
一方、マネジメント支援を行うNTT西日本 代表取締役副社長の木上秀則氏は、「なぜNTT西日本が自動運転バスの事業をやっているのか」という疑問に対し、NTT西日本は“声と声を繋ぐ仕事”、いわゆる固定電話、通信の世界に携わる中、その声を繋げていくためにこれまで新しい技術の導入や人材の育成、システムの構築などを行ってきたという経緯に触れた。また、通信を使うことで地方が活性化すれば、通信もより活性化するという考えから、ここ数年、様々な社会課題にチャレンジしているという。
今回の実証実験は、人が主体となる自動運転のレベル2で実施される。「ぜひ、市民の皆さま、観光客の皆さんに乗っていただいて、いろんな意見をいただき、また次に活かしていきたい」と意気込む木上副社長。あくまでも目標は一定の条件で完全に自動運転を実現するレベル4であり「そのための一つの通過点」と位置付け、「ここでの知見をしっかり活かして、また次に繋げる努力をしていきたい」とさらなる展開への想いを明かした。
自動運転導入エンジニアリングおよびサポートなど行うNTTビジネスソリューションズ バリューデザイン部 担当部長の宮崎一氏は、NTT西日本グループにおける自動運転の責任者。昨年末から国土交通省との意見交換を重ねながら、「今回の実証実験が非常に意義深いものとして採択された」といった実験に至る経緯を明かした。
さらに、「この実証実験を全力で成功させて、定期運行、実装というところまで、レベル4でやれるように全力を尽くしたい」という宮崎担当部長は、「ぜひご乗車して、自動運転を体感していただき、この最新技術で石垣市を盛り上げていきたい」と力強く宣言した。
「次世代モビリティは環境負荷の軽減、人員の効果的な配置について、大きな効果があるものと非常に期待している」と話すのは、自動運転の遠隔監視のサポートなどを行う東運輸 代表取締役社長の松原栄松氏。
沖縄では南城市が実験が開始しているほか、日本国内においてもすでにレベル4の区域があるなど、日本、世界で無人運転の動きが進んでいることに触れた。
「石垣においても、新たに自動運転の実験ができることをうれしく思う」と歓迎の気持ちを明かし、東運輸が参加するにあたり「無事故無違反安全をモットーに、いろんなデータを収集し、皆さまと協力しながら、レベルアップの発想のきっかけになれば」と実験に対する意気込みと期待を示した。
今回の実証実験における自動運転EVバスを提供するマクニカホールディングス 執行役員の佐藤篤志氏は、「最先端のテクノロジーをみんなのものに」という同社のスローガンを挙げ、「世界中から半導体やサイバーセキュリティといった最先端の技術を見つけ、目利きして、お客様の声を聞く。そして、技術的な付加価値をつけて、お届けするサービス・ソリューションカンパニー」という立ち位置において、自動運転EVバスもそのひとつであるという。
同社の役割は、自動運転EVバスの車両提供に加えて、ソフトウェアのエンジニアリングサポート、マップの作成をはじめとした事前準備や安全安心を目指した運行のリスクアセスメント、そして東運輸や自治体におけるオペレーターの体制構築など、支援する立場としての活動が中心となっている。
今回の実証実験はレベル2で行われるが、実験で使用される車両はすでにレベル4の機能を実装されており、同社のラボでも検証済みだという。「レベル5、完全にドライバーという概念がなくなってしまうような自動運転の世界、すでにそこを目指してやっている」という佐藤氏だが、「一番大切なのは市民、町の皆さまが主役というところ。それを一番の着眼点として安心安全でやっていきたい」と締めくくった。
○■石垣市における自動運転EVバス実証実験の概要
続いて、NTTビジネスソリューションズの宮崎担当部長が、自動運転EVバス運行の実証実験に関する概要を紹介。現在、全国で自動運転の実証実験が急拡大しており、政府方針では、2027年に100カ所以上で実装するという方針が令和5年の岸田前首相による施策方針で示されているという現状を示した。国土交通省による採択数も昨年度の62件から今年度は99件と急拡大しており、石垣市もその中のひとつとなっている。
この実証実験を積み重ねながら、定期運行、無人運転、そしてドライバーレスの運行と進捗するが、定期運行まで進んでいる自治体はまだ数えるほどしかない状況だという。
NTT西日本グループはマクニカと協力して、現在12の実証事業を展開しているが、使用されている仏・NAVYA(ナビヤ)社のEVOと呼ばれる自動運転EVバスは、無人運転レベル4のために設計された車両で、ハンドルのないドライバーレス設計。バスを改造している自動運転車両とは異なる設計思想で開発されている。
今回8月には、NTT西日本はNAVYA社に資本参加。現在、NTT西日本が約3割、マクニカが約7割を出資している。このNAVYA社の自動運転車両は世界26カ国での販売・走行実績を持ち、10カ国以上で定期運行を実施。アメリカ、フランス、ドイツ、イギリスなど様々な国で採用されているグローバルな車体であり、システムの実績もグローバルの中でトップレベルとなっている。
自動運転レベル4での走行は、専用に作成した街の3Dマップ上に走行ルートを設定。LiDAR情報(赤外線センサ−)とGNSS情報(人工衛星)を組み合わせて3Dマップ上をバーチャルに走行させる事前の設計作業を経た後、実際に走行する際は「歩行者」「自転車」「他の走行車両」などの障害物をセンサーで検知し、危険を予測して減速・停止などが行われる。さらに「everfleet」と呼ばれる遠隔モビリティ管理システムを使ってバスの運行を遠隔の監視室からもチェックする仕組みとなっている。
今回の実証実験で実施される「自動運転レベル2」は、人(運転手)が同乗して、何かがあれば人が対応する「高度な運転支援」と定義されている。実際、実証実験においては基本的にほとんどのシーンが自動で走る設計となっているが、地点によって手動に切り替わるところがあるため「レベル2」としての実施となる。
セレモニー当日の試乗コースは、「ユーグレナ石垣港離島ターミナル」から「南ぬ浜町緑地公園」までの約1.5kmを折り返す約20分の行程。11月16日まで行われる実証実験はさらに「石垣港新港旅客船ターミナル」までの往復およそ6kmのコースが使用される。
○■中山市長が自動運転EVバスを体験
セレモニーの後、中山市長ら関係者が自動運転EVバスに乗り込んで試乗。今回初めて自動運転EVバスを体験したという中山市長は「非常に乗り心地も良く、走行もスムーズ」と満足げな表情を浮かべた。
「現在レベル2の実証実験で、安全のためにドライバーさんもついていますが、できるだけ実験を重ねて、早い段階で本当にドライバーなしのレベル4の実装に持っていきたい」との展望を明かし、ターミナルから市内までの移動や市内を循環するバスとしての活用を想定する。
中山市長は「ぜひ実証実験期間中、多くの皆さまに体験していただきたい」と市民の積極的な参加を呼びかけた。(糸井一臣)