「お前はどうしたい?」しか言わない上司の自己満足 「考えさせる風」コミュニケーションが招く悲劇

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2024年11月13日 08:41  ITmedia ビジネスオンライン

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「お前はどうしたい?」は便利なせりふだ(写真はイメージ)

 「お前はどうしたい?」という問いかけが、職場で頻繁に聞かれるようになった。リクルートの企業カルチャーが発祥とされるこの言葉は、部下の成長を促す効果的なフレーズとして広く認知されている。しかし実際には、上司の自己満足で終わってしまうケースが多い。


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 なぜなら部下は明確な答えを求めているのに、上司は思考を深めるための問いかけのつもりだからだ。この認識のズレが、若手社員の成長を阻害する要因にもなっている。


 今回は「お前はどうしたい?」という言葉の真の意図と、その落とし穴について解説する。若手の育成に携わるマネジャーはもちろん、部下の成長に悩む上司にとっても参考になる内容だ。ぜひ最後まで読んでもらいたい。


●リクルートで「お前はどうしたい?」と聞く意図


 「お前はどうしたい?」という問いかけには、当事者意識を醸成する狙いがある。部下に自分で考えさせ、自発的な行動を促すためのものだ。実際にリクルートでは、この言葉を通じて多くの人材が育っている。


 創業者の江副浩正氏は、社員に対して「こうしろ」とは言わなかった。代わりに「君はどうしたいの?」と問いかけ続けた。それは自分で考え、決断する力を養うためのようだ。この考え方は今でも、リクルートの企業文化として根付いている。


 このように「お前はどうしたい?」という問いかけには、深い意図が込められている。単なる思考の促しではなく、リクルートという企業の価値観そのものが表現されているのだ。だからこそ多くの社員が、この問いかけを通じて成長を遂げてきた。


 しかし、この手法を他社でまねしても、同じような効果は期待できないのではないか。なぜなら、この問いかけの背景にある企業文化や価値観が伴っていないからだ。単に言葉だけをまねても、相手に意図は伝わらないものだ。


●「お前はどうしたい?」しか言わない上司3つのタイプ


 このフレーズだけを連発する上司には、次のような3つのパターンがある。


1. 答えを持っているのに教えたがらない


2. 答えが分からないので尋ねる


3. 答えを教えるべきなのに優越感に浸りたい


 第1に、答えを持っているのに教えたがらないパターンだ。


 「大きな商談が入っているのに、先輩から勉強会の講師をやってくれと言われています。どうしたらいいですか?」


 部下からこのような相談を受けたとしよう。今回の大型商談を決めないことには、今期の目標達成が見えない。勉強会の講師なんて引き受けている場合じゃないだろう。そう上司は言いたいが、それでも、


 「お前はどうしたい?」


 と尋ねる。部下に考えさせることで成長を促したいからだ。考えあぐねて焦っている部下を見ても冷静に対応する。


 「そんな顔をしても、答えは教えないぞ。お前はどうしたい? よく考えるんだ」


 第2に、上司自身も答えが分からないので尋ねるパターンだ。


 「お客さまの課題解決の提案をしたいと思っています。しかしいろいろとヒアリングしたら課題が山積みで……。どこから手をつけたらいいのか分かりません」


 部下からこのような相談を受けたとしよう。しかし上司も判断がつかない。あまり深く考えたことがない上司は、具体的な事情を知っても答えを見いだすことができそうにない。適切なアドバイスも思い浮かばない。そういう場合、


 「お前はどうしたい?」


 と尋ねて逃げるのだ。部下に考えさせるためではなく、自分の中に答えがないのでそう問いかけるしかないのだ。


 「考えても分かりません。課長はどう思いますか?」


 と聞かれても、


 「大事なことは、お前がどうしたいか、だ」


 と言って逃げる。


●優越感に浸りたいだけ?


 第3に、答えを教えるべきなのに優越感に浸りたいパターンだ。このパターンが厄介である。


 「お客さまから財務分析をしてくれと言われました。資料作成についていろいろと教えてください」


 部下からこのような相談を受けたとしよう。しかしマウントをとりたい上司は、こう尋ねるのだ。


 「お前はどうしたい?」


 と。部下が財務分析に関してそれなりの知識、経験があるのならこのように考えを促してもいいだろう。しかしもし前提知識や経験が足りない場合は、考えようがない。


 「どうしたい? と聞かれても、まったく経験がないんで」


 「あれ? 社内研修で習っただろ?」


 「研修で習いましたけど、基本的なことしか教わってません」


 仮説も立てられないような部下であれば、答えを教えてあげるべきだ。


 「まず直近3期の財務諸表を準備してくれ。そして企業の状況を把握したあと、安全性分析から始めるか、それとも収益性分析や生産性分析でいくか決めよう」


 このように助言すれば、


 「分かりました。まずは財務諸表を準備します」


 と部下は答えられる。さすが上司だ、明確なアドバイスをもらえた、とホッとするだろう。反対に、


 「お前はどうしたい、と俺は聞いてるんだ」


 と言い続けたら、どうか。部下の安心安全の欲求は満たされない。一歩間違えれば「ハラスメント」と受け止められる可能性もある。


●自己満足を味わう上司たち


 前述した通り、部下に「お前はどうしたい?」と尋ねる上司の中にも、いろいろいる。キチンと部下の成長を考えて問いかけている場合もあれば、アドバイスするのを逃げる場合も、マウントをとりたい場合もあるのだ。


 ただ、どのケースであっても「お前はどうしたい?」と問いかけている上司が「上から目線」的であることは間違いない。本人にそのつもりはなくても、部下からすれば、


 「どうしてアドバイスしてくれないんだ?」


 「ひょっとして課長も分からないから?」


 「優越感に浸りたいだけ?」


 と疑念を抱いてしまうこともあるだろう。


 質問とは、分からないことを尋ねること。設問とは、問題を設定して尋ねること。問いとは、お互いが分からないことを尋ねることだ。


●どのスタンスで部下と対話をするのか


 上司はこの3つの違いを正しく理解して部下とコミュニケーションをとるべきだ。部下が困って相談に来ているのに「設問」スタイルで尋ねられたらイラっとするだろう。


 不確実性の高い時代だ。今は質問や設問よりも「問い」の重みが増している。部下が分からないだけでなく、上司も答え(仮説)が思い浮かばないことが多いのだ。


 だから「お前はどうしたい?」という問いかけよりも、「実は私も分からないことが多い。一緒に考えないか?」このように共創していく姿勢のほうが大事になってくるだろう。


●誠実な上司は部下にどんな問いかけをするか? 3つの問い


 最後に、本当に部下の成長を促したいなら、次のような問いかけを心がけよう。意識すべき3つの問いかけを紹介する。


1. 「今の状況をどう捉えているか?」


2. 「そもそも目的は何だったか?」


3. 「どこに問題があると思うか?」


 まず、部下が現状をどのように理解しているかを確認する。これが現状把握だ。続いて、あるべき姿を問うてみよう。具体と抽象の往復運動をさせるのだ。そうすれば「問題=あるべき姿−現状」なので、問題点がハッキリとイメージできるようになるはずだ。


 「お前はどうしたい?」


 という抽象的な質問よりも、こうしたほうが部下は考えやすいはずだ。問いの切り口が具体的だからだ。くれぐれも、


「最近どう?」


「何かあったらいつでも相談して」


 といったアバウトな声掛けで上司が自己満足してしまうのは避けたいところだ。ぜひ具体的な切り口を意識して部下とコミュニケーションをとろう。


 著者・横山信弘(よこやまのぶひろ)



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