かつてお荷物球団とまで呼ばれたレイズが再び苦境に陥ろうとしている。
レイズは、1998年に球団拡張(エクスパンション)の一環としてダイヤモンドバックスとともに誕生。創設4年目に世界一に輝いたダイヤモンドバックスとは対照的に、当初は10年連続でシーズン負け越しを喫する弱小チームだった。
ところがチーム名をデビルレイズからレイズに変更した08年に“突然変異”。初のシーズン勝ち越しに留まらず、一気にア・リーグ優勝を果たすミラクルを演じた。ワールドシリーズではフィリーズに敗れたものの、その後も強豪がそろうア・リーグ東地区で安定した成績を残している。
特にここ数年は徹底的なデータ野球に加えて、ケビン・キャッシュ監督の卓越した戦略眼が相まって毎年のように地区優勝争いを演じ、20年にはチーム史上2度目のリーグ制覇を成し遂げた。
低予算ながら若手の発掘や育成に力を入れることで、スター選手がそろうヤンキースやレッドソックスとも対等に戦えることを証明してきたレイズ。ところが、今季は状況が一変した。
4月を終えて借金3つのスロースタートを切ると、終始勝率5割前後を行ったり来たり。最終的に80勝82敗の成績で7年ぶりに負け越しを喫し、ポストシーズンも逃す結果に終わった。その一因となったのが、チームをけん引する役割を期待されたワンダー・フランコの不在だ。
フランコは2021年にメジャー屈指の若手有望株としてデビュー。メジャー3年目の昨季は112試合に出場し、打率.281、17本塁打、58打点をマークし、初のオールスターにも選ばれた。
ところが、未成年の少女への性的虐待疑惑が取り沙汰され、昨年8月に制限リスト入りすると、今季も休職状態のまま。フランコは故郷のドミニカ共和国で来月の公判を待っていた。
そして数日前に入ってきたのがフランコ再逮捕の報道だ。地元警察の発表によると、同国サンフアン・デラ・マグアナ市のマンションの駐車場で拳銃沙汰の騒動が起こり、フランコの他に男女2人が警察の聴取を受けたという。
フランコは21年オフに11年総額1億8200万ドルの大型契約をレイズと合意していたが、制限リストに入って以降は給与を打ち切られている。年齢は23歳と若いが、再びメジャーの舞台でプレーすることは現実的に厳しいと言わざるを得ない。
ただ、フランコの不在は戦力的に大きな痛手となった。もし予定通り今季も遊撃のレギュラーを担っていれば、間違いなくヤンキースとオリオールズとの優勝争いに食い込んでいたはず。最後までフランコの穴を埋められなかったことも大きく響いた。
そして、レイズに追い打ちをかけたのが先月フロリダ州を襲ったハリケーンだ。本拠地のトロピカーナフィールドは屋根が大破するなど甚大な被害を受け、来季中の復旧は絶望的とされる。球場の修復には多大な費用がかかる見通しで、今後のチームの財政状況だけでなく、28年に開場を予定する新球場の建設計画にも影響を及ぼす可能性が高い。
常勝軍団となりつつあったレイズにとって、トップ選手の離脱と新たに浮上した本拠地問題は大きな逆風といえるだろう。
ただ、これまで幾多の困難に立ち向かってきたレイズだけに、戦力的にはフランコの不在を乗り越えられるかもしれない。
奇しくもフランコの代わりになり得る遊撃手の有望株がいるからだ。
その選手とは21歳のカーソン・ウィリアムス。2021年のドラフト1巡目(全体28位)でレイズに指名され、18歳でプロ生活をスタートさせた。順調にマイナーの階段を駆け上がり、今季は2Aで115試合に出場し、打率.256、20本塁打、69打点、33盗塁をマーク。打撃はまだ粗削りで、三振も多いが、将来的には「30-30」のポテンシャルを秘めている。
実際にMLB公式のプロスペクトランキングで23年度は72位だったが、今年度は一気に4位まで上昇。2〜3年後にはオールスター級の選手に育っていてもおかしくないだろう。
順調なら、来季途中にもメジャー昇格が期待されるウィリアムス。フランコに代わる遊撃手として新球場がオープンする頃にはチームの主軸に育っているか。レイズの命運はウィリアムスが握っている。
文=八木遊(やぎ・ゆう)