FIFAワールドカップ26アジア最終予選の序盤4戦終了時点で勝ち点10を稼ぎ、グループCで断トツのトップに立つ日本代表。11月15日、19日のインドネシアと中国のアウェー2連戦で6ポイントを上積みできれば、本大会切符の獲得も早々見えてくる。
とはいえ、今回の両国はいずれもアウェームードが凄まじい。特にインドネシア戦は7万8000人収容のゲロラ・ブン・カルノ・スタジアムが超満員に膨れ上がる見通し。加えて、時折、特有のスコールもやってくる。
2018年に同国で開催された第18回アジア競技大会に参加した旗手怜央も「(現地の)経験はありますけど、普段生活しているところとは気温が20度も変わるので、行ったことがあるから適応しやすいということはないと思います」とコメントしている通り、環境適応含めて難しい戦いになるのは間違いない。
日本としては早い時間帯に先制点を奪い、優位にゲームを運びたいところ。そこで注目されるのが、1トップ先発が有力視される小川航基だ。今回は最終予選過去4試合連続スタメンの上田綺世が負傷で招集外となっており、全試合で後半途中から出ている小川にその重責が託されることが見込まれる。
「こういうチャンスをしっかりと自分のものにしたいと思っています。本当に簡単な試合ではないし、簡単に点を取れる相手でもないけど、僕自身がこの2試合でどれだけ点を取れるかに(チームの成否が)かかっていると思っているので、自分も期待していますし、楽しみですね」と、小川は持ち前の明るさを前面に押し出した。
2019年のEAFF E-1選手権の香港戦で初キャップを飾り、2023年になってから日本代表に復帰した形だが、代表6戦7発という驚異的な決定力を発揮している。しかもアウェー戦は全試合ゴール中。今回もアウェー2連戦ということで、連発への期待は高まる一方だ。
「自分はこのチームの中で一番点を取れる選手だと思っている」と本人も口癖のように言うが、非凡な得点感覚は森保一監督以下、チーム全員が認めるところだろう。しかも今は所属のNECで公式戦3試合連続ゴール中と勢いに乗っている。
「今は間違いなくいい感覚にあると思うし、グッと力が入りすぎていない感覚がある。それだけ体のコンディションも上がってきたということ。その状態を良くして、いい準備ができれば、しっかりとボックスの中で駆け引きしてゴール前に入っていけると思う。現地の注目も含めて本当においしいというか、楽しみで仕方ないです」という小川のギラギラ感は実に頼もしい。
対するインドネシアは国外組が16人、欧州組が11人という陣容。小川のチームメートであるDFカルフィン・フェルドンクも名を連ねている。彼らが日本を警戒して自陣を固めてくるのか、それとも今年初めのAFCアジアカップカタール2023で対戦した時のように高い位置から守備を仕掛けてくるのかは未知数だが、どういう出方をされても的確な対応力を示すことが肝要だ。
「(フェルドンクとは)個人的に仲が良くて、チームの食事のテーブルも一緒ですし、外でご飯を食べたりとかもしている。チームの(ロジェール・マイェル)監督も『両方応援する』ということだし、みんな見てくれると思う。代表のチームメートにはしっかり彼の情報を伝えたい」と相手守備陣の特徴も頭に入れつつ、対応策を練っていくという。
相手が守りを固めてくれば、小川の高さと競り合いの強さが生きるだろうし、ハイプレスを仕掛けてくるなら背後を取る動きを出せばいい。上田も万能型だが、小川も十分多彩な仕事ができる選手。その能力の高さを大いにアピールし、ライバル不在の間に代表レギュラーをつかみにいくべきだ。
考えてみれば、もともと小川は東京オリンピック世代の最初のエース候補だった。2017年のU−20ワールドカップの頃は板倉滉、堂安律、冨安健洋ら現代表主軸メンバーとともにチームの中心と位置づけられていた。だが、その後はジュビロ磐田で長い足踏み状態を強いられ、その間に一つ年下の上田に抜かれる形になった。
森保一監督が率いた東京オリンピック世代にとって、最初のビッグトーナメントだったのが、前述の2018年のアジア大会。会場は今回と同じジャカルタだ。この舞台でメンバー外だった小川と対照的に、上田がエースとして活躍。自らの地位を強固なものにしていくきっかけをつかみ、6年の月日が経過したのである。
ある意味、因縁の地ともいえる場所で、小川は自身が本来いるべき場所に戻るための大仕事をしなければいけない。日本を勝たせるゴールはもちろんのこと、攻守両面での献身やハードワークを高いレベルで示すことこそが、定位置奪取の重要ポイントになるはず。
「僕自身、ここに来るまでに本当に長い時間がかかってしまったし、この時間を取り戻すくらいの活躍をしないといけない。今までの自分の過去もしっかり吸収して、準備したいと思います」と本人も野心をのぞかせる。
27歳になったアグレッシブな点取屋の本領発揮を心待ちにしたい。
取材・文=元川悦子