2024年11月6日、NECは東京都子ども政策連携室と協力し、職場での「育業」支援に関する研修を実施した。オンラインを含め管理職を含む社員約200人以上が参加。研修講師として登壇したフリーアナウンサーの武田真一さんと厚生労働省 東京労働局 指導課 統括雇用環境改善・均等推進指導官の横山ちひろさんの講義や、グループワークを通して育業の現状や課題などについて理解を深めた。
○育休ではなく育業
「育業」とは、東京都が推進する新たな育児支援の愛称で、「休暇」のイメージが根強い「育児休業」を「将来を担う子供達を育てる業務」として捉え直す試みである。育児を社会全体で支える重要な仕事と位置付けることで、男女問わず育児への参加を促進して職場環境の改善を図るものである。
○育業取得の男女差は依然として高い
武田さんはNHKに務めている時、育児と仕事の両立の難しさに直面して、あまり育児に参加できなかった過去を振り返る。「妻に任せっきりにしてしまったことを今でも後悔しています」と述べ、育児ができる時間は限られるため、後からでは取り戻せない重要な経験であると強調する。
その後、武田さんは都内女性(92.9%)、全国女性(84.1%)、都内男性(38.9%)、全国男性(30.1%)と令和5年度の育児休業取得率を紹介。男性も増加傾向ではあるが、男女差は依然として高いという。加えて、全国平均よりも都内在住者の育児休業取得率が高いことにも触れ、都市部と地方における育児休業取得の格差を指摘する。
男性の育業取得の期間は伸びているものの、依然として女性のほうが期間が長く、男女差が縮まっていない現状を示した。
○数えきれないほどのメリット
研修中盤では育業取得を促進することによるメリットをグループで話し合う。「育業を取得した人が担っていた業務を若手社員に任せることで、成長の機会につなげることができる」「女性の管理職を増やすことにつながり、ダイバーシティある視点で経営ができ、いろいろなリスクを回避しやすくなる」「企業のブランドイメージが向上するため、人材が集まりやすくなり、投資の対象としても選ばれやすくなる」など、多角的な視点からメリットを参加者は口にした。
参加者の意見を聞いたうえで、武田さんは育業取得のメリットを紹介する。積極的に育業を取得した人はそうではない人と比較して会社への帰属意識が高い傾向にあるという。また、就職先を選ぶ際に育業の重要度が高まっており、「就活生の企業選択において育業は常識になっています」と話す。
さらには、「育業に消極的な企業は投資家や消費者から厳しい評価を受けかねない」「育業が長期間のほうが、より一層生産効率化に取り組むようになるため、労働生産性の向上につながる」といった経営者目線における育業取得を促進するメリット、もとい促進しないことで生じるデメリットを述べた。
○夫婦の愛情にも大きく影響
経営者目線だけではなく当事者目線でのメリットも掘り下げていく。出産前にパートナーに向けられた女性の愛情は、出産後には子供に大部分が向けられるが、子供の成長に伴ってパートナーに向けられる愛情も徐々に変化するという。
「出産直後は2人で子育てした」と回答したグループでは女性の愛情が回復する一方で、そうではないグループでは女性のパートナーへの愛情は低迷を続けると指摘。出産直後の大変な時期に子育てを夫婦でシェアできるかどうかが、その後の愛情に大きく影響すると話した。
これだけメリットが豊富であるにもかかわらず、育業取得があまり進んでいない背景として、武田さんは「企業側にとっては、人手不足や業務のクオリティ低下、『しわ寄せが来るんじゃないか?』ということがあります。また、当事者にとっては、経済的、業務的に不安を覚えやすい。『周りからどう思われるのか』『昇進に影響するのか』といったものもあります」という。
こういった不安を解消するため、社内制度の改革や組織風土の改善などの必要性を訴えた。
○育業の取得パターンは多い
後半、横山さんが登壇して育業という制度を解説。育業は主に「産後パパ育休」と「育児休業」に大きくわかれており、それぞれの違いを述べる。
続けて、子供が1歳になるまで2人で取得したり、出産直後の大変な時期に父親が取得したりなど、「産後パパ育休」と「育児休業」を上手に活用した8つのパターンを提案。さらには、子供が1歳2カ月になるまで育業を取得できる制度「パパママ育休プラス」を活かしたパターンも紹介する。
また、育児休業を取得した人の穴埋めのために契約社員や派遣社員を採用したり、穴埋する人を採用しない場合には頑張って働いた労働者に手当や賞与を与えたりなど、不公平感を生まないための組織作りについても触れた。
○まずは年休から
横山さんは育児休業取得を促進するためにまず取り組むべきことを述べる。「もし、職場の男性が育業することになった場合、あなたはどう思いますか?」という問いと比較して、「自分が育業することになった場合、上司はどう思うと思いますか?」という問いに「賛成」と回答した人は少なかった。このアンケート結果から、上司は育業取得を歓迎していない可能性を危惧している部下が多いと推測。
そういった部下の不安を取り除くため、「年休を管理職が使っていない状態で、『育業を1カ月取得させてください』とはなかなか言い出しにくい。まずは年休からです」と育業取得を促進するための第一歩を口にした。
育児休業が取得しやすくなれば、会社を休みやすい組織や雰囲気が作られるため、未婚の人にとってもメリットが大きいように思う。休みやすい社会を目指すためにも、まずは育業という言葉が広まっていくことに期待したい。
望月悠木 この著者の記事一覧はこちら(望月悠木)