生成AIで「架電数60%増、大幅コストカット」 マネフォの営業・マーケに迫る

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2024年11月15日 07:41  ITmedia ビジネスオンライン

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生成AIで「架電数60%増、大幅コストカット」

 ビジネスにおける変化の速さと競争の激しさは年々増している。一方、人手不足に悩む企業も多い。そんな逆境の中で「売れる営業組織」を作るためには、テクノロジー活用が不可欠だ。特に近年話題となっている生成AIを活用できないだろうかと考える企業は少なくないだろう。


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 本連載では、いち早く営業フローに生成AIを組み込んだ企業に取材。どのように役立ち、どのような成果が得られるのか、最先端の取り組みを紹介する。


 初回となる今回は、バックオフィス向けSaaSなどを提供するマネーフォワード(東京都港区)を取り上げる。同社は生成AI活用により、インサイドセールスでは架電数約60%増、マーケティングではSEO記事の作成コストを約60%カットするなど目覚ましい成果を得ているという。営業活動のどの部分で、どのように生成AIを活用したのか。回答者はグループ執行役員 AI活用推進担当の工藤 裕之氏。


●Q:営業活動のどのような部分に、生成AIを活用しているのか


 2023年の11月頃から、現場レベルでAIの活用を始めました。


 マーケティングでは、SEO記事作成などに活用しはじめ、現在はわずかな工程で記事作成ができる、誰でも使いやすい社内ツールを開発し、利用しています。


 インサイドセールスでは、商談前のトークスクリプト作成と、フィールドセールスへの引き継ぎメモ作成に活用しています。


 フィールドセールスにおいては、セールスフォースと社内の議事録生成ツールをつなげた自社ツールにより、ワンクリックで商談後メモを入力できる仕組みを作りました。


●Q:生成AIを営業フローに導入した際、難しかったことや当初の想定と異なった点


 一部の現場で始まった優れた取り組みを、他の組織へ横展開するには工夫が必要でした。


 例えば、現場の担当者からSlack上にノウハウ投稿するなどの形で、ナレッジ共有を行うだけでは、なかなか活用のレベルは上がりません。


 そこで、朝会などの場で全社に取り組みを発信したり、昼休みに実施しているオンライン勉強会のコンテンツに組み込んだりすることで、メンバーの目にとまり「自分ごと」として捉えてもらえるよう、徐々にナレッジを共有しています。


 またAI活用は、職種を横断して業務プロセスごと検討する必要があると感じています。例えば、仮にAIを活用してフィールドセールス組織の効率が上がっても、その変更によって前段のインサイドセールスが非効率になる、ということでは意味がないと思います。そのため、一連の関連する業務フローを洗い出しながら、全体が効率化するように検討を進めています。


●Q:生成AI活用によって、現時点で得られている成果


 マーケのSEO記事作成業務では、AIを用いて記事を制作した場合・そうでない場合の比較で、約60%のコスト削減効果がありました。


 インサイドセールスでは、事前トークスクリプト作成の手間を削減した代わりに営業架電数が増加した他、インサイドセールスからフィールドセールスに商談内容を引き継ぐ際のメモの作成時間が、複数部署合計して「月当たり約230時間減」と大幅に削減されました。


 フィールドセールスにおけるセールスフォースと社内の議事録生成ツールをつなげた「Scribe for Salesforce」の取り組みでは、こちらを導入したHRソリューション本部のフィールドセールスのうち、導入10日目ですでに87%のメンバーが活用していました。


 現場からはアンケートで下記のような声が上がっています。


まとまっているし、自分の記憶よりも正しい気がする


ほとんど修正が要らないように思える


お客様の反応が良かった時などに、こちらがメモをとっていると商談が盛り下がってしまうので、メモ作成の自動化はありがたい


以前よりも商談の内容に集中でき、お客様とのコミュニケーションがはかどるようになった


お客様への議事録送付をスピード感をもって行える


●Q:営業業務にAIを導入した理由や解決したかった課題、危機意識


 SaaSの営業は、商談獲得をミッションとするインサイドセールスからフィールドセールスにお客様との商談内容を引き継ぎ、受注に向けて動いていく「The Model」型です。


 そのため、商談獲得数が増えるごとに、引き継ぎ情報を記載するのに労力がかかっていたほか、引き継ぎメモのクオリティーがインサイドセールスの担当者によってばらつきがあり、質が均一化されていないという課題がありました。


 また、架電前にトークスクリプトを用意するなどの下準備に追われ、顧客との対話に至るまでに工数がかかっていました。


●Q:課題・危機意識はAI導入によりどの程度解消したか


 引継ぎメモの作成時間が平均80%削減され、1件当たりのメモ作成時間が10分から2分に短縮されました。


 1時間当たりの架電件数も平均60%増加しました。


●Q:AIを活用するに当たり気を付けていること


 重要なのは、安全性と利便性の双方を担保した環境整備と、メンバー間におけるAI活用の機運醸成であると思います。


 環境面では、社内用のChatGPT環境「MF AI Chat」を整備しました。これまでセキュリティの観点から、業務での使用に申請が必要であったChatGPTを、より効率的かつ安全に、社員であれば誰でも使えるようにしました。「MF AI Chat」はChatGPTをラッピングしたツールで、GPTだけでなく、Claudeなど、さまざまなLLMモデルを活用できます。


 また、AIに関する社内ガイドラインも整備しました。権利関係の注意喚起や、どのデータをどのツールに使用可能かを判断できるカテゴリー判定表などを社内に展開しています。


 機運醸成の方法としては、社内の有志メンバーによるAIコミュニティーを作り、情報交換や悩み相談、アイデア出しなどを活発に行えるようにしました。部署役職を超えてオンライン上に集まったコミュニティーメンバーが、業務にすぐ使えるスクリプトのテンプレートを「MF AI Chat」にあらかじめ登録してくれたり、インサイドセールス向けの勉強会を開催したりすることで、これまでAIを触ったことがなかったメンバーも気軽に試そうと思える空気作りを意識しました。


 そして現場のメンバーにとって、便利で使ってみたいUXになることにこだわり、企画・開発をしています。例えば、セールスフォースとの議事録連携は、フィールドセールス担当者側のアクションがワンクリックで完結する、というシンプルな体験にこだわりました。


●Q:この先、AIは営業の業務をどの程度代替できると考えるか


 米Gartnerは「2028年までに営業担当者の業務の60%はAIによって実行される」と、また、米McKinsey&Companyは調査の結果「営業業務の約3分の1が現在のAI技術の活用により自動化できる」としており、私も基本的にはこの考え方に同意します。


 特に商談前の企業調査や分析、仮説検証や提案資料作成、また、商談後の議事録や契約業務、見積作成などのいわゆる事務業務はほぼAIにより代替が可能と考えています。


 一方で、商談「中」に関しては、まだまだ人間が時間を費やすべきだと思います。営業が担うべき業務の本質は、「顧客の成功へのコミット」ですので、AIで削減できた時間を、顧客とのコミュニケーション部分にもっと費やす必要があります。


 具体的には、業務に関するお困りごとのヒアリングや、業務改革の提案、そして成功に向けて顧客と伴走することなどは、引き続き人間が担うべきだと思います。


 将来的にはこういった部分もAIによる代替やアシストが行われていくかもしれませんが、AIから得られる予測や分析結果には、まだ正確とは言い切れない部分もあるため、当分の間は人に代替するまでのレベルにはならならないと思います。


●Q:今後の目標や展望


 マーケ、インサイドセールス、フィールドセールスの具体的施策については、まだ一部の部署の利用ですが、すでに効果が出ているので、早期にグループ全社への展開を図ります。


 また、商談中のAIアシスト機能も充実させる予定です。当社は扱うプロダクトが多岐にわたるため、1人の営業担当者が全てのプロダクトを提案するにはハードルがあります。そこをAIが支援できるかどうかは、かなり伸びしろのあるテーマだと思います。


 そして、集積された商談データを集合知化することで、プロダクト開発やユーザーへのサポートの充実、新入社員の研修など、営業の領域を超えて発展させていく予定です。


 こういった取り組みを通じて、顧客にとってのUXの最大化にもつなげていきます。困ったときの窓口担当が統一されていたり、サポートのスピードが速く正確だったり、使いたいときにすぐ使いはじめられたり、顧客にもっとファンになってもらえるような体験を提供していきたいと思います。


 そして、当社のValuesの一つでもある「User Focus」を実践できるよう、営業担当一人一人が顧客に向き合う時間を最大化していきたいです。それにより、営業担当自身も、自分の介在価値の重要性を認識でき、より生き生きと働けるようになるのではと思います。AI活用による業務効率化はゴールではなく、その先に、顧客のUX向上や、営業担当者自身の満足度向上をはかれる、グッドサイクルの構築をしていきたいと思います。



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