長かった夏もようやく終わり、太陽光発電の今年の成績が気になるタイミングに近づいてきた。2023年度は、発電過剰で使いきれず無駄に電力を捨てた、いわゆる出力制限量が全国で計約19.2億キロワット時に達したことが明らかになり、大問題となった。約45万世帯分の年間消費電力量に匹敵する電力が、無駄になったことになる。
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現在電力市場では、需要と供給のバランスによって、30分ごとに電力料金が変動している。こうした市場連動型の電力プランを提供する事業者もある。実際電力小売事業の「Looop」では、市場連動型電力プランとして「スマートタイムONE」を展開している。
とはいえ、電気が安い時間帯は真っ昼間であり、その時家にいればどうにかできるが、普通は会社に行ったりして留守のことも多いだろう。安いからいっぱい使えといわれても、人が太陽光発電の都合に合わせてリアルタイムに対応するには限度がある。
じゃあそこに家庭用蓄電池を挟んで、電気料金の安いタイミングで充電し、高いタイミングで放電するようにプログラムを入れたらいいんじゃないか、という話になる。実際そういうことができるのか、実証実験がスタートする。
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11月1日、電力小売事業の「Looop」、クラウド上で電力量印変動を監視してバッテリーの充放電を制御する「Yanekara」、ポータブルバッテリー大手の「ECOFLOW」の3社が共同で、限定100セットを市販し、最大1年間の実証実験を行うことが発表された。
仕組みとしてはこうだ。Yanekaraが開発するクラウドサービス「YanePort」が、日本卸売電力取引所(JEPX)のデータを参照する。独自アルゴリズムにより、電力が「安い」と判断されれば、契約済みのECOFLOW「DELTA 2」に対して充電するようコマンドを投げる。「普通」の場合はパススルーで電気を右から左へ流し、「高い」場合は系統電力からの給電をカットしてバッテリー出力に切り替える。電力契約は「Looopでんき」が担当する。これにより、年間数千円の電気代節約が期待できるという。
この実証実験は、電気代をお得にできるか、というシンプルな話ではない。現在横たわる電力問題に対する、さまざまなソリューションが含まれている。
●今、解決すべき問題とは
ソリューションの一つは、ポータブル電源の有効活用だ。23年あたりまでは、ポータブル電源はキャンプブームの好調な推移を受けて、主に屋外で使用されていた。だがご存じのように24年はブームも沈静化してしまい、ポータブル電源も活動の場を失うこととなった。
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一方で8月8日に宮崎県沖で発生した大地震に連動して「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発報されたことや、翌日の9日に今度は神奈川県沖で震度5弱の地震が連続して発生したことで、ポータブル電源は防災用途として再認識されるようになった。
ただ、それらのポータブル電源も普段から活用されるわけではない。蓄電してそのまま塩漬けという状態にあるのでは、活用しているとはいえない。そこで、せっかく家庭にある程度の容量のバッテリーがあるなら、日常的に電力需要を調整するために使えないか、ということである。
実証実験中は、yanekaraが直販する100台のDELTA 2のみが対象となるが、将来的には既にユーザーが購入済みのバッテリーや、別の販売店から購入したバッテリーに対しても対応を検討するとしている。ECOFLOWのこれまでの販売台数は明らかになっていないが、7月には24年度家電量販店におけるポータブル電源販売台数が1位であったことを記念するキャンペーンを行っていることから、国内だけでも相当な台数が存在するはずだ。全部合わせれば、系統電力用巨大蓄電施設の一つに匹敵する容量になるだろう。
実際に米国カリフォルニア州は、電力貯蔵設備容量で世界のトップを走るが、日経クロステックが報じたところによれば、その内訳は系統電力用大規模蓄電施設が84%、住宅用蓄電池が10%、商業・産業用蓄電池が6%となっている。住宅用蓄電池も、集めればバカにできない容量となっている例は既にある。
2つ目のソリューションとしては、家庭用蓄電池を固定式ではなく、可動式であるメリットを最大化するということだ。電気自動車で知られる米Teslaが22年に家庭用蓄電池市場に参入し、新しい起爆剤となっているところではある。
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その一方で、家庭用固定蓄電池は価格が高く、しかもその15%は工事費であるという。23年に三菱総研が経済産業省向けに作成した調査報告書によれば、固定型蓄電池は容量に応じて価格が上がるという相関関係が見られるが、工事費に関してはそれほど相関関係が見られず、20万円を中心に幅がある程度となっている。
工事費が同じなら大容量を入れたほうが得ということになるが、そうなると全体の導入コストは高くなる。一般には200万円から、ということになるだろう。しかも設置工事が可能ということでは自己所有の戸建住宅にしか導入できず、借家やマンションには導入できない。基本的には補助金をあてにした、ソーラーパネルと込みで新築住宅向けのソリューションということになる。
一方固定式ではないポータブル電源では、家庭用コンセントの後ろに取り付けるので、基本的に電気工事や施工費は不要だ。今回対応モデルに選定されたDELTA 2は容量1024Whのタイプだが、それほど大型というわけではない。シリーズには最大容量モデルのDELTA Pro Ultraがあるほか、専用拡張バッテリーで容量が増やせるDELTA 3 Plusなどのラインアップもある。これぐらいの容量になれば、固定式家庭用蓄電システムと変わらない。将来的にはこうしたモデルも、対応となるだろう。
●想定される2つの「宿題」
余剰電力の廉価販売は、Looopのような小売事業者だけでなく、電力大手でも行われている。例えば九州電力では、太陽光発電が余る時間帯には「使っチャレ」というチャレンジ企画を実施している。これは指定された時間に通常以上の電力を使うと、その分がPayPayポイントで還元されるという仕組みだ。
筆者はこうしたイベントが発生するたびに手動でポータブル電源への充電時間をセットしているわけだが、こうしたことが自動化されれば、電力会社にとっても利用者にとっても大きなメリットがある。
ただポータブル電源への充電は、安いからといっても充電容量には限度があるし、高いからといって放電しっぱなしにしても容量がそこを突く。1日の電力利用をサイクルとして勘案しながら、明日は電力が安くなる予報だから前日にはなるべくバッテリーの空きを多くしておこうとか、雨が続くから安くはないが、強いていえば安いといえる時間帯を探して充電するといった、細かい傾斜配分が必要になる。
そうした毎日変化する事情への対応が、YanePortのアルゴリズムに要求される。さらに言えば、ユーザーのバッテリー残量はまちまちなので、それにも自動対応する必要がある。おそらくAIを使って1台ずつ個別に制御することになるのだろうが、そのAIを鍛えるための、1年間の実証実験ということだろう。
もう一つの宿題、というか懸念としてあるのは、そもそもこうしたサービスが成立するのは、太陽光発電のせいで電力料金が時間変動するからである。だがこうした変動に対応すべく、現在系統電源に接続する大型蓄電施設の建設が、日本全国で活性化している。系統電力用蓄電施設の運用も、電力事業者として正式に認可されたからだ。オリックス、KDDI、石油資源開発(JAPEX)、日本蓄電、東京ガスなどの大手企業が続々と名乗りを上げている。
こうした大規模な系統電力蓄電施設が稼働を始めれば、電力料金の市場価格も変動が抑えられ、平たん化する可能性がある。つまり料金の差を利用しての利ざやで稼いでいる電力小売ビジネスは、次第に成立しなくなっていくのではないだろうか。
●電力小売側は何を思う?
この問題をLooop戦略本部GX推進部エネルギーイノベーション課の野村勇登(はやと)課長にぶつけてみたところ、「むしろ望むところだ」という。
そもそもLooop自体が系統電力用大規模蓄電池事業に参入しているのに加え、Looopのビジョンが、限りなくエネルギーコストを下げて持続的な豊かさを実現できる社会を作ることにある。従って、価格が平均化されることで全体の電気料金が下がることは、会社のビジョンに一致するというわけである。
同時に、完全に平たん化する未来まではまだ相当の時間がかかるとも見ており、そこに至るまでにはまだ多くのプロセスが存在する。今回の実証実験は、そうしたプロセスの一つとなる。
一般的なメガソーラー施設については、景観を害するとして次第に認可されづらくなっている。だがその一方で、ペロブスカイト太陽電池が実用化されれば、オフィスビルの窓全体で発電するなど、ビル自体がメガソーラー化する可能性もある。太陽光発電は、今後減少も停滞もないと考えるべきだろう。風力にしても水力にしても、再エネであれば常に自然の気まぐれな現象に左右されるリスクがあり、その割合が増えれば増えるほど、平たん化の需要も大きくなる。
系統電力だけでなく、各家庭でも連動してバッファーしていくという方法は、一見効力は小さいように見える。カリフォルニアの例のように、全体の10%程度というのがいい線なのだろう。とはいえ、だ。消費者に直接的な恩恵があり、防災対策にもなるという点では、新築住宅に太陽光パネル設置を義務化するよりも意義深い方法ではないだろうか。
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