「専門家として疑問」金沢21世紀美術館の黒澤浩美が『HERALBONY Art Prize』で感じた問題意識

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2024年11月15日 20:10  CINRA.NET

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Text by 廣田一馬

「異彩を、放て。」をミッションとする福祉実験カンパニー・ヘラルボニーによる国際アートアワード『HERALBONY Art Prize 2025』の応募受付が11月13日からスタートした。

『HERALBONY Art Prize』は、障害のあるアーティストを対象としたアートアワード。第1回となる前回は世界28の国と地域から1973作品の応募があった。

開催に先立って行なわれた記者発表会では、ヘラルボニーでCo-CEOを務める松田崇弥と松田文登、同アワードの審査員で金沢21世紀美術館のチーフキュレーターの黒澤浩美が登壇。『HERALBONY Art Prize 2024』の総括と今回のアワードへの意気込みを語った。

発表会の前半では、『HERALBONY Art Prize 2024』についての総括が行なわれ、グランプリを受賞した『ヒョウカ』の作者である浅野春香のコメントが紹介された。

『ヒョウカ』

「自分自身が評価されたい」という想いから名付けられた『ヒョウカ』がグランプリを受賞したあと、浅野はスランプになったという。

最後にはまず応募してみることの大切さを説き、「皆様、ぜひチャレンジしてみましょう!」と括った浅野。松田崇弥は同作について、以下のように語った。

「浅野さんは7か月の制作期間のなかでだんだん辛く苦しくなり『こんなに頑張っているんだから評価を受けたい』というピュアな気持ちが表れて、タイトルを『ヒョウカ』にされたといいます。それを聞いてすごく人間らしさを感じましたし、障害のあるなしにかかわらず、誰しもが自分そのものを表現したいと思う瞬間が存在していると気づかせてくれた作品だと思います」

松田崇弥

発表会後半には『HERALBONY Art Prize 2025』の概要が公開された。

審査員を務めるのは当日も登壇した金沢21世紀美術館のチーフキュレーター黒澤浩美、ドイツの美術史家でキュレーターのクラウス・メッヘライン、アメリカの非営利団体「Creativity Explored」ディレクターのハリエット・サーモン、アーティストで東京藝術大学学長の日比野克彦の4名。

審査基準は「作家自身の視点や経験を反映した独自の世界観や社会への問いかけが見られる作品」「従来の芸術概念にとらわれない自由な発想に基づく作品」「共感や新たな気づきをもたらす作品」「多様性や包摂性を重視し、新たな芸術表現の可能性が認められる作品」の4点となっている。

黒澤は『HERALBONY Art Prize 2024』の審査を通して感じた問題意識と、今回の審査への意気込みを語った。

「約2000点の作品を拝見し、多様性を感じました。いままでの美術史のなかで評価されたものとは違う傾向や特徴が明らかに認められると思います。それがなぜいま美術館やアートヒストリーのなかに記載されていないのか、逆に専門家として疑問です。それに対して私ができることは作品を(障害のある作家であることにとらわれず)誠実に作品として評価することだろうと思います」

作品の応募受付は12月30日まで。来年5月下旬に授賞式と展覧会の開催が予定されている。
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