長男の学費と老後資金をどのように貯めていけばよいでしょうか?
皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回のご相談者は、長男が高校1年生で大学進学を希望しているものの、今まで出費してしまったために貯金がないことで悩む56歳のパート女性です。ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんがアドバイスします。
相談者
匿名希望さん女性/パート・アルバイト/56歳
東京都/持ち家(マンション)
家族構成
夫(会社員・59歳)、長男(高1)相談内容
長男が高1で大学進学を希望していますが、貯蓄がわずかです。学費を用意できそうにありません。また、毎月の貯蓄もほとんどなく老後資金が心配です。家計のため2年前からアルバイトをしていますが、家計は苦しいままです。雑費は主に借金返済です。長男の学費と老後資金をどのように貯めていけばよいか、アドバイスいただきたく存じます。よろしくお願いいたします。
家計収支データ
匿名希望さんの家計収支データは図表のとおりです。
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家計収支データ補足
(1)家計収支について相談者コメント「これまで貯蓄からの取り崩しで、赤字補てんしていましたが、もうできないので、各支出を調整しました。食費のうち1万円は夫の昼食代です。仕事で外回りが多く外食になります」
(2)住居費について
・購入額:3000万円
・借入額:2800万円
・金利:0.9%
・返済期間:35年
・残りのローン:約1100万円
相談者コメント「毎月返済6万2000円のほか、ボーナス時返済で年18万2000円あります。これまでに2回、繰り上げ返済をしました」
(3)借金返済について
債務整理により去年から毎月5万5000円の返済。あと4年で完済予定。
(4)保険について
[夫]
生命保険(死亡保障1000万円、保険期間10年、特約なし)=毎月の保険料8930円
医療保険(終身タイプ・入院日額5000円、手術給付金2万5000〜20万円)=毎月の保険料5459円
[相談者]
医療保険(終身タイプ・入院日額5000円)=毎月の保険料3380円
(5)家族の小遣いについて
夫:3万5000円、相談者:1万5000円、子ども:4000円
(6)働き方について
・夫:元公務員。55歳定年により民間に再就職。65歳まで働けるが給料は現状維持か、ダウンの可能性あり
・相談者:12年前より在宅アルバイトで月3万〜4万円収入あり。数年前より現在のアルバイトを継続中。勤務は週3日までと決められている
(7)投資について
相談者コメント「投資の内訳は、夫が管理しているため、詳細は不明です」
(8)公的年金について
夫:65歳より年間受取見込額232万8487円
相談者:65歳より年間受取見込額90万5872円
(9)特別な事情(相談者コメント)
数年前まで夫が単身赴任。私の家計管理が甘くあまり考えずに使っていました。それでも公務員時代は月40万円収入があり、ボーナスも安定して入ったので、何とかなっていました。再就職して家計を引き締める必要があったにもかかわらず、以前のように何とかなると思ってお金を使ってきました。
6年ぐらい前から私が買い物をやめられなくなり、洋服や靴、バッグ、ジュエリーなどを大量に購入。結局、あまり使わないまま中古品店やメルカリで売ることに。債務整理したのは私の借金です。
しかし、整理してもまだ家計は苦しい。今後の見通しが立ちません。私のせいで夫や子どもに迷惑をかける事態になりました。今まで無駄遣いした分を全部取り戻したい。後悔しかありません。
FP深野康彦の3つのアドバイス
アドバイス1:支出の大幅な見直しと、収入UPが急務アドバイス2:教育費は何とかなったとしても老後資金は不足
アドバイス3:マンションを売却してイチから出直しも
アドバイス1:支出の大幅な見直しと、収入UPが急務
ご主人が定年退職するまでの年収を考えれば、十分な蓄えを残すことができたはずです。ご本人も悔いていますが、使ってしまったお金は戻ってきません。まずはお子さんの教育資金を捻出するために、ここから夫婦協力していくことが何よりも大事です。もう甘えは許されません。
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ボーナス返済が年間で約18万円のほか固定資産税や、データには記載されていませんが、毎月の管理費・修繕積立金の支払いもあります。これらは、今後どうやって支払っていくのでしょう。貯蓄も底をつきます。当面は投資を解約、売却するなどして対応するほかありません。
それと同時に、家計支出を大幅に見直して、教育資金と住宅にかかるコストの原資をつくることが急務になります。
現在の家計支出から、食費は1万5000円削減、通信費は格安スマホなどにして、3人で1万円に抑えて1万3000円の削減、夫婦の小遣いはそれぞれ5000円削減し合計1万円削減。それ以外でも削減できるところがないかチェックしてください。言い訳、甘えはダメです。
これで、最低でも毎月3万5000円を貯蓄することができれば、年間で42万円になります。しかし、これだけでは、住宅にかかるコストなどを差し引くと、手元に残りません。
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現在、匿名希望さんの収入は8万円ですが、できれば倍の16万円を目指してください。いきなり倍は難しいかもしれませんが、現在のパート先が日数の制限をされているのであれば、もうひとつパートを増やすなどをして、まずは、プラス5万円を考えてください。この5万円は全額貯蓄です。
年間60万円。これが最低ラインだと思ってください。
毎月の貯蓄は残ったら貯蓄ではなく、給与振込口座から自動で振り替えられる自動積立定期預金を使ってください。収入から貯蓄分を先取りすることが大事です。
アドバイス2:教育費は何とかなったとしても老後資金は不足
仮に年間60万円貯蓄できたとすれば、ご主人が65歳までの6年間で360万円になりますので、教育資金はぎりぎりですが、なんとか対応できるでしょう。実際には、お子さんが大学に進学するまでの2年間で120万円になり、大学の初年度の費用に使うことになります。その後、3年間の貯蓄はすべて学費の支払いに充てることになり、結果的には、65歳時点での貯蓄はほとんど残っていないことになると思われます。
4年後に借金の返済が終われば、その分は貯蓄できます。年間で66万円です。ご主人が65歳までの残り2年間で132万円、教育費、家計のやりくりが試算より上手くできても150万円前後でしょう。これが夫婦二人の老後資金ということです。
ですから、働ける今のうちにできるだけ収入を増やすことは、とても大事なことです。匿名希望さんのパート収入が増えれば、その分、老後資金を残せることになります。
また、ご主人も65歳で現在の勤務先は退職するとしても、できるだけ長く働くことも考えてください。
その時点での家計支出はおそらく25万円程度に抑えられているはずですから、公的年金とパート収入で十分生活はでき、貯蓄もできるかもしれません。ただ、できれば年100万円、二人で200万円の収入が得られるような働き方は続けていただきたいと思います。
老後は日々の生活費以外にも、医療や介護にお金が必要になってきます。万一の時の葬儀費用も準備しておかなければなりません。少なくても70歳時点で500万円程度の蓄えが残せるよう、今からどれだけ働けるか、収入を増やせるかをご夫婦で話し合ってみてください。
アドバイス3:マンションを売却してイチから出直しも
家計支出を削減すること、収入を増やすことは、多少時間がかかっても、すぐに取り掛かることはできます。それで貯蓄のベースが作れればいいのですが、もし思うように貯蓄ができないのであれば、マンションを手放すことも検討しなければならないでしょう。3000万円で購入し、現在の相場がどの程度になっているか判断できませんが、仮に2000万円で売却できれば、残りのローン1100万円を完済し、900万円が残ります。これでお子さんの教育資金は、心配なくなります。また借金の240万〜250万円も一括で返済することができます。
家計支出の削減で3万5000円、借金返済分の5万5000円、合計9万円が浮きます。ローンのボーナス返済分の心配もしなくてよくなり、固定資産税などの支払いもなくなります。売却後に借りる住居の費用が今と変わらなければ、毎月9万円の貯蓄で年間108万円です。
売却に1年ぐらいかかったとしても、ご主人が65歳になるまで5年あります。年間108万円、5年で540万円貯められることになります。もちろん、パート収入が増えていれば、さらに貯蓄額は増えているでしょう。
繰り返しますが、売却後の家賃は6万〜7万円に抑えないと意味がなくなります。それが可能であれば、マンションの売却も検討してください。
せっかく手に入れたマイホームですが、状況はそこまで厳しいと認識してください。住宅ローンも借金もすべて返済し、イチからの出直しになりますが、これまでの負の清算を早めにしておくことも選択肢としてはあるでしょう。
必死の思いをしてでも収入を増やし支出を減らすか、マンションを売却するか、家族で力を合わせて再スタートを切るために、十分に話し合われてください。
相談者「匿名希望」さんから寄せられた感想
アドバイスいただきありがとうございます。予想はしていましたが、厳しい内容に「一刻も早く何とかしなければ」とあらためて思いました。住まいを手放すのは何としても避けたい。固定費の見直し、食費や小遣い等の削減と節約、併せて収入アップに努めます。教育費と老後資金を貯められるよう、家族と頑張っていきたいと思います。ありがとうございました。
教えてくれたのは……深野 康彦さん
マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金周り全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。
取材・文:伊藤加奈子
(文:あるじゃん 編集部)