「ユニクロ」や「GU」で知られるファーストリテイリング。実は中〜高価格帯ファッションブランドも傘下に抱えていることをご存じだろうか。「Theory」(セオリー)や「PLST」(プラステ)がそれである。ファッションに興味のある人からすれば「そんな当たり前のことを今更」と思うかもしれないが。
【画像】こんなに高級そうなのにユニクロ系列なの? セオリー麻布台ヒルズ店の外観
1000円台のTシャツから10万円台のスーツまで。なぜファーストリテイリングは、これほどまでに異なる価格帯の製品を展開できるのか。
●セオリーとプラステ 高級路線を狙うファストリの布石
セオリーは1997年に米ニューヨークで設立された中〜高価格帯のアパレルブランドだ。
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2009年にファーストリテイリングが、セオリーを展開していたリンク・セオリー・ホールディングスを完全子会社化。翌2010年にセオリー事業再編を発表し、現在では国内でもその名を広めている。高品質な素材と洗練されたデザインを取り入れたシンプルなアイテムが特徴で、アッパークラスのビジネスパーソンや洗練されたライフスタイルを持つ消費者の支持を集めている。
こうしてファーストリテイリングは、高価格帯への「守備範囲」を広げたことになる。
2018年、ファーストリテイリングはさらに、リンク・セオリー・ホールディングスの1ブランドだったプラステを分社化・独立させた。プラステはシャツなら1万円前後で買える「高すぎず、かといってチープすぎない」という価格帯で、30〜50代の働く大人をターゲットに据える。
休日着としても使えるビジネスカジュアルを中心に展開し、「セオリーとユニクロの間」を埋める市場も押さえている。
●バリューラインから見るファストリの戦略
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ファーストリテイリングの価格戦略を理解するには、「バリューライン」という考え方が有効だ。これは価格と価値を2つの軸として、商品の市場ポジションを分析する手法である。
価格と価値を縦と横の軸に取ると、価格が低くて価値も低いのは「エコノミー戦略」という。価格と価値が中ぐらいのポジションを「中価値戦略」という。価格も高ければ価値も高いのが「高価値戦略」だ。そして、価格と価値が正比例したポジションを「バリューライン」と呼ぶのである。
ファーストリテイリングの各ブランドは、このバリューラインにきれいに乗る形でポジショニングしていることが分かる。
その先駆けとなったのがユニクロだ。1997年頃から米国発のSPA(Specialty store retailer of Private label Apparel=製造から小売までの垂直統合)モデルを導入し、低価格・高品質路線へと転換。バブル崩壊以降、30%も市場が縮小していた衣料品業界で、急速な成長を遂げた。
当時のアパレル市場には、明確な階層構造が存在していた。総合スーパーの衣料売り場は「安かろう、悪かろう」の典型である「エコノミー戦略」、ジーンズメイト、ライトオンといったカジュアルウェア専門店は「中価値戦略」、百貨店に入った有名ブランドは「高価値戦略」を展開していた。
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●既存市場を破壊したユニクロ
そんな中ユニクロは、当初「最安値宣言」を掲げ低価格×高品質の「スーパーバリュー戦略」で市場に参入し、衝撃を与えた。
一般にスーパーバリューのポジションは実現するより継続することが困難であるといわれているのだが、ユニクロも次第に最安値宣言を公言しなくなり、価格は中程度で価値が高い「高価値戦略」へとシフトしていった。
一方、GU(ジーユー)はユニクロとは異なる戦略を採用した。当初はユニクロの3分の2程度だった価格帯を見直し、全商品の8割をユニクロの半額以下に設定。「990円ジーンズ」を代表とする目玉商品で「グッドバリュー戦略」を確立し、若年層向けのトレンド発信ブランドとして成長している。
バリューラインで考えれば、先程のセオリーとプラステは両ブランドともに価格と価値を高い水準でバランスを取る「プレミアム戦略」に位置している。このように、同社は巧みに価格戦略ポジションの住み分けを行っている。
●ブランド間のシナジー効果で競争力を高める
ファーストリテイリングの強みは、異なる市場で展開する4つのブランドを、1つの企業グループとして最大限に活用している点にある。
各ブランドは独自の市場ポジションを持っており、セオリーは高級路線、プラステは上質なカジュアル、ユニクロは品質重視の中価格帯、GUはトレンド発信型の低価格帯と、それぞれが異なる消費者層にアプローチしている。
同社の成功は、各ブランドの独自性を保ちながら、全体としては一貫性のある価格戦略を展開している点にある。製品の調達や製造プロセスを共有することで、高品質を維持しながらコストを抑制。各ブランドの強みを生かしつつ、グループとしての競争力を高めているのだ。
一見すると複雑に見えるこの戦略だが、その本質は明快だ。ブランドごとに価格帯とターゲット層を明確に分け、それぞれの独立性を保ちながら、グループ全体で効率化を追求している。今後もその戦略に注目し、アパレル業界全体の動向を見守りたい。
●著者プロフィール:金森努(かなもり・つとむ)
有限会社金森マーケティング事務所 マーケティングコンサルタント・講師
金沢工業大学KIT虎ノ門大学院、グロービス経営大学院大学の客員准教授を歴任。
2005年より青山学院大学経済学部非常勤講師。
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