あの、FRUITS ZIPPER、降幡愛など、人気アーティストの衣装を制作している注目の衣装デザイナー・MIYANISHIYAMA(以下、MIYA)氏の書籍『TEN #衣装 #アイドル #カワイイ #MIYANISHIYAMA』が玄光社から刊行された。
MIYA氏が制作する衣装といえば、一目でそれとわかるボリューム感、色彩感覚、そして唯一無二といえる素材の選び方にあるだろう。そんなデザインが活きるよう、誌面は華やかな構成になっており、浴びるように作品を堪能することができるのだ。
MIYA氏が以前から交流を含めてきたというあのが表紙を飾り、誌面にはこれまでMIYA氏が手がけた衣装を着たアーティストの写真がずらりと並ぶ。10周年のメモリアルにふさわしい、アイドルファンからデザイナーまで必携の一冊に仕上がっている。
そんなMIYA氏にこのたび、独占インタビューを敢行。意外過ぎるデビューのきっかけ、そして衣装制作に真摯に向き合う姿を明らかにしてみた。
――MIYAさんが2014年にご自身のブランドを立ち上げてから今年で10周年ということで、これまでの作品をまとめた本が出ました。本を手に取って、最初に抱いた感想を教えてください。
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MIYA:最初は本が出るという実感がなかったのですが、発売されてから、じわじわと実感してきました。本になる前に色校で見せていただいたときは感動しましたね。いつもは画像をiPhoneなどの画面で見ることが多いので、紙になるのっていいな、と素直に感じました。一冊にまとめると結構濃いですね。あと、あまり意識していなかったのですが、全体で見ると衣装に結構な色数を使っているんだなと思いました。
――そもそも、衣装デザイナーとはどんなお仕事なのでしょうか。
MIYA:私の場合はちょっとイレギュラーなケースかもしれません。というのも、私はひょんなことから衣装デザイナーの仕事を始めているのです。衣装デザイナーの正規のルートといえば、まずは服飾の学校に行って、どこかの会社や師匠につき、その後に独立する流れだと思います。私の場合、全然違う仕事をしている中でもらった仕事が、たまたま衣装を作る仕事だったのです。しかも、服を作ったことがない状態受で引き受けました。
――ええっ、そんなことがあるんですか。衣装デザイナーになる前は、服飾系の仕事をされていたのですか。
MIYA:台湾のコーディネーターの仕事をしていました。台湾に行く企業や行政の方に通訳を手配したり、台湾に関するイベントを開催したりする仕事です。その前はアパレルの会社にいたのですが、作る側ではなく販売側でしたので、特に今の仕事とは関係がなかったですね。
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――そこからいったいなぜ、衣装を作る仕事を手掛けることになったのでしょう。
MIYA:台湾の仕事のクライアントと話しているとき、広島カープの始球式の衣装を作る人がいなくて困っている、と言われました。当時の私は髪の色が赤かったんです。髪の色から服飾の学校出身だと思われたらしく、「知り合いに衣装を作れる人、いない?」と聞かれたのです。始球式の衣装なんて面白いじゃないですか。だから、思わず「私、やれます」と言ってしまったんですよ(笑)。
――なんと! できると言ったことで、運命が変わったわけですね。
MIYA:そうですね。当時は仕事に飽きていたので、一生懸命やってしまったんですよ。その次はバンドの衣装を4着作ってと言われた、また、いいよと言って取り組みました。後日、新宿のギャラリーでその衣装の展示が行われたのですが、それを見た雑誌の編集さんから「特集を組ませてほしい」と連絡があり、急いでブランド名を決めた感じです。
――お話を聞いていると、本当にイレギュラーなデビューをなさったのですね。普段はどのように仕事を請け負っているのでしょうか。
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MIYA:アイドルの運営の方よりもむしろメンバーの希望で、「MIYAさんの服を着たい」と言われて、直接依頼が来ることが多いのです。ありがたいことですね。ちなみに、運営の方は私のことを知らないパターンが多いです(笑)。
――具体的に衣装が形になっていくまでの過程を知りたいです。
MIYA:最初に「どんなものがいいですか」とデザインのヒアリングをしますが、基本的に私にお任せいただくことが多いです。「かわいい」「かっこいい感じ」などの大きいテーマの中で、自由にやってくださいと言われます。それをもとに私がデザインのラフを描き、生地を選んで、詳細なすりあわせをしたのちに制作に入って、納品となります。
――デザインするにあたり、心がけていることはなんですか? 企画のコンセプトはもちろんですが、着る人の性格を読み解くことも大事ですよね。
MIYA:例えば、熊は普段、生肉を食べていますよね。けれど何かの瞬間に雷に打たれるなどで焼かれた肉を食べたときに、おいしいと感じるかもしれません。このように、本来なら出合わなかったものに出合う瞬間こそが、感動的なのではないかと思います。同じことで、この生地とこの生地同士は合わないだろう、というものを組み合わせるのが好きです。
――すごく独特な例えですが、わかりやすい(笑)。異なる素材同士で組み合わせることで、創造性が生まれると。
MIYA:アイドルとかけ離れているビニールなどの素材や、本来は裏地に使う素材を前面にもってきたりします。意識しているわけではないですが、昔からそういうことが好きですね。それが、私のデザインのわかりやすい特徴になっていると思います。
――ヒアリングではどこまで詳しく聞くのですか。
MITA:唯一聞くのは、NGな箇所です。マッチングアプリとか結婚相談所もそうだと思いますが、理想をすり合わせるよりも、NGな箇所をすり合わせる方が結果的に早い。さきにデザインのラフを出してから、胸元を出したくないとか、そういう要望を聞きながら進めます。その流れを含めて、普通のデザイナーとやり方が違うのかな。
――市販されている服と異なるのは、1点ものであるということですよね。1点ものだからこそできることや、難しいことはありますか。
MIYA:私は大量生産の服は作れなくて、挫折しているような気がします。私の周りで服を作っている人はいっぱいいて、ブランドとして成功してパリコレに出たり、アパレルとして成功していたりしている人がいます。それって凄いことですよね。デザインしたものが何百と作られるのですから、責任が重そうだなと思います。ただ私は長編よりも読切の小説をいっぱい作る方が向いている。今の仕事の仕方しかできないから、やっているのかもしれない。
――そうなんですね。MIYAさんがデザインした服が、ぜひ市販されてほしいです。
MIYA:量産の服には挑戦してみたのですが、興味がわかないというか、何着も同じ服を作るのは「私じゃなくてもよくない?」と考えてしまいます。あとは、できないので、やっていないんだと思います。たぶん、この先もやりません(笑)。
――MIYAさんの服なら、幅広い層に売れる気がしますけれどね(笑)。
MIYA:いえいえ、私は売れるものの目利きが苦手だと思うのです。コンビニで私が好きなパンとかおにぎりは、真っ先に廃盤になっていきます(笑)。私は毎回同じものを買うタイプなのですが、このパンすごくおいしい! と思ったパンがいつの間にかなくなる。マスに向けてのビジネスが向いていないんだと思いますよ。
――僕もそのタイプなのでよくわかります(笑)。MIYAさんが手がける衣装は一目でMIYAさんの作品とわかる。それでいて、着る人の個性を際立たせていますね。
MIYA:私は、服を通じて人のかわいさを引き出すお手伝いができたらいいな、と思っています。アイドルが着る衣装は、その人の顔やスタイルの長所を超えないようにしようと考えて作ります。
――個人とグループでは、デザインも変わってくるのでしょうか。
MIYA:私の中では大きくは変わらないんですよね。人数が多いなと思うくらいです(笑)。NG箇所を聞く作業が増えるだけでしょうか。ちなみに、グループでNG箇所が全員一致するパターンはないんです。一方で、胸を見せたい人、くびれを見せたい、ふとももを見せたいという要望もNG箇所と同じくらいあります。それらを盛り込んでデザインしていけば、自然と個性になっていきます。
――ご自身で今まで手掛けた衣装の中で、傑作だと感じているものはどれでしょうか。
MIYA:その質問に答えるとなれば、“最新作”になるのかな。私は過去に興味がないんですよ。本に載っているのは10年分の一部なのですが、読んでみると、これはこうしたほうがいいな…と思えてくるのです。作品はそういうものだと思いますので、最新が一番だと思っています。この本で言えば、表紙と裏表紙の衣装ですね。ただ、裏表紙の衣装はあのさんが着た衣装を組み合わせて作っているので、最新なのに古い、いわば“温故知新”ですね。
――表紙の衣装は最新作にして最高の作品ということですが、どんな思いでデザインされたのでしょうか。
MIYA:あのさんが衣装に埋もれている感じを出したかったのです。岩っぽい感じ、原石感。あのさんと知り合ったのは結構前で、私がブランドを始めた直後から服を買ってくれていたのです。それを知らず、偶然にも私が初めて「この人の衣装を作りたい」と思ったのが、あのさんでした。話も合うし、プライベートでもご飯を食べに行くうちに交流が始まりました。あのさんは当時から“原石感”が凄かった。そこで、衣装にイメージを盛り込みました。おこがまし善話ではありますが、原石を見つけた、という感じが表現できたと思っています。
――デザインを考えるときは、スケッチなどをされますか?
MIYA:そのときの気分によるのですが、基本的にはしないです。思いついたものをiPadに描いていく。こだわりがあるとかではなく、アイディアを書き溜めていく習慣はないですね。素材選びについては、アイドルの衣装というものは良くも悪くも選べる生地が決まっています。汗染みが残らないとか、伸縮性があるとか。基本的に素材選びは逆算的に考えていきます。
――制約の中でこれほど独創的なものを生み出されるのは、やはり凄いとしか言いようがありません。
MIYA:たぶん、私が服飾の学校に行っていないから、逆に良かったのかもしれません。縫い始める前にまずはパターンを作ってとか、試作品を作ってとか、いつもそういう流れをすっ飛ばしてしまうのです。純粋に、できないので(笑)。
――色使いに関してはどうですか。使える色の縛りがあるのでしょうか。
MIYA:色は、アイドルの場合はメンバーカラーがどうしてもあるので、それを出したいと言われれば、縛りがあります。あとは、生地によってバリエーションがあるものとないものがある。例えば、オレンジとかミントグリーンのある生地が少ないんです。かわいい色なのですが。だから生地業者の息子と結婚したいなと思うことがありました(笑)。作れば絶対に売れるよ、と提案したい。そう思うくらい、本当にないんです。
――ステージ映えする衣装を生み出す秘訣はあるのでしょうか。
MIYA:真っ黒は滅多に使わないですね。なるべく反射するとか、艶があるとか、光に関しては敏感かもしれません。
――作るのが難しい衣装などはありますか。
MIYA:デザインの依頼をいただくとき、たまにアニメの衣装を参考に示される人は多いです。これっぽいスカートで、とかね。ただ、アニメやイラストは重力がないんですよ。膨らんだスカートとか、ふわっとした羽衣とか、ごく普通にあります。実際に作るとすればなるべく近いイメージになるよう努力しますが、双方のイメージの擦り合わせが難しくてその部分が肝になります。
――今、ファッションがかつてほどインパクトがないといわれます。ファッション業界に関して今後、どうなっていくとみていますか。
MIYA:一消費者としての意見ですが、本当にかわいい服はどこに売っているのかな、と思います。と友達にも言っているくらい。私が服を作り始めて2〜3年のころ、新宿の伊勢丹には都のデザイナーの服を売るセレクトショップがあって、私のブランドもほかと一緒にイベントを実施。無名の私が発表できたので、夢があった。今や、そうした場がなくなりつつあります。
――非常によくわかります。百貨店が流行の発信基地ではなくなりましたね。
MIYA:かわいい服をつくっても高くなってしまうし、その価格帯を買える人は少なくなっているので、作る側も作りづらいかもしれません。私は、安くてかわいい服はあると感じますが、値段を見ずに「これめっちゃかわいい」「欲しい」と思う服は少ないなと感じます。昔から服にそんなこだわりがあるタイプではないのですが、そんな気がしています。
――MIYAさんが今後、手掛けたいと思っている服はどんなものでしょうか。
MIYA:この10年間で、結構やり切った感じがあるのです。作りたいものを作ってきたし、思いついたら作ることができる環境を作ってきたので。それなりに仕事もしてきたし、かといってお金のために無理して働きたくはないですね。今回、本を読み返して感じましたが、私は女の子の服は作ってきましたが、メンズの服をほとんど作ってこなかったなと思いました。あとは、男女関係なく着られる服も作ってみたい。あとは、何か全然、違うジャンルの仕事もしてみたいですね。
――個人的には、建築のデザインをやってほしいですね。
MIYA:私がもし建築をやり始めたら、違法建築になってしまいそう(笑)。実は、大学生の頃は建築も勉強していたのです。家具とかもめっちゃ好きなんです。ただ、私は製図の机に向き合うと眠くなるんです。実際、寝ました(笑)。
――面白いエピソードですね。
MIYA:この前、降幡愛さんのラジオで衣装の話をしたのですが、結構おしゃべりだったので、次もまたラジオの仕事をしてみたい。これまでは形に残る仕事をしてきたので、逆に形に残らない仕事もしてみたいですね。
――このインタビューを読んで、衣装デザイナーの仕事に興味を持つ方もおられると思います。仕事の楽しさや魅力について伺えますか。
MIYA:個人的には、普通に、すごくいい思い出になるのが一番かな。本が出ることもそうですが。見返すと、これは夜中を通して作ったな、この服は修正が一番多かったな…などと思い出すことが多い。それって、結構な醍醐味です。振り返ったときに自分の生活を思い出す、よく聞いていた曲を久しぶりに聞くみたいなことを仕事でできて、自分の生き様を振り返れるのは魅力だなと思いました。あとは、「あのさんの着ている衣装を作っている人」ではなく、あのさんを見て「MIYANISHIYAMAの衣装を着ている」、と言われるようになりたいですね。
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「ねぎらい不足」職場で実感?(写真:ITmedia ビジネスオンライン)54
「ねぎらい不足」職場で実感?(写真:ITmedia ビジネスオンライン)54