YouTubeショートがバズりまくっているフォーク曲げパフォーマー・後藤凌をご存知だろうか?
地元の愛知県を拠点に大道芸やイベントに出演。フォーク曲げのほか、巨大フォークを扱ったジャグリングや10個のサイコロを積み上げる芸など多数のパフォーマンスで観衆を魅了。しかし、彼がバズっているのはパフォーマンスの凄さ以上に、そのキャラクターの面白さにほかならない。
自由な言動で大道芸に乱入する子どもや、ひょんなハプニングをも笑いに変える対応力。知れば知るほど、いかなる状況でも大勢を楽しませてしまう生粋のエンターテイナーであることが分かる。いきなりYouTubeがバズったようにも見えるが、話を聞くと、今日に至るまでの試行錯誤がハンパじゃなかった。フォークを曲げ続け今年10月末で14年目を迎えた、後藤凌の素顔に迫る。
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■大道芸人の原点は、いじめられっ子からヤンキー?
――YouTubeショートの動画がとにかくバズっていますね。YouTubeの登録者数は今も伸び続け、2024年11月現在16万人を突破しています。
※子どもへのユニークな対応が話題に
後藤 信じられないかもしれませんが、今年5月時点での登録者数は2200人ほどだったんです。最近は広場で大道芸をしていても「YouTubeの人だ」と立ち止まって見てくれたり、声をかけてくれたりする方が増えました。本当にありがたいです。
――YouTubeへの動画投稿を始めたきっかけは何だったんですか?
後藤 コロナ禍で大道芸ができなくなったタイミングで、生活のために止むを得ず配信を始めたのがきっかけです。本意ではなかったものの、ちょうど長男が生まれたばかりだったこともあり、手段を選んではいられなかったというか。緊急事態宣言が出ていた頃は、YouTube LIVEやフォーク曲げ講座の動画でもらう投げ銭が収入の軸になっていたんです。もともと喋りは得意で配信は性に合っていたので、今もたまに続けています。
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――待ってください。ちょ、長男......!?
後藤 こう見えても、家では9歳の娘と3歳の息子のお父さんなんです。結婚して子どもがいることは普通に公言しているので、ファンの方には周知の事実だと思いますけど(笑)。現場にチビたちが来ると、かわいがってくれる常連さんもいるほどです。
――意外と言っては失礼かもしれませんが、正直ビックリです。なるほど。YouTubeショートでは子どもへのユニークな対応がバズっている印象ですが、実際にお子さんがいると聞くと納得です。
後藤 急に乱入してきたお子さんに「だれぇぇ?」と言ったり、パフォーマンスが失敗したときにモノのせいにして「ハァ〜?」と言ったり。おっしゃる通り、そうした小ネタは、実際にウチのチビたちにウケたネタを現場で応用していることが多いです。逆に、現場で子どもたちにウケたネタを家に持って帰ると、チビたちが笑ってくれたり。お客さんは子どもだけじゃないけど、子どもの扱いは上手いほうだと思います。
――では改めて、現在の活動を始めた経緯を教えてください。パフォーマンス中に「じいちゃんの介護がきっかけで」と、話される場面がありましたが?
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後藤 順を追って説明すると、高校3年生のときにじいちゃんが倒れてしまったんです。要介護5の認知症。かなり重たい状況でした。親に言われるがまま、高校卒業後は介護士の専門学校に。あまり授業には身が入らなかったものの、高齢者を楽しませる"レクリエーション"の授業には興味が湧いて、動画サイトで色々調べるうちに、イギリス人の男性がフォーク曲げのパフォーマンスをしている映像を見つけました。その魔法みたいな動きに漠然と憧れたのが、今の活動に繋がる最初のきっかけです。18歳の頃でしたね。
――フォーク曲げに出会うまでは、どんな子どもだったんですか?
後藤 小学生から中学生までサッカー少年でした。その後、愛知県のサッカーの名門・熱田高校に入学するのですが、練習についていく自信がなくサッカーの道を諦め、金髪&短ランのヤンキーに。勉強こそしっかりやっていたものの、学校では目を付けられる存在でした。
――や、ヤンキー!?
後藤 逆に中学生の頃は、廊下を歩くだけで「キモっ」と言われるようないじめられっ子だったんです。その反動で高校デビューしてしまった、という感じですね。ただ中学生当時は、一発芸を覚えていじめっ子たちを笑わせていました。いじめをなくすためには、その場をぼくが笑いで支配すれば良いと思ったんです。子どもながら、前向きですよね。......と、こうして話すとどれも意外なエピソードかもしれませんが、いずれにせよパッとしない男のコでしたよ。
■飛び込み営業で存在証明を繰り返した10代
――話を戻します。介護士の専門学生時代にフォーク曲げの動画に出会って?
後藤 動画で見たように、家にあるフォークを片手で曲げられるよう練習しました。学生時代に得意だった物理の知識を応用して独学で習得。鏡の前で美しい見せ方を研究しては、親や友達に見せていました。そのときに「スゴいね」「どうなってるの?」と驚きの反応をもらったときにスゴくやりがいを感じて、「フォーク曲げの道で食っていきたい」と強く思うようになりました。ちょうど入学から半年で専門学校を辞めてしまったタイミングでもあったので、決意は堅かったです。
フォーク曲げを習得した後は、パフォーマンスに必須なトーク力を身につけるために接客業を学ぼうと、地元のホストクラブでアルバイトを始めました。なぜ、あえてホストを選んだのかというと、接客業(トーク力)の究極だと思ったからです。実際スゴく勉強になりましたし、ちょっと向いていたような気もします(笑)。
――ホスト時代があったとは! 確かに、髪型や所作がどことなくそれっぽいような(笑)。
後藤 必要な技術を身につけたとはいえ、どうすればフォーク曲げで収入が得られるか分からず。とにかくできることをと思い、「おれ、フォーク曲げめっちゃ上手いんですよ!」「タダで良いんで、5分、いや1分だけ使ってください!」と、介護施設やホテル、バーなどに飛び込みで営業。世間知らずな10代という強みを活かして、とにかく現場数をこなしました。当然、今みたいにぼくを知って見てくれる人なんていなかったから、ウケない日ばかりでしたよ。
当時の稼ぎは月3〜4万程度。両親にはかなり心配をかけました。専門学校を辞めた後ろめたさもあったし、両親ともに堅い仕事なので、最初は全く理解されなかったですね。
――転機はあったのですか?
後藤 ホテルへ営業に行ったとき、とある社長さんがチャンスをくれたんです。「何をやるのか知らないけど、面白そうだから30分あげるよ。出演料も払うから」って。フォーク曲げだけでは尺が持たないので、急いでジャグリングなどの技を習得。手探りで作り上げた30分のショーが思いのほかウケて、社長さんから横のつながりを紹介していただいて。そうした広がりのなかで大道芸人さんと接する機会があり、路上でパフォーマンスを披露する"大道芸"という形式を意識するようになり、今の活動へと繋がります。
――"大道芸"の何が魅力だったんでしょう?
後藤 これまでの収益は基本的にイベンターさんや企業さんからいただくギャラでしたが、大道芸はお客さんからの投げ銭で成り立つものです。金額の保証がないとはいえ、オファーを待たずに自らパフォーマンスの場を作れるのはとても魅力的でした。本来は各地方自治体が認める"ライセンス"を取得する必要があるのですが、当初は無知のまま無許可で大道芸をやっては警察に止められていましたね。今は名古屋市と東京都のライセンスを持つ公認パフォーマーとして活動しているので、ご安心ください(笑)。
――ライセンスとは、プロのパフォーマーとして、東京だとお台場や上野公園などの名所で大道芸ができる権利のことですね。
後藤 はい。名古屋だと名古屋城や名古屋港前などでのパフォーマンスが認められています。大勢の人が集まる場所でも堂々と演目ができるので、今や収入の割合は大道芸が8割です。ライセンスを取得し、稼ぎを証明できるようになった辺りから、少しずつ両親も認めてくれましたね。
■課題は気温上昇とキャッシュレス化
――投げ銭はお客さんの任意です。にもかかわらず、収益の大半が大道芸とはスゴいですね。取材当日、お台場での大道芸を拝見させていただきましたが、終演後、投げ銭の列が長く続いていたのもビックリしました。
後藤 ありがたいことに、それも今年に入りYouTubeがバズるようになってからですね。終演後「僕はお金が大好きです」「差し入れは(持ち帰るのが大変なので)アマゾンギフトカードだと嬉しいです」という投げ銭ジョークを言うのが定番なのですが、それがキャラクターとして受け入れられているのも、YouTubeを通してぼくのキャラが知られるようになったおかげです。
ただ、投げ銭が重荷になって大道芸を見に来られなくなっては元も子もない。「気持ちだけでも十分ありがたい」ということも伝えるようにしています。綺麗事に聞こえるかもしれませんが、皆さんの驚く反応や楽しそうな笑顔がいちばんのやりがいですから。フォーク曲げを習得したときから、その気持ちは変わっていないです。
――その後藤さんの純粋なお気持ちがパフォーマンスを通して伝わるからこそ、投げ銭への列が絶えないのではないかと思います。見るも見ないも自由な大道芸。お客さんを楽しませるため、また飽きさせないために後藤さんが心がけていることは?
後藤 楽しいパフォーマンスの準備ができていることが大前提ではありますが、全方位から見られている意識、特に、横側からご覧になっているお客さんのハートをいかに掴むかが大事だと思っています。前列のお客さんはもちろんですが、見づらい位置から見てくれているお客さんに対しても、しっかりと配慮をすること。
お客さんを巻き込んだトークをするときは、どのお客さんも置いてけぼりにならないよう、反応を見つつ、絡み方や絡む長さなどを調整しています。お客さんの反応を見つつアドリブでショーを作っていく感じですね。
何回も観に来てくださるお客さんも多くいらっしゃるのですが、聞くと「毎回アドリブで内容が違うから、何度見ても面白い」とおっしゃっていました。公式HPで予告しているとはいえ、ゲリラ的に開催する大道芸にリピートしてもらうのは、なかなかハードルが高いこと。技の失敗も含め毎回展開が違うショーを目指してアドリブを続けてきたぼくのやり方は、間違っていなかったのかもしれません。
――アドリブで場を盛り上げ、パフォーマンスに集中しながら周りにも気を配る。さすがです。
後藤 左手では遠隔スイッチでBGMもコントロールしています。われながら、超マルチタスクです。14年間このスタイルで頑張ってきたから慣れてはいるけど、終演後はドッと脳みそに疲れが来ますね。糖分を欲してしまいます(笑)。
――では、今後の目標は何かありますか?
後藤 具体的に言えば、この勢いでYouTubeの登録者数を伸ばしたいです。名古屋と東京のみならず、YouTubeを通して、全国の方々にぼくの存在を知ってもらえるようになりたい。
そういえば、よく声優の宮野真守さんに雰囲気が似ていると言われるんです。声優さんとしての実力はもちろん、親しみやすく面白いキャラクター、カッコいいビジュアル。まさにエンターテインメントな宮野さんに、ぼく自身とても憧れがあります。そして大道芸人の中でも1番知名度のあるパフォーマーを目指して道を切り拓いていきたい、とも思います。
――大きく出ましたね。でも、後藤さんなら夢じゃないのかも。
後藤 ただ、大道芸にも色々と課題がありまして。まず、年々平均気温が上がっていること。夏は汗で手先が滑るし、逆に冬はフォークが冷たく固くなって指を切ってしまう。観ているお客さんの体調も心配です。本当は秋頃が大道芸のベストシーズンなのですが、最近はあっという間に寒くなってしまいますからね。大道芸仲間とよく「そろそろ外、キツいですよね?」なんて話をしています。
また、最近は現金を持たない方も多いじゃないですか。最近はPayPayのQRコードをデカくプリントして担いでいる芸人さんもいらっしゃいますけど、ぼくはなるべく気持ちを交わしやすいという意味でも手渡しで受け取りたくて。とはいえ、先日"誰も財布を持っていない現場"もありましたから、キャッシュレス対応していかねば......と思っています。
――ちなみに、イベントがない日はどんなふうに過ごされているんですか?
後藤 平日は、子どもたちが学校へ行くのを見送って、動画編集にメールチェック、最近はスタジオを借りて新しいショーの練習をすることが多いですね。
――お、お忙しい......! オフの日はないんですか?
後藤 自分次第ですね。普通に妻と買い物に出かける日もありますよ。仕事と趣味が混同しているので、完璧なオフの日は少ないのかもしれないけど、充実している証拠だと思っています。あっ、それでいうとぼく、ディズニーが大好きですね。
――ディズニーランド、ですか?
後藤 作品を見るのも、ランドやシーに行くのも好きです。家族とはもちろん、一人でふらっと出かけることも。特に好きなのは「タートル・トーク」。映画『ファインディング・ニモ』に出てくるウミガメのクラッシュとアドリブで会話ができる、ゲスト参加型のアトラクションです。ぼく自身も楽しいし、やっぱり勉強になります。って、結局大道芸の話になっちゃいますね(笑)。
●後藤凌(ごとう・りょう)
1992年10月29日生まれ 愛知県名古屋市出身
○名古屋市&東京都公認パフォーマーとして、大道芸を中心に活動中。2021年『それって!?実際どうなの課』(日本テレビ)にフォーク曲げの達人として出演し、女優・森川葵にレクチャー。ほか『ポケモンとどこいく!?』『王様のブランチ』などメディア出演も多数。話題の大道芸に足を運びたい方は、公式HP(https://ryo49.net/)にてスケジュールをチェック!
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取材・文/とり 撮影/TOYO