9月にスタートした2026年W杯アジア3次(最終)予選。日本は、初戦の中国戦を7−0で大勝したのを皮切りに、ここまでの4試合は順調な結果を残してグループ首位を独走中。
この11月の2連戦は、各チーム全10試合を戦う今予選における折り返し地点になるが、対戦相手が日本との実力差が大きいインドネシアと中国ということもあり、おそらく日本のW杯出場は、今回の代表ウィークでほぼ確実になると思われる。
その意味でも、これからよりフォーカスすべきは結果ではなく、試合内容だ。日本がどのように戦い、何が要因となって相手を上回ることができたのか。あるいは、勝利を収めた試合で何が問題点として浮かび上がったのか。
その視点で、4−0で勝利した今回のアウェーでのインドネシア戦の試合内容に注目してみると、そこで見えてきたのは、スコアとは裏腹な日本の低調なパフォーマンスだった。
【試合内容は低調なパフォーマンス!?】
まず、この試合を振り返る前提として確認しておきたいのが、両チームの布陣だ。ここまで無敗の日本は、これまでどおり、両ウイングバックにアタッカーを配置する3−4−2−1を採用。1トップの上田綺世と3バック中央の谷口彰悟が負傷中ということもあり、小川航基と橋岡大樹が3次予選で初先発を飾った以外は、従来のメンバーがスタメンに名を連ねた。
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対するインドネシアのシン・テヨン監督のチョイスも、基本布陣の5−4−1だった。ただし、前節で日本が引き分けたオーストラリアが同じ布陣を採用して自陣に引いての守りに集中したのと違い、インドネシアは日本陣内では3−4−2−1(3−4−3)にシフトチェンジ。日本ゴールに迫るための陣形もとった。
とはいえ、多くの時間帯で日本がボールを保持していたため、基本的にインドネシアの攻撃は、ロングボールを多用するカウンターが中心。とりわけ序盤から目立っていたのが、11番(ラグナー・オラットマングーン)が日本の3バックの背後を狙う動きに合わせ、ロングボールを配球する攻撃パターンだった。
【新たなパターンでロングボールに苦しむ】
谷口が不在だったこの試合における日本の3バックは、板倉滉を中央に、右に橋岡、左に町田浩樹という初めての構成。敵陣に押し込んで攻撃する際は、相手の「5−4」のブロックの「4」の脇にあるスペースを活用すべく、町田あるいは橋岡が高い位置をとる。そこで板倉との間に生まれるギャップを、インドネシアに狙われた。
立ち上がり9分に与えた決定機は、その典型例だ。その場面、日本は鎌田大地のシュートが相手にブロックされると、そのセカンドボールを回収した19番(トム・ハイェ)が迷わずロングフィード。その時、日本は町田と橋岡が高い位置に残っていたことで、板倉は11番と1対1の状態になっていた。大雨も影響したのか、板倉はボールのバウンドに対応できず、そのまま背後をとられてGKと1対1のシーンを作られた。
その場面はGK鈴木彩艶の好セーブに助けられたが、日本はそれ以降も15分、18分、後半55分、73分と、同じようなパターンで11番へのロングフィードからのカウンターを受けている。加えて、後半のアディショナルタイムには似たかたちで、町田が途中出場の12番(プラタマ・アルハン)に背後をとられるシーンもあった。
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日本はロングボール対応が苦手であることが露呈したのは、今年1月のアジアカップのこと。その時は主に相手のターゲットマンにロングボールを供給され、その競り合いでボールを収められ、あるいはセカンドボールを回収されてからの2次攻撃を受けて苦しんだ。当時の日本の布陣は、4−2−3−1または4−3−3だった。
その解決策にもなっていたのが、6月から採用する現在の3バックシステムだ。それ以来、日本がロングボールに苦しむシーンは激減したわけだが、今回のインドネシア戦では、また新たなパターンでロングボールに苦しむことになった。
もちろん、チーム戦術に余白が多く、その余白を選手に任せる手法でチーム作りを進める日本においては、選手のキャラクターに依存する部分が多い。今回露呈した問題も、3バックの構成が違っていれば起こらなかった可能性もある。しかし、1試合でこれだけ同じかたちでピンチを招いたことは、今後の修正点として挙げておくべきだろう。
【サイドからのクロス攻撃が少なかった】
一方、攻撃面も低調だった。
日本がマークした4ゴールは、いずれも他のアジア勢であれば決められなかったと思われるものばかりで、そういう意味では、あらためて日本のクオリティーの高さを示したと言っていい。
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しかし、チーム戦術の視点から見た場合、この試合の日本は、ボールを保持できたわりには過去の試合と比べて明らかにチャンスメイクに苦しんでいたのも事実だった。
前半は2つのゴールシーンを除くと、決定機と呼べるようなチャンスはゼロ。大雨の影響もあったかもしれないが、75.3%のボール支配率がありながら、シュートは5本のみ(枠内シュート3本)。ボール支配率24.7%のインドネシアがシュート4本(枠内シュート1本)を記録したことを考えると、日本の決定率の高さだけをクローズアップできない。
同じく2ゴールを追加した後半も決定機をなかなか作れず、むしろマンツーマンディフェンスを徹底したインドネシアがボールを保持する時間帯が長くなり、日本ペースとは言えない試合展開と化していた。点差が広がり、試合がオープンな展開になって日本のシュート数は最終的に12本になったが、逆にボール支配率は66.3%に低下している。
さらにこの試合で目立っていたのは、サイドからのクロス攻撃が少なかったことだ。前半のクロス供給はわずかに6本で、より攻撃が停滞した後半は3本に半減してトータル9本。たとえば、9月の中国戦は1試合でクロス31本を記録し、バーレーン戦も16本。ボールが保持できなかった第3節のサウジアラビア戦の6本は例外としても、前節オーストラリア戦でも18本を数えたことを考えると、この試合における日本のサイド攻撃があまり機能していなかったことがわかる。
とりわけ、三笘薫が左サイドの大外でボールを受けてから仕掛けるシーンがほとんどなかった点は見落とせない。左シャドーにポジションを移した後半は当然としても、前半から三笘のドリブル突破という大きな武器を使えなかったことは、サイド攻撃の機能不全に拍車をかけたと言っていいだろう。
その要因として考えられるのは、主に2つ。ひとつはピッチコンディションが悪かったため、これまでのような右サイドからの大きなサイドチェンジを使えなかった点。もうひとつは、「5−4」のブロックの「4」の脇を使って相手守備陣を広げようとするあまり、町田が大外に立つ三笘へのパスコースを切ってしまっていたことだ。
もちろん先制ゴールのように、町田のその動きが効果的に機能するのも確かなので、それ自体が修正点にはならない。しかし同時に、その動きによって三笘が大外のレーンで勝負しにくい状況が生まれるのは、チームとして把握しておく必要はあるだろう。
【攻撃が中央偏重になった可能性】
実際、この試合で三笘がアタッキングサードの左大外レーンでパスを受けたのは、守田から2本、遠藤航から1本しかなく、板倉からは1本もなかった。町田からは3本あったが、そのいずれも、町田が中央寄りのエリアでボールを保持して出したショートパスで、三笘がドリブルで仕掛けにくい状況と言えた。
これもまた、チーム戦術に余白が多いからこその現象とも言えるが、少なくとも、三笘という大きな武器をどのように使うのが最も効果的なのかは、チームとしてあらためて整理しておきたいところだ。
終わってみれば、この試合の勝負の分かれ目は、前半20分以降に目立つようになった守田と鎌田の機転を利かせたローテーションによる中央攻撃だった。しかしそれによって、より攻撃が中央偏重になったことも否めない。
ただ、相手のレベルが上がると中央攻撃が通用し難くなることは、先のオーストラリア戦でも証明されたばかり。しかも、それが致命的なカウンターを受ける引き金になりやすい点を考えると、サイド攻撃とのバランスも見直す必要がある。
0−4という一方的なスコアで勝利したインドネシア戦を、試合内容に焦点を当てて振り返ってみると、攻守両面にわたって現行の戦術に改善点が散見された試合だった。