プレミアリーグを追放されたグリーンウッドが復活 鬼才デ・ゼルビ監督が能力を引き出す

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2024年11月18日 07:30  webスポルティーバ

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西部謙司が考察 サッカースターのセオリー 
第23回 メイソン・グリーンウッド

日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司氏が考察します。今回は、10代にマンチェスター・ユナイテッドで華々しくデビューしたメイソン・グリーンウッド。現在23歳で、フランス・マルセイユで復活中です。活躍の背景は?

【チームのスタイルと符合する得点率】

 メイソン・グリーンウッドは18歳でプレミアリーグ10得点を記録したワンダーボーイだった。10代で2桁得点はプレミアで3人目の快挙。

 しかし素行に問題があった。イングランド代表の活動期間中に、コロナ禍にもかかわらず女性を連れ込んで代表から追放され、さらに暴行容疑で逮捕されて1シーズンを棒に振る。最終的に不起訴にはなったが、マンチェスター・ユナイテッドからスペインのヘタフェへ期限付き移籍。今季からマルセイユでプレーしている。

 マルセイユでは第11節終了時点で8ゴール、得点ランキングの2位。チームもパリ・サンジェルマン(PSG)、モナコに次ぐ3位と好調だ。

 グリーンウッドはチーム全体の約3分の1の得点を叩き出しているが、シュート数は23本なので1試合平均だとほぼ2本程度しか打っていない。流れのなかのシュートは約30%が得点ということになっている。

 グリーンウッドの比較的高い得点率は、マルセイユのプレースタイルとシンクロしているのが興味深い。

 今季からロベルト・デ・ゼルビ監督が指揮を執るマルセイユは、ボール保持率が高い。11試合の平均は59.5%だが、リヨン戦(第5節)とPSG戦(第9節)は前半の早い時間に退場者を出していて、この2試合を除くと平均65.7%と非常に高いボール保持率だ。

 一方、シュート数は保持率に比べるとあまり多くはない。平均7.3本。前記の退場者を出した2試合を除いても平均8.2本である。しかもシュート数が増えたのは第8節のモンペリエ戦からで、それ以前の7試合は平均5.7本しか打っていない。7試合の得点数は16。試合平均で2.28得点なので、シュートを打てば約40%が得点になっていたわけだ。

 ボール保持率は高い。しかしシュート数はあまり多くない。そして打てば半分くらいは得点になる。これが今季のマルセイユの特徴である。

 さして多くないチャンスを確実に決めてきた、グリーンウッドのプレースタイルに重なるわけだ。

【右サイドからのカットイン 一芸で通せている現状】

 グリーンウッドのポジションは、4−2−3−1システムの右サイドハーフだ。

 本人は両足利きと話しているが、マルセイユでのプレーを見る限りは左利きそのもの。右サイドからカットインしての左足のシュートが十八番となっている。シュートだけでなくラストパスもこの形から繰り出されていて、その点ではカットインからの左足という一芸で勝負している感さえある。

 ドリブルのテクニックは多彩。シザースが得意で、時々はルーレットも披露する。ダブルタッチもうまい。トレードマークの左足アウトでのカットインは瞬間的なキレがあり、相手DFはわかっていてもなかなか阻止できない。

 得点のほとんどはドリブルシュート。芯を食ったシュートをゴール隅へ正確に蹴り込む能力が抜群だ。右足も左と遜色なく使えるし、一発で端から端まで飛ばせるサイドチェンジや左足アウトのクロスボールなど、キックの強さと精度、幅の広さがすばらしい。

 能力的には多彩なのだが、右からのカットインに特化しているのは、それ以外のプレーをする必要があまりないからだ。

 マルセイユの、というよりデ・ゼルビ監督のサッカーの大きな特徴が、オートマチック化した擬似カウンターである。

 ボール保持率が高いのは、後方でのパスが多いからだ。後方でじっくり保持し、相手が食いついてきたら縦パスを差し込む。縦へボールを出した時にはカウンターアタック同様の状況になっていて、スペースは十分。

 グリーンウッドは右サイドに張っていて、パスを受けたら前向きに仕掛けていく。スペースがあればひとりでシュートまでいける力があり、実際打てば高確率で枠へ飛ばせる。この一芸で完結できる。

 一方で、後方のキープで相手を十分に食いつかせてから前進するので、敵陣に攻め込む回数自体は限定的。攻め込んだ時は明確にチャンスになるけれども、回数は多くない。

 しかし、第8節のモンペリエ戦は保持率67%でシュートも18本だった。そのうち11本は枠内。スコアは5−0。おそらくこれが目指しているサッカーなのだと思う。

 モンペリエ戦は相手が後半に退場者を出している事情はあったが、ナント戦(第10節)も保持率75%でシュート8本、オセール戦(第11節)も74%で12本だった。スコアはナントに2−1、オセールに1−3と結果は違っているが、内容的には理想に近づいているのではないかと思われる。

 さすがにグリーンウッドの得意技も対戦相手から警戒されるだろうから、得点ペースも落ちていくかもしれない。ただ、前進の回数が増えていけば、潜在的に持っている多彩なプレーが引き出されていく可能性がありそうだ。

【表芸と裏芸】

 一芸主義でそればかりなら、対応は簡単そうだ。だが実はそうでもない。

 リオネル・メッシの、左足アウトサイドを使ったカットインの威力を知らない者はない。しかし、止めるのは至難だ。

 カットインからのシュート、パスという表芸があまりに強力なので、結果的にそればりになっているが、実は左前へ進む以上に右方向へ抜くのもうまい。というより、メッシのドリブルは、相手の重心を見て反対へ運ぶ後出し型なのだ。

 相手が多少警戒したところで、カットインが可能なだけの技量があったので表芸が際立っていたが、さらに警戒を強めたら簡単に右へ抜くことができる。圧倒的な技量のせいで表芸が目立っているだけで、裏芸の縦突破は完全に逆をとっている分より鮮やかだった。

 本当にひとつしかなければ、いずれは対応される。トッププロの世界はそんなに甘くない。なかにはスタンレー・マシューズやガリンシャみたいに一芸でほぼずっと通用してしまった猛者もいるが、普通はやがて行き詰まる。

 ただ、表が際立っていれば、裏がそこまででなくても通用しやすくなる。グリーンウッドは隠しているわけではないけれども右足も相当使えるので、カットインしかないと思ってくれたほうがたぶん好都合だろう。

 デ・ゼルビ監督の戦術がグリーンウッドの一芸を引き出した。グリーンウッドに依存した攻撃とも言える。ただ、おそらく後半戦からは印象づけた表芸の裏が活きてくるのではないか。

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