「これほど転売が目の敵にされるのは日本特有の現象ではないか」。そう語るのは、人気商品を買い占め、その価格をつり上げて売る、いわゆる「転売ヤー」を追うフリーライターの奥窪優木さんだ。このほど『転売ヤー 闇の経済学』(新潮社)を上梓した。
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日本では、限定品の「キティちゃん」が発売されると、転売目的の日本人と外国人が列をなして買い占めに押しかける。そして、その騒ぎがテレビの情報番組で取り上げられる。これがいつもの光景だ。
これまで転売は本当にほしい人に商品が届かなくなるという問題が指摘されてきた。転売対策を考えるにあたり、なぜ日本でここまで転売ヤーが目の敵にされているのかにも目を向けてみたい。
奥窪さんはコロナ禍のマスク転売が落ち着いてからも、さまざまな商品の転売が「ビジネスとして広がりを見せている」と感じて取材を進めた。
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フィギュアスケーター羽生結弦さんのイベントでグッズを900万円分も買い占めた在日の中国人女性。
百貨店の外商から購入した希少なお酒を売って、大きな利益を出した日本人男性。
知識ゼロから転売で生きることを決め、転売にのめり込んでいく若い大学生。
著書では転売に関わる人や、転売で扱われる多くの商品が登場する。
奥窪さんがディズニーランドとディズニーシーでグッズを「買い付け」る中国人グループに同行した際には、ぬいぐるみなどでふくれあがった15キロもの袋を持ち歩きながら、彼らは1日で14キロ歩いたという。
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また、転売ヤー側の視点に立つと、園内には同じような行動をしている複数の転売ヤー集団がいることに気付かされたそうだ。
運営側による一定の対策がなされる前だった事情もあるが、彼らは合計で約450万円分のグッズを購入し、それを売りさばいて20〜30%の利益を出したと見込まれるという。
奥窪さんは「良い転売と悪い転売がある」と説明する。
たとえば、神保町の古書街から希少な本を発掘して、オークションなどで販売し、コレクターが購入するようなものは「良い転売」だ。
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先ほどのディズニーでの買い占めなどは「悪い転売」にあたる。
「市場で埋もれていたものを見つけて、ほしい人に届けるのは良い転売。転売ヤーの関与によって、本当にほしい人が入手しにくくなるのが悪い転売です。誰かが嫌な思いをするのが悪い転売とも言い換えられます。
コンサートのチケットなど、キャパシティが決まっていて、数が増やせないものを転売するのは特に悪質性が高いと言えます」
そのような転売の活動は今後も活況だろうと指摘する。価格吊り上げ、ファンに商品が届かないなど、「社会悪」の側面が強い。対策は急務だ。
ディズニーを狙った転売グループにいた中国人留学生の若者がこんなことを言ったという。
「世の中から転売はなくならないですよ。転売が良くないこととされている日本では逆に、ビジネスチャンスがいくらでもある。やりたがる人が少ないですから」
「中国では転売は悪いことと認識されていません。ほしい商品が品薄になって不満を抱えている人はいると思いますが、社会全体で目の敵にはされていません。一つのビジネスです。
日本はかつて、資本主義ながらも一億総中流と言われ、定価で物を買えるのが当たり前でした。ところが、貧富の差が広がり、ほしいものをかっさらわれ、さらに利鞘をのせて転売ヤーが儲けているのは許せない。。そんな気持ちを抱くのも無理はありません」(奥窪さん)
とはいえ、転売とは「時流を見極め、これといった商材に狙いを絞り、大量に買い占め、販路を確保しながら、在庫を抱えないように売って利益を得る行為」とも説明できる。
これはそのまま商売の基本でもあり、ビジネスセンスや努力が必要になることも間違いない。
中国人女性の間で支持されるSNS「小紅書(シャオホンスウ)」では、ライブコマースでフォロワーに商品を販売できるのが特徴だ。
先の羽生結弦グッズ転売で儲けた中国人女性も、会場で売られている限定商品について生配信を行い、自分のフォロワーから注文を受けていた。
フォロワーを増やし、繋ぎ止めるための労力が欠かせない。
「自己実現の魅力もあり、ビジネスの快感も得る人もいるはず。日本の転売ヤーはこれからも増えていくでしょう」
奥窪さんは、転売対策を考えるにあたっては、転売ヤーだけを叩くのではなくて、元の売り手側にも問題意識を持ってほしいと話す。
「転売対策のために、店側が客に『転売をしない』と誓約書にサインさせることによって、刑事なら詐欺罪での摘発、民事なら契約違反だとして、転売対策もできます。ただ、抜本的な対策になるかというと疑問です。
限定商品を販売することは、転売ヤーに来てくださいと誘うようなものです。ファンに嫌な思いをさせるだけ、そのような視点も持ってもらえたらと思います」
転売の思わぬリスクにも言及する。
貧富の差は広がり、若者や幼い子どもの母親が「闇バイト」に走る世情だ。
「転売のために並びに動員をかけられた人が、スマホの契約に駆り出されることがあります。これも闇バイトの一つでしょう。彼らが強盗に加担したという話はまだ聞いたことはありませんが、転売が闇バイトのゲートウェイになっているとは指摘できます」
【プロフィール】
奥窪 優木(おくくぼ・ゆうき) 1980年、愛媛県松山市生まれ。フリーライター。上智大学経済学部卒業後に渡米。ニューヨーク市立大学を中退、現地邦字紙記者に。中国在住を経て帰国し、日本の裏社会事情や転売ヤー組織を取材。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』『ルポ 新型コロナ詐欺』など。
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