山梨県は18日、次世代型路面電車(LRT)を使った「富士山登山鉄道構想」における鉄軌道を断念し、レール(鉄軌道)を不要とするゴムタイヤ式の新交通システム「(仮称)富士トラム」を発表した。今後、県民への説明で十分な合意形成を図り、新交通システムを推進するとしている。
「富士山登山鉄道構想」は2021年2月に発表。富士スバルラインに鉄軌道を敷設し、LRTを運行させる構想を提案した。2023年度、将来の事業化に向けた調査を実施。2024年9月に事業化検討の報告、同年10月に技術面の課題および総合的な事業化方針の調査報告を公表している。
一方、2023年11月から2024年1月にかけて、富士北麓の6市町村すべてで住民説明会を開催。2024年6〜7月、県職員が地域住民からの意見を聞く場を14回設けるとともに、他の交通システムとの比較を行うなど、LRTにとどまらないさまざまなアプローチを検討してきた。11月13日には、山梨県知事の長崎幸太郎氏が、構想に反対する団体関係者から直接意見を聞く会も行われた。
構想への反対意見として、「鉄軌道の敷設など富士スバルラインの大規模工事が必要」「環境破壊が避けられない」「建設費や災害復旧費のコスト面が過大」などの指摘があり、検討を重ねた結果、これまで議論を続けてきた従来の構想における鉄軌道案は断念。低コストで環境に配慮した「(仮称)富士トラム」を検討し、実現可能性を見出したと説明している。
「(仮称)富士トラム」は「電車とバスの両方のメリットを備えたニューモビリティ」とされ、山梨県が推進する「グリーン水素」を動力源として採用することで、環境負荷を低減。持続可能な交通網の構築をめざす。磁気マーカーや白線による誘導方式を導入して軌道とすることにより、軌道法が適用され、富士スバルラインへの一般車両の進入を規制することで来訪者コントロールが可能になる。道路に鉄軌道を敷設する大規模な工事を行う必要がなく、メンテナンスが軽微で、大幅なコストダウンを実現するなどのメリットもあるという。
「新交通システムを核としたグランド・ビジョン」も示された。富士山の課題といわれる五合目の来訪者コントロールにとどまらず、鳴沢村から山中湖村に広がる6市町村の富士北麓エリア、富士山とリニア新駅「山梨県駅」を直結することで、リニア中央新幹線の停車本数増加もめざす。将来的に県内各地への二次交通網を構築することにより、県民の生活向上、観光客誘致の促進、地域経済の活性化も期待できると説明。東京都内まで25分のリニア新駅がハブとなり、企業誘致や移住定住者の流入にも貢献することで、国内における山梨県のプレゼンス向上にもつながるとしている。(MN 鉄道ニュース編集部)