日本人にとって身近で親しみのある鳥・スズメが今、環境省の絶滅危惧種の基準値を超えるペースで激減しているという。なぜ急激に減っているのか? 減るとどんな影響が出るのか? そして食い止めることはできるのか? スズメ研究の第一人者に聞いた!
■スズメは人と共に繁栄してきた!
環境省と日本自然保護協会は10月1日、スズメの年間減少率が3.6%だと発表した。これは環境省の絶滅危惧種の基準となる年間減少率3.5%を超える数字だ。
日本人にとって身近な鳥であるスズメが、今、絶滅ペースで少なくなっている。
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では、なぜスズメが激減しているのか? スズメがいなくなるとどんな不都合が起きるのか?
『電柱鳥類学 スズメはどこに止まってる?』(岩波科学ライブラリー)、『スズメの謎』(誠文堂新光社)などの著書がある北海道教育大学の三上修教授に聞いた。
――まず、スズメはすごく身近な鳥ですが、なぜ人間のそばで暮らしているんですか?
三上 スズメも昔は木などに巣を作って、虫や植物の実を食べて暮らしていたと思います。しかし、人間が家などの建物を造り農耕を始めると、人間の生活圏の中に入り込んできました。
その理由は、家などの建物があれば巣が作れるからです。また、農耕をしていればエサとなる穀物がある。さらに穀物を食べる虫などもたくさんいます。
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もうひとつの大きな理由として、人間がいると天敵となるワシやタカの仲間に襲われにくいということがあります。大型の鳥は人間を恐れるので、人間の生活圏には近寄ってこないのです。スズメは人間の生活をうまく利用している。そういう意味で人と共に繁栄したといえます。
――でも、なぜスズメは人間を怖がらないんですか?
三上 それはよくわかっていません。たまたま人間を怖がらない小鳥が何種類かいて、その中のひとつがスズメだったのではないでしょうか。でも、スズメもとても警戒心が強くて人間の見えない所に巣を作りますし、人間が見ていると巣の中には入らないんです。
ですから、人間を怖がらないけれども、人間に心を許しているわけではないと思います。
――そういえば、スズメの巣をあまり見たことがありません。どんな所にあるのですか?
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三上 スズメはもともと木の穴などに巣を作っていました。ですから街の中に穴のような空間があればいいわけです。例えば、昔だとかやぶき屋根だったので、その隙間に巣を作ったり、瓦屋根になると瓦の隙間に巣を作ります。
瓦屋根には雀口(すずめぐち)と呼ばれる軒先の隙間があるのですが、スズメがそこによく巣を作るので雀口と呼ばれるようになったんです。また、雨戸などをしまう戸袋などにも巣を作ります。
――本当に人間のすぐ近くで暮らしているんですね。
三上 そうですね。実は家だけでなく、電柱や道路標識の隙間、配管の中などにも巣を作るんです。
鳥の中には川岸でないと巣を作らないとか、苔がないと巣を作らないといった鳥もいるんですが、スズメはちょっとした隙間があれば巣を作ることができるということが、人間のそばで暮らすようになった理由のひとつかもしれません。
――巣も作りやすいし、エサもあるし、天敵からも守ってくれる。スズメにとって人間は、とても有益だったということですか?
三上 そうだと思います。ほかにも人間を利用している生物はいて、例えば、ゴキブリなども人間によって分布を広げた生物といえます。
――逆に、人間にとってスズメは有益なんでしょうか?
三上 まず、スズメは農業害虫を食べてくれるという利点があります。『舌切り雀』に代表されるように、スズメをいじめると不幸が訪れ、スズメを助けると幸せが訪れるというおとぎ話はよくあります。
たぶん昔の人はスズメを少なくしすぎると問題が起こるというのを感覚的にわかっていたのでしょう。
一方でスズメは穀物なども食べてしまいます。しかし、昔はスズメのほかにも農作物を食べるたくさんの害獣がいたので、そこまでスズメを敵視していなかったと思います。
スズメを捕まえて食べることはありましたが、家紋にスズメを使ったり、「スズメ色」や「スズメの涙」などの言葉があるようにいい関係だったと思います。
――昔はスズメを食べていたんですね。
三上 はい。高齢の方に聞くと、子供の頃は空き地みたいな所でスズメを捕まえて、焼いて食べていたそうです。昔のマンガなどではザルに突っかい棒をして、地面にお米をまいてスズメを捕まえる場面などがよく出てきます。
今は許可された場合などを除き、スズメを捕まえたり飼ったりすることは法律(鳥獣保護法)で禁止されていますが、昔はよく捕まえて食べていたようです。
――三上さんはスズメを食べたことがありますか?
三上 一度は経験しておこうと丸焼きで有名な京都・伏見稲荷大社の参道沿いで食べたことがあります。スズメは肉の部分が少ないので、私は普通の鶏肉のほうが好きです。
■巣が作れなくなり、エサもなくなった......
――そんなスズメが今、激減しているそうですが、なぜなんでしょうか。
三上 減っている理由は「わからない」というのが答えなんですが、その中でもわかっていることがふたつあります。
まずひとつは、巣を作る場所が減っています。古い住宅と新しい住宅を比べるとスズメの巣の数は古い住宅のほうが2、3倍多いんです。
昭和の時代に建てられた家は、隙間がたくさんありました。一方で最近の新しい住宅は気密性が高く、スズメが巣を作る隙間がほとんどありません。もし、隙間があったとしてもきちんとふさがれてしまっているんです。
そしてふたつ目は、やはりエサが少なくなっています。昔はなんだかよくわからない空き地がたくさんありました。『ドラえもん』に出てくる土管が置いてあるような空き地です。
ああいう場所でスズメはエサを取っていたのですが、今は空き地があると駐車場などにしてしまうので、雑草も生えないし虫もいません。
スズメは巣を中心に半径100〜200mが生活圏で、その範囲でエサを探します。すると、巣を作る場所もエサを取る場所も減っているので、スズメ自体の数も減っているのだと思います。
ただ、東京の都心だけはスズメが少し増えているようです。理由として考えられるのは、建物や電柱が密集しているためどこかに巣を作れる場所があるからです。
また、都心は屋上などに木を植えたりして、緑化に力を入れていますよね。すると、エサを取れる場所もある。ひょっとしたらタカなど天敵もより少ないかもしれません。そのために増えているのかもしれません。
――じゃあ、緑地を多くすればスズメは増えるということですか。
三上 それも単純にそうとはいえなくて、森林にスズメは住まないんです。でも、森林を住宅地に造成するとスズメの生息場所になる。
不思議なのは、過疎地になって人間が住まなくなるとスズメもいなくなってしまうんです。家屋はあるし、荒れているけれども農地はある。巣を作る場所もエサを取る場所もあるのに人間の姿がなくなるとスズメも消えていきます。
ですから、ただ単に緑地を増やすというだけでなく、人間との関わりが重要だということです。
――スズメって不思議な鳥なんですね。ちなみにスズメがいなくなることで人間に何か影響が出るのでしょうか。
三上 スズメは街の中で雑草の種や害虫を食べたりしています。ですから、スズメがいなくなると雑草が増えたり、街路樹の葉が虫に食われたりします。それを抑制している効果は大きいと思います。
それから、スズメは人間にとって身近な鳥で、スズメを見ると多くの人がホッとしたり、楽しい気分になったりします。それが見られなくなるというのは精神的な寂しさがあるのではないかと思います。
――ちなみに、スズメをこれ以上減らさないためにはどうしたらいいのでしょうか。
三上 まず、街中の木をムダに切らないことです。それから、巣を作る場所が不足しているので、巣箱などを設置すれば増えるかもしれません。
ただ、私が個人的に心配しているのは、スズメは激減していますが、同じようにオナガやセグロセキレイなどの鳥も危機的に減っています。
年配の方は、そうした鳥のことも知っているのですが、最近の子供は鳥を見てもどの鳥だかわからないことが多いようです。よく「生物の多様性が重要だ」といわれていますが、私はそこに何か違和感があります。
ですから、スズメが激減しているというニュースをきっかけに、まずは身近にいる鳥を見て「なんか鳥がいるのはいいね」と思ってもらえることが大切なのかなと思っています。
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人と共栄してきたスズメが激減している。それは人間の暮らし方を見直してほしいというスズメからのメッセージなのかもしれない。
取材・文/村上隆保 イラスト/はまちゃん 写真/時事通信社 PIXTA