「とりあえず、総務に聞く」はなぜ減らない? リモートの弊害だが、総務自身に課題も

0

2024年11月20日 06:41  ITmedia ビジネスオンライン

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia ビジネスオンライン

(提供:ゲッティイメージズ)

 2023年に実施した調査によると、6割以上の総務が「この3年間で仕事量が増えた」と回答している。もちろん、この3年間とはコロナ禍、ハイブリッドワーク状態を指す。


【調査結果を画像で見る】この3年間で6割の総務が「仕事量が増えている」と回答、2030年に目指す総務の立場と現在の総務の立場(計3枚)


 推察するに、2つの要因があったように思う。1つは、ハイブリッドワークを推進するための新たな仕事が増えたこと。もう一つは、従来は現場で完結していたこと、出社していれば現場で対応できたことが、リモートによって対処できず、やむなく総務に連絡が入って対応する仕事が増えたことだ。前者は攻めの仕事である一方、後者は不必要な仕事と言えるかもしれない。


 従来から、総務は「なんでも屋」と思われており、下記の調査結果もそれを裏付けている。


 筆者は総務担当者にインタビューをすることが多いが、ある企業では「総務の全業務の80%が社内からの問い合わせ処理に当てられていた」という話を聞いたことがある。この社内からの問い合わせは、先述したハイブリッドワークによって増加したのだろう。


 社内で「とりあえず、総務に聞く」がなくなると、総務の業務削減が可能になる。では、どのようにしたら実現できるのか?


●「とりあえず、総務に聞く」を減らす、3つのやり方


 ここからは「とりあえず、総務に聞く」という行為を社内で減らしていく3つの方法を解説する。


チャットボットの活用


 テクノロジーの進展により、多くのデジタルツールが登場している。総務において真っ先に導入すべきなのが、社内の問い合わせのデジタライゼーションである。下記の調査結果がある。


 AIチャットボットの導入により、直接総務に問い合わせ対応が来ないようにするのだ。昔は、FAQを社内のイントラに掲載して、対応していた企業が多かった。この場合は、新たなFAQを追加するなど、とにかく数多くのFAQを掲載しないと使ってもらえなかった。


 一方で、AIに問い合わせに必要な規則、細則、マニュアルなどを学習させておけば、チャットボットが適した回答を吐き出してくれる。新たなルールができれば、その情報を追加していけばいいのだ。


 ただ、そのようなシステムを作ったとしても、それを使わずに総務に問い合わせてくる従業員は必ずいる。その際の対応で必要なことは、心を鬼にして追い返すことだ(ホスピタリティマインドあふれる総務パーソンとしては、大変心苦しいかもしれないが)。


 「チャットボットに聞いてもらえれば必ず回答がありますから、それを使ってください」と伝える。もちろん例外事項であれば対応するが、そのようなものは数少ない。案外、いつも同じ人が、同じ質問をしてくるケースか多いものだ。


 ここは、従業員教育を徹底する。とにかく追い返して、自ら探してもらうのだ。実は、そのほうが、24時間365日いつでも聞けるので結果的に便利なはずだ。


QRコードで自己完結


 社内制度などの問い合わせもさることながら、PCの故障や使い方が分からないので、「とりあえず、総務に聞く」という実態もあるだろう。


 ハイブリッドワークとなると、社内会議もオンライン会議となることがある。そうなると、会議室にあるディスプレイにPCを接続して会議を始めることになる。機器に詳しくない人だと、マイクやPCの接続不良などのトラブルが起こった際に「必ず、総務に聞く」ということになる。それも、毎回同じ人が、覚えられずに再度聞いてくる。込み入った故障の場合は、総務の手に負えないこともある。


 ある企業では、プリンターやディスプレイ、マイクから現場にある従業員が使用するであろう機器全てにQRコードを貼っている。それを読み込むと、使い方から故障対応までのマニュアルが表示される。困りごとや故障時にはそれを見ながら自分たちで対応する。マニュアルが変更されれば、当然、クラウド上で変更をしておく。マニュアル修正のために、わざわざ総務が現場に出向く必要も必要ないのだ。


攻めの情報発信


 「とりあえず、総務に聞く」という現象は、現場の従業員が分からない・知らない・覚えていない状態にあるため発生する。確かに、しっかりとマニュアルが認知されていて、探しやすいところに格納されていれば、「非」は従業員側にあるかもしれない。しかし、そのマニュアルのあるところをしっかりと伝えていない、あるいは分かりにくいということであれば「非」は総務側にある。


 つまり、総務からの情報発信をしっかりと、丁寧に、各自に伝わるようにしなければならない。現場は忙しく、自分と関係ないものについては関心を示さない、示したとしても覚えていられない。そのような実態であると肝に銘じて、誰でもが分かりやすいところに案内を出す、見つけ方を示し、そもそも「とりあえず、総務に聞く」状態を回避する努力はすべきだと思う。むしろ、「とりあえず、総務に聞く」ということ自体、総務の情報発信の不手際と考えるべきかもしれない。


 この情報発信は、上記のような知らしめなければならない「Must」のものから、総務についての取り組みの背景とか、目指すべきところといった、知っておいてもらうと総務の仕事がやりやすくなる「More」の情報にも言えることである。


 総務は何者なのか、何を目指すべき部門なのか、今期はどのような目標を立てているのか、今後、何を実現しようとしているのか──そのような未来志向のコンテンツについても、積極的に情報発信する必要がある。そうすることで「それなら、総務にもっと聞いてみよう」といったポジティブな問い合わせを呼び込むのだ。


 総務の取り組みに関心をもってもらい、ポジティブな依頼事項が増える分にはウェルカムではないだろうか。仕事は増えるかもしれないが、もぐらたたきではない。未来志向の仕事に結びつくなら、やりがいもでてくるし、モチベーションアップにもなるだろう。


 「とりあえず、総務に聞く」をなくすことで、ネガティブな総務との接点を減らす。そして「それなら、総務にもっと聞いてみよう」というポジティブな接点を増やしたいものである。


著者プロフィール・豊田健一(とよだけんいち)


株式会社月刊総務 代表取締役社長/戦略総務研究所 所長/(一社)FOSC 代表理事/(一社)IT顧問化協会 専務理事/日本オムニチャネル協会 フェロー


早稲田大学政治経済学部卒業。株式会社リクルートで経理、営業、総務、株式会社魚力で総務課長を経験。日本で唯一の総務部門向け専門誌『月刊総務』前編集長。現在は、戦略総務研究所所長、(一社)FOSC代表理事、(一社)IT顧問化協会 専務理事/日本オムニチャネル協会 フェローとして、講演・執筆活動、コンサルティングを行う。


著書に、『リモートワークありきの世界で経営の軸を作る 戦略総務 実践ハンドブック』(日本能率協会マネジメントセンター、以下同)、『マンガでやさしくわかる総務の仕事』、『経営を強くする戦略総務』



    前日のランキングへ

    ニュース設定