三笘薫は、ブライトンの絶対エースだ。プレータイムは限られているが、リバプールの遠藤航は同僚の信頼を勝ち取り、ひざとハムストリングの負傷が癒えさえすれば冨安健洋はアーセナルの最終ラインで異彩を放つに違いない。
今、プレミアリーグで日本人選手が注目されている。
来年1月に再開する移籍市場でも、いくつかのクラブが日本人をリストアップする公算が大きくなってきた。現時点で憶測の域を出ない情報だとしても、日本人が高く評価されている証(あかし)でもある。胸を張ろうじゃないか。
「オファーが届けば、クラブも容認せざるをえない。経済的にも抗えない」
中村敬斗が所属するスタッド・ランスの周辺から、あきらめにも似た声が聞こえてきた。
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今シーズンは11試合で6ゴール。常にゴールを意識したポジショニングとプレーの選択には、一見の価値がある。中村本人もステップアップのチャンスを虎視眈々とうかがい、オファーには積極的に耳を傾けるという。
日本代表で三笘のポジションを脅かそうとしている左ウイングは、どのクラブならフィットし、定位置確保の可能性が高いだろうか。
トッテナム・ホットスパーは悪くない。
第一にアンジェ・ポステコグルー監督の存在だ。2018年から3シーズン、横浜F・マリノスを率いた経験から、日本人の特性を理解している。クラブが不振に陥っても責任転嫁をせず、「すべて私の責任」とすべての批判を受け入れる姿勢も魅力的だ。記者会見で選手に罵詈雑言を浴びせるようなタイプは、絶対に避けなければならない。
また、トッテナムの現状も、中村には好都合だ。現時点でレギュラーはソン・フンミン、二番手がティモ・ヴェルナー。韓国の英雄は今シーズンかぎりで満了を迎える現行の契約を2年更新し、トッテナムに骨を埋める覚悟だ。しかし、ヴェルナーはビッグチャンスをたびたび外し、サポーターのため息を誘う。
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ソンはセンターフォワードでも対応できる。ブレナン・ジョンソンも左をこなせるが、基本的には右ウイングだ。したがって、少なからぬチャンスが中村にも訪れるという寸法である。
【堂安を受け入れる下地は十分すぎる】
フライブルクの堂安律は、日ごろから「ステップアップ」を口にしているため、好ましいオファーが届けば積極的に移籍を検討するだろう。
172cm・70kgと体躯には恵まれていないものの、フィジカルは強い。相手DFラインの裏を一瞬にしてつくクイックネス、なおかつオフ・ザ・ボールの動きもすばらしい。
当然、プレミアリーグでも右ウイング、あるいは中盤右インサイドで闘うことが望ましい。
ニューカッスルがオススメだ。アンソニー・ゴードンとハーヴィー・バーンズが激しく鎬(しのぎ)を削る左サイドに対し、右ウイングはやや手薄だ。ジェイコブ・マーフィーに突出した武器はなく、ゴードンも右をこなすが窮屈な印象を受ける。
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また、サンドロ・トナーリとショーン・ロングスタッフがローテーションしている中盤右インサイドは、プレミアリーグのハイ・インシティを踏まえると、ひとりでも多くの人材が必要だ。
さらにニューカッスルのエディ・ハウ監督は、攻守の切り替えに口うるさい。相手ボールになった際のリアクションに定評のある堂安なら、対応できる。まして地元サポーターは、ハードワーカーがお好みだ。労を惜しまぬ堂安を受け入れるだけの下地は、十分すぎるほど整っている。
この一年、久保建英は移籍市場を賑わせてきた選手のひとりだ。レアル・ソシエダでも別格。ステップアップの機は熟しており、プレミアリーグの列強からも複数のオファーが届くものと考えられる。
ただし、マンチェスター・シティは避けたほうがいい。財務規定違反によって115もの嫌疑がかけられ、今シーズン終了後に下部リーグ降格、補強禁止などのペナルティを科されるリスクが高くなっているからだ。自ら進んで"泥船"に乗る必要はない。
また、マンチェスター・ユナイテッドは下部組織出身のアマド・ディアロを右サイドの主戦に育てるプロジェクトが進行中で、チェルシーはきっといつかまた混乱する。共同オーナーのトッド・ベーリー(MLBのロサンゼルス・ドジャーズも所有)とベフタド・エグバリが補強方針をめぐって対立。現場に悪影響を及ぼしかねない。
かねてから監督vs.選手、メディカルスタッフvs.監督など、ロンドンの強豪は内紛がお家芸だ。初のプレミアに挑戦する久保の新天地として好ましくない。
【絶好調サラーの後継者探しは急務】
さて、この夏も久保はリバプール移籍が有力視されていた。世界に冠たる名門に、南野拓実(モナコ)、遠藤航に続く3人目の日本人となれば胸が躍る。
もちろん、高い壁はある。久保がポジションを争うのはモハメド・サラーだ。今シーズンも絶好調で、8得点6アシストはともにリーグ2位。クラブの首位快走に貢献している。リバプール所属後8年の全データも165得点74アシスト。得点王3回、MVP1回と、まさにリヴィング・レジェンド(生ける伝説)である。
ただ、来年6月で切れる契約を11月中旬の段階で更新していない。今年6月で32歳になり、後継者の獲得が急務だ。今夏に獲得したエンリコ・キエーザはケガが多すぎる。将来を嘱望されているハーヴェイ・エリオットも足首の脱臼骨折により、負傷者リストに長らく名前が書きこまれたままだ。
こうした事実に伴い、リバプールが右ウイングの補強を図るのは至極当然で、そのなかのひとりに久保がリストアップされたと考えられる。
仮に1月の移籍が実現しても、しばらくの間はサラーのバックアップだ。プレータイムは短く、それでも答えを出さなければならい。敗れた場合は、スケープゴートとして批判が集中する。世の中とはそういうものだ。
ただ、1月からの5カ月を準備期間に設定し、来シーズン以降に本領発揮という中長期的な考え方も悪くない。
もちろん、サラーの負担を軽減するスーパーサブとして即フィットできれば、サポーターは大喜びだ。かつてリバプールではルイス・スアレス(現インテル・マイアミ)が、フィルジル・ファン・ダイクが、周囲と連係を図る時間が少ないにもかかわらず、短期間でチームの軸になった。マンチェスター・ユナイテッドのブルーノ・フェルナンデスも成功例のひとりで、その後の彼らの活躍はあらためて言うまでもない。
今回のテーマは、「ステップアップ」である。久保も堂安も中村も、現在と同等もしくは下まわるようなクラブに新天地を求めてはいけない。ハードルが高かったとしても、クリアすることによって、自らの存在価値もさらに上昇する。
決して安売りするなかれ──。