バスケ日本代表「八村・河村・渡邊の不在」をどうする ホーバスHC2期目の新たなキーマンは?

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2024年11月20日 10:01  webスポルティーバ

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新生ホーバスジャパンのキーマン(前編)

 舌に感じたのは、ひとつの白星も挙げられなかった苦さと、しかし世界の強豪にまったく太刀打ちできないわけではないという甘美さの入り混じったものとなった。

 日本バスケットボール協会は、今は甘美なその味覚がこの先もっと濃いものとなると信じて、男子日本代表チームのトム・ホーバスHC(ヘッドコーチ)と契約を延長するに至った。

 再任のオファーを受けるかどうか逡巡したという同氏も、「パリよりもまたレベルアップできる。まだ仕事は終わっていない」と、ロサンゼルス五輪でパリ以上の成果を得ることを見据えた言葉を述べている。

 ホーバスHCはさっそく「2期目」の仕事に着手している。手始めは11月21日と24日にあるFIBAアジアカップ予選・ウインドウ2でのモンゴル戦(日環アリーナ栃木)とグアム戦(グアム大学カルボフィールドハウス)の2試合である。

 ホーバスHCと代表スタッフはさらなる高みを目指すことのできるチームづくりにあたって、また才能ある選手を探していくことになる。パリ五輪でエースPGだった河村勇輝(メンフィス・グリズリーズ)がNBAデビューを果たし、当面は八村塁(SF/ロサンゼルス・レイカーズ)、富永啓生(SG/インディアナ・マッドアンツ/Gリーグ)といった「海外組」抜きで戦っていかねばならない。

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。

 今回の代表合宿では、これまで代表活動経験の少ない選手が数多く招集されている。海外組抜きで、どのようなバスケットボールを展開するのか。また、選抜されたニューカマーから誰がカギを握るのか、あるいは今後そうした存在になっていく素質を感じさせるか、今回選ばれた代表メンバーから考察したい。

【ホーバスHC「もう1度見てみたい」存在】

 今シーズンの日本バスケットボール界において、脇真大(わき・まさひろ/SG/22歳)の名前をより頻繁に耳にするようになっている。近年の男子大学バスケ界で急成長を遂げた白鴎大学では下級生の頃から主力を務め、2021年度と2023年度に2度のインカレ優勝を遂げ、自身も大会得点王やMVPを受賞するなど世代のトップ選手として台頭した。

 同時に特別指定選手制度を利用し、在学中からBリーグの茨城ロボッツや琉球ゴールデンキングスでプレー。今シーズンから本格的にプロ転向を果たした琉球では、前年までスターターSGを務めた今村佳太(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)の後釜として、開幕から先発出場を継続中だ。平均22分強の出場時間を得ながら、平均8.6得点の成績を収めている。

 2023年2月には若手の成長株を集めたディベロップメントキャンプに招集されている脇について、ホーバスHCは「もう1度見てみたい」と話していた。この言葉をどう取るべきか。いい評価だとも取れるし、また反対に「やや物足りない」と解釈することもできる。

 脇自身はその言葉を耳にしたわけではないが、ホーバスHCのチームで多用かつ重視される3Pシュートが明確な課題のひとつだということは、彼も理解している。その点を改善していけば、自分のチャンスも広がるはずだと前向きだ。

「ディベロップメントキャンプには大学生の時に呼んでもらいました。トムさんのバスケットをしたのはその時が最初で、僕は3Pが得意ではなかったのですが、最近になってノーマークの時などは決めきれているので、あの頃から変わっている自分も見せたいですし、トランジション(の攻め)やディフェンスは継続してやっていきたいと思っています」

 アジアカップ予選に先立って行なわれた直前合宿中の取材で、脇はこう語っている。今シーズンの3P成功率は33.3%で、試投数も平均1.7とSGとしては少なく、これから取り組むべき課題であるのは明白だ。

【ファイナル最優秀選手もメンバー招集】

 一方で、脇の速攻の速さや体の強さからくるフィジカルなディフェンス力には魅力がある。ホーバスHCが「もう1度見てみたい」と述べたのも、そうした要素があってのことに違いない。

「A代表はまだ早いな」。脇は当初、そう感じていたという。たしかに今はまだ粗く、不安定かもしれない。しかしそれでも呼ばれたのは、22歳の脇が研磨を重ねれば光る石となる才を感じさせるからではないか。

「呼んでもらいましたのでこのチャンスを活かし、ワールドカップやロス五輪を目指してがんばっていきたいと思っています」

 脇はそう語る。そのセリフはありふれたものかもしれないが、質問者の目をまっすぐ見ながら話す彼の静かな語り口には、強い意思が感じられた。

   ※   ※   ※   ※   ※

 速攻でボールを運んで、コーナーにいる味方にパスを投じると、彼の放った3Pはネットを揺らした。だが、パスをしたその男はシュートがまだ宙にある間に、その軌道を見もせずに自陣へと戻り始めていた。

 今年の5月下旬に行なわれたBリーグファイナルの試合中に、中村拓人(なかむら・たくと/PG/23歳)が見せた象徴的なプレーだった。ファイナルで最優秀選手に選ばれた中村の活躍もあり、彼の所属する広島ドラゴンフライズはBリーグ初の優勝を果たした。

 中村が広島の先発PGとなったのは、エース司令塔の故障によって出番が回ってきた今ファイナルからわずか3カ月ほど前の話だった。そのつかんだチャンスをしっかりと生かし、「目標として掲げてきた」代表候補招集という形につなげた。

 脇と同様に、中村は今シーズンの成功率が25.9%と3Pに課題があり、ホーバスHCの求めるスタイルには合致していないように見える。ただ、それはあくまで表層的なもの。ホーバスHCは2Pと3Pをほぼ半々で打つことを是としており、アウトサイド系の選手ならば中に切れ込んでリングの近くからシュートを放つ、といったプレーも重視されている。

【男子日本代表の新たな手札となるかも】

 身長184cmと日本人PGとしては大柄な部類に入り、体をぶつけることも秀でている中村には、まさに中に切れ込んで相手のディフェンスを収縮させ、そこから空いたアウトサイドの味方へパスを送る役割が期待されている。

 中へ切れ込む動き自体は、スピードに長ける日本の多くのPGが得意とするものの、中村の場合はチェンジ・オブ・ペース、つまりドリブルで緩急をつけながらディフェンスを揺さぶることを得意としている。これまでホーバスHC体制下にはいなかったタイプの選手と言えるかもしれない。

 パリ五輪で日本は、重視する3Pの確率で全体3位となる39.3%を記録した。その一方で2Pの成功率(39.0%)と平均アシスト(4.3本)はいずれも最下位となり、敗因の一端となった。

 ホーバスHCのバスケットボールスタイルは、ボールと人が動きながら得点機を探るものだ。だが、このように芳しくない数字が残ったことは、オリンピックレベルの相手にはその理想とするバスケットボールを体現できなかったことを示唆する。

 脇や中村のように、3Pに課題はあっても当たりの強さがあり、中に切り込みながらシュートやパスをさばくことのできる選手たちが能力を発揮することができたら、男子日本代表の新たな手札となるかもしれない。

(後編につづく)

◆後編>>「ニューカマー」注目は204cmの高校生ビッグマン

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