看護師から“電気工事会社の社長”に転身した女性。力不足を痛感するも「コミュ力活かして」

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2024年11月20日 16:01  日刊SPA!

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「建設社長のあやか」こと株式会社レナトゥス 代表取締役の佐藤綾華さん
建物内の電気配線工事や、照明器具の取り付けなどを行う「電気工事士」。高度な技術と経験さえあれば、年収1,000万円以上を目指せる職種となっている。
その一方、建設業界は深刻な人材不足であり、電気工事士の採用に苦しむ企業も多い。そんななか、TikTokやInstagramといったSNSを巧みに駆使する「建設社長のあやか」というアカウントが注目を集めている。電気工事会社の“あれこれ”を面白おかしく発信するショート動画は、業界内外から関心が寄せられ、総フォロワー数は5万人を超える。

いったい、「建設社長のあやか」は何者なのだろうか。今回は神奈川横浜市鶴見区を拠点に電気工事業を営む株式会社レナトゥスを訪れた。

◆SNSで話題「建設社長のあやか」正体は元看護師

「看護師から電気工事会社の社長になりました」

そう語るのは、株式会社レナトゥス 代表取締役の佐藤綾華さん。東京都町田市の出身で、小中高は地元の学校に通っていたという。その後、「看護師になりたい」という目標を胸に、横浜・戸塚の看護学校へ3年間通った。看護師の資格を取り、一番最初に就職したのは混合病棟(異なる診療科や病状の患者が同じ病棟に入院している病棟のこと)だった。

「子どもから大人、シニアまで幅広い世代の患者さんがいる混合病棟で3年間働きました。ただ、その病院には産婦人科と脳神経外科がなかったんですよ。次に働くとしたら一般病棟だなと思い、脳神経外科の専門病院へ転職にしました」

だが、転職先の病院が相当のハードワークだったと佐藤さんは振り返る。

「まさに“ザ・看護師”という感じで、本当に体力勝負の職場でした。日勤も夜勤も経験しましたが、何より『人の命を預かる』という責任とプレッシャーが常にある環境が辛くなってしまって。心身に不調が出てくるほど、疲弊してしまったんですね。

看護師の仕事が嫌いになったわけじゃないけど、現状を変えなければいけないと思って、異業種の仕事を探し始めたところ、図らずも電気工事会社で事務をすることになりました。電気工事士に興味があったわけではなかったのですが、何かの縁だなと思って」

◆電気工事会社の社長に転身「覚えることがたくさんありすぎて…」

事務職として働くなかで、今まで力仕事の印象が強かった電気工事士のイメージが変わっていったという。

もちろん体力が求められる場面もあるものの、電気設備の設置や配線作業は非常に繊細な手先を要する。佐藤さんの職場は男性がほとんどだったが、「女性でも電気工事士として働けるのではないか」と考えるようになったそうだ。

そんな折、知人から「電気工事会社の社長をやってみないか?」と声をかけられたのがきっかけで、2023年4月にレナトゥスを創業。脳神経外科の看護師から電気工事会社の社長へ大胆な転身を果たしたのだ。しかし、はじめは社長業に慣れるのに相当苦労したと佐藤さんは語る。

「いざ社長として会社に入ると、覚えることがたくさんあって大変でした。私は一度も現場へ出たことがなく、普段交わす挨拶も『ご安全に』という独特な言い方をするなんて、想像もできない未知の世界でした。

そうした業界用語はもちろん、経営のことも全然わからない状態で、最初は本当に自分の力不足を痛感して悔しかったのを覚えています」

◆職人不足の状況を打破するために

それでも、看護師で学んだコミュニケーションスキルのほか、持ち前の明るさとメンタルの強さで乗り越えていったそう。

「私は人とのコミュニケーションが好きなタイプなので、職人さんとの会話や取引先の元請け業者とのやりとりに対する不安はありませんでした。電気工事のこと、社長業のことなど、詳しい人からアドバイスをもらいながら、社長業を全うできるようにがんばりましたね」

会社を成長させていく上で、鍵になるのが“人材採用”だった。電気工事業界はIOT化や5Gの影響で需要(仕事)が多くなっているが、それに対して供給(人手)が足りていない状況になっている。

つまり、職人の確保ができなければ、需要に応えることができずに、会社をスケールさせることが難しいと言えるのだ。

「当社でも、人材確保のために求人広告に100〜200万ほどかけたのですが、職人さんは全く採用できずに悩んでいました。そんな時に、弟から『SNSを採用に使ったらいいよ』と言われ、TikTokに興味を持ちました。

実は弟も介護の会社を経営していて、SNS経由で人材採用に成功しているのを聞いていたんです。『これはやってみるしかない』と思って、2023年のクリスマスからTikTokのショート動画を始めました」

◆動画の撮影で意外な才能が開花「ほぼアドリブで演技ができる」

TikTokの撮影は月に一度、12本の動画をまとめ撮りするために時間を設けているとのことだが、基本的な台本やテーマの設定はありつつも、佐藤さん自身はほとんどが“ほぼアドリブ”で臨んでいるという。

「その場のノリというか。『演技力がいいね』とか『キャラ作りがうまい』とよくコメントをもらうのですが、今まで何か芸能活動をしていたとか、特に演技力を付ける特訓とかはしてなくて。自分のSNSアカウントもほとんど更新してませんでした」

彼女の純粋に動画撮影や配信を楽しめる性格が合っていたのかもしれない。

社長として表に立って発信することに全く抵抗感がない一方で、「可愛い子ぶることがすごく苦手なんですよ(笑)。逆にぶっ飛んだ企画の方がやりやすいですね」と話す。

電気工事会社でTikTokに取り組む会社は少なく、「建設社長のあやか」としてコンスタントに動画を投稿していくうちにフォロワーが増えていき、同業や電気工事士に興味のある人の目に留まるようになった。

「職人さんからも現場で『社長の動画見たよ』と声をかけてもらったり、取引先から営業の方にも連絡があったりと、社内の評判も好意的なので、SNSに取り組んでよかったなと思っています」

◆SNS経由だからこそ“安易”な応募も。バックれ、ドタキャン…

このような取り組みが実を結び、SNS経由で多くの求人応募が来るようになったのだ。

「今まで200件以上の面接を行い、13名の採用が決まりました。そのうち、今も当社で働いてくれている職人さんは5名いて、2人が若手の女性なんですよ。やはり、“男性社会”のイメージが残る業界ですが、彼女たちはやる気と向上心が強くて。うちは実力次第で、年齢関係なく成果に応じた給与を決めているのもあり、そうした社風とうまくフィットする人材が集まるようになりました」

当初の狙い通り人材採用に成功した一方で、いくつかの課題もあると佐藤さんは続ける。

「SNS経由だからこそ“安易”に応募してくる方も多く、バイト感覚のような軽い気持ちで考えていたり、当日にドタキャンされたりするのが悩みの種ですね。地方からの応募者には半年以上の勤務を条件に引越し費用を負担しますが、求めるのはやはり“本気の人材”ですので、SNSによる採用活動の難しさを感じていますね」

◆たくさんの人に電気工事の仕事を知ってもらいたい

社長としてさまざまな苦労がありながらも、佐藤さんが今の仕事にやりがいを感じているのは、「社員の成長を実感したとき」だという。

「うちの会社で働く社員は結構仲が良くて。バーベキューしたりお花見したりと、みんなで集まる機会を積極的に作ってコミュニケーションを取るように心がけています。

そういう場で、先輩や後輩関係なく従業員同士が仲良くする姿を見るのが好きなんですよ。『こんなことができるようになりました!』と報告してくれる社員もいて、現場で活躍している話を聞くと、私自身もすごく嬉しくなります」

電気工事の仕事に加え、直近では多能工の募集を開始して新しい業態を作ることで、さらなる会社の成長を見据えていると佐藤さん。性別関係なく働きやすい会社を目指しつつ、採用やブランディング目的でSNSも引き続き運用していくという。

「インフルエンサーは目指していなくて、SNSから会社のことや電気工事のことを知ってもらい、業界に興味を持ってくれる人が増えたらいいなと思っています。幸いにも、コラボ動画の依頼は結構きているので、新しいことにも挑戦しながら、10万フォロワーをひとつの目標に頑張っていきたいですね」

人材採用を目的にSNSを活用する企業も増えているが、今回のレナトゥスの事例が参考になるかもしれない。

SNSという性質上、コンテンツを積み上げていくことが「資産」になり、それが採用にも活きてくるわけだ。会社の広告塔として、社長自ら表に立つ「建設社長のあやか」の挑戦は続く。

<取材・文/古田島大介、撮影/藤井厚年>

【古田島大介】
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている

このニュースに関するつぶやき

  • 客寄せパンダの雇われ社長?ですかね? 資金繰りとか、大口契約とか、そんなのと関係ない社長業?ってあるんですかね?! >電気工事会社の社長をやってみないか?
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