アウェーの中国戦に3−1で勝利した日本は、これで来年3月20日のバーレーン戦に勝利すれば、グループ2位以上が確定。3試合を残して2026年W杯出場を決めることが可能になった。過去のW杯アジア最終予選では例を見ない、順調な戦いぶりだ。
ただその一方で、W杯本大会を見据えて試合内容に焦点を当てた場合、必ずしも楽観的になれない部分もある。先のインドネシア戦に続き、中国戦の日本も、決してパフォーマンスがよかったわけではなかったからだ。
【中国の4−3−1−2に日本は優位を保てるはずだった】
この試合でポイントになったのは、敗れた中国のブランコ・イバンコビッチ監督が準備していた戦術だった。前回対戦と違い、日本が中国を圧倒できないまま試合を終えることになった主な要因は、そこにあったと見ていいだろう。
イバンコビッチ監督は、昨年9月5日の第1節で日本と対戦した時は4−4−2を採用。守備重視の戦術で日本に挑むも、前半に2失点を喫すると、後半から守備強化を図って5−3−2の布陣にシフトチェンジしたのが仇となり、終わってみれば大量7失点で完敗した。
しかし今回の対戦では、前回同様に両ウイングバック(WB)にアタッカーを配置する3−4−2−1を採用する日本に対し、異なる布陣で対抗。直近2試合(インドネシア戦、バーレーン戦)でも採用していた、2トップ下を配置する4−3−1−2で日本に挑んだ。
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本来4−3−1−2は、日本の3−4−2−1に対して嚙み合わせはよくない。日本から見ると、最終ライン3枚が中国の2トップに対してひとり多いのでプレスを浴びにくく、スムーズなビルドアップが可能なうえ、ボランチ2枚も相手のトップ下1枚に対して優位性を保つことができるからだ。
【中国の戦術的狙い】
さらに、この噛み合わせで最も大きなポイントになるのが、中国の中盤3枚の両脇に大きなスペースが生まれる点だ。
日本から見れば、そこを突くことで容易に敵陣まで前進可能になる。両WBが横幅をしっかり取って素早くサイドチェンジできれば、中国の中盤3人のスライドが間に合わないため、サイド攻撃が機能する。サイド攻撃によって中国の中盤を広げられれば、自然と中央ルートも開通。それが、日本の狙い目だ。
ところが中国は、その戦術的デメリットを想定し、ルールの範囲内でピッチの両幅が短くなるようにタッチラインを設定していた。その対策からは、守備時に中盤3枚がスライドする距離を短くすることで、日本のサイド攻撃を封じたいという狙いが見て取れた。
攻撃については、1トップだったインドネシアとは狙いが異なるものの、中国もロングボールを中心に攻撃を組み立てた。また、ロングボールを使わない場合も縦に速く攻めることで、人の少ないサイドを捨てて、人数的に優位性のある中央に活路を見出そうとするなど、とにかく戦術的な狙いは攻守ともに徹底されていた。
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前半の日本は、最終ラインでボールを保持しながら前進はできたものの、敵陣に入ってからの攻撃が停滞してしまい、決定機はおろか、シュートチャンスさえ作れない状態が続いた。最初のシュートは、中村敬斗が放った前半25分。もちろん、今回の最終予選で最も時間がかかったファーストシュートだ。
中国は、積極的に前からプレスをかけなかったが、ミドルゾーンでは2トップが右センターバック(CB)瀬古歩夢と左CB町田浩樹をケアし、2トップ下の19番(カオ・ヨンジン)がダブルボランチの遠藤航と田中碧の間に立つことで、DFライン中央で完全にフリーになっていた板倉滉がボールホルダーになっても、日本の前進をスローダウンさせることができていた。
【日本は中央からもサイドからも攻撃できず】
日本は、これにより最終ライン3人からの縦パスルートがほぼ消されてしまい、1トップの小川航基が前線で埋没。中国のインサイドハーフ2人にマークされた日本の2シャドーでは、右の久保建英は下がってもらうなどして攻撃の起点となれたが、前に残ってフィニッシュ役も担う左の南野拓実は、ほとんどボールを受けられない状態が続いた。
まさに中国の狙いどおりの構図となったわけだが、それを示すかのように前半の日本は、敵陣でのくさびの縦パスを1本も打ち込むことができずに終わっている(後半も1本のみ)。ちなみに、この試合の日本で最も多くのパスを出したのは板倉だったが、小川と南野へのパスはゼロ。久保につけたパスも3本しかなかった。
こうなると日本が活路を見出すべきは、サイド攻撃となるが、しかしそれを阻んでいたのが、横幅が狭くなった変則ピッチだった。
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とりわけ大外右サイドが持ち場の伊東純也は、前半は素早く寄せてくる左インサイドハーフの20番(シエ・ウェンノン)と左サイドバックの13番(フー・フェアタオ)のプレッシャーを浴びるなか、ボールコントロールが乱れるなど、いつもどおりのプレーができず。
ボール支配率が高い試合では二桁近いクロスを供給することもある伊東だが、68.9%の支配率を記録したこの試合の前半のクロスは、2本だけ。チーム全体としても、サイドからのクロスは3本しか供給できなかった(1試合トータルでも9本)。
ただし、流れのなかからはチャンスは作れなかったが、前半終了間際にコーナーキックから2ゴールを決めたのは、W杯本番を見据えたうえでも大きかった。これまでセットプレーからゴールが奪えないことをたびたび指摘されてきた日本だが、ここにきて、これまでの切磋琢磨が結実している点は、この試合で手にした数少ない収穫と言える。
【攻撃的3バックシステムのデメリットが出た失点】
一方、守備面で最も気になるのは、やはり後半開始早々49分の失点シーンだ。
その場面、日本は敵陣右サイドでボールを奪いきろうとしたボランチ2人が、伊東とともに右の大外でプレス。即時回収を試みるも失敗して20番にドリブルで前進を許すと、2トップ右の10番に町田の左側に空いたスペースを使われてしまう。
10番が20番からのパスを受けた時、左サイドの高い位置にいた中村は何とか戻ることはできたが、追いついたタイミングで10番に切り返されゴール前に斜めのパスを出される。そして、中央に戻った瀬古がランニングしてきた20番に引きつけられてスルーをされると、背後でフリーにしてしまった11番にフィニッシュされた。
このシーンで注目したいのは、左WBの中村ではなく、右WBの伊東が完全に戻り遅れてしまったことだ。そもそも伊東は、敵陣でボールを奪おうとしたので間に合わないのも当然で、これは伊東個人の問題とは言えない。問題にすべきは、それが両WBにアタッカーを配置するデメリットであるのを、認識しなければならないという点だろう。
3−4−2−1の両WBにアタッカーを配置するメリットのひとつは、ボールを保持しながら敵陣に相手を封じ込め、横幅をとりながら攻撃と即時回収を繰り返すことにある。日本の守備機会が少ない格下相手の試合では特に有効だが、逆に、即時回収できずに相手のカウンターを受けた時は、CBの両脇を突かれやすいという守備面のデメリットが発生する。
これは、いずれ表面化する問題ではあったが、格下のインドネシアや中国を相手にした試合で露呈してしまったことは、今後を考えるうえで特に見逃せないポイントになる。
昨年9月の中国戦後の会見で、森保一監督は両WBの人選について、いい守備からいい攻撃を考える時、そこに守備的な選手を配置する可能性を示唆する発言をした。実際、この11月の2連戦の後半途中には、インドネシア戦では右WBに菅原由勢を、この試合では橋岡大樹を起用している。
つまり、システムの運用方法ではなく、両WBの人選によって同じ3−4−2−1で「攻撃的」と「守備的」を使い分ける、と受け止めることができる。だとすると、相手が強くなれば、両WBにDFを配置せざるを得なくなるのは明らかだ。
失点直後、左WBの中村から右WBの伊東への大きなサイドチェンジが2本あった。そのうち1本が3点目に直結したわけだが、それはこの試合で最も必要な攻撃パターンであったと同時に、両WBにアタッカーを配置するメリットでもあった。
はたして、今後はどちらのメリットを重視するのか。あるいは、4バックの再構築にも着手するのか。W杯出場がほぼ決まっただけに、今後は森保監督の方針に注目が集まる。