ガッツポーズと記憶の宮殿/島田明宏

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2024年11月21日 21:00  netkeiba

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マイルCSを制した団野大成騎手とソウルラッシュ(c)netkeiba
【島田明宏(作家)=コラム『熱視点』】

 先週末のマイルチャンピオンシップで、団野大成騎手がソウルラッシュを見事な手綱さばきで勝利に導いた。が、ゴールする前にガッツポーズをしたため、過怠金5万円を科された。JRAサイトの裁決レポートによると、「決勝線手前で5完歩ほど適切な騎乗姿勢をとらずに入線」し、「騎手としての注意義務を怠ったものである」とみなされたからだ。

 制裁を受けたことは褒められたことではないが、馬上で立ち上がって左の拳を握りしめ、雄叫びを上げる姿は実に勇ましかった。ネットを見ると、複数のカメラマンがいい写真を撮影している。ゴール脇に陣取ったカメラマンがあのアングルから撮ることができたのは、団野騎手が早めに立ち上がったからだ。

 SNSには「5万円のガッツポーズ」という言葉が多く見られ、「危ない」と批判する声もあったが、ほとんどの人が「カッコいい」と賞賛している。制裁対象となった事象をこうした媒体で激賞すべきではないと思うが、2着に2馬身半差をつけており、他馬に迷惑をかけたわけではない。しばらく時間が経てば、印象的なシーンのひとつとして「5万円のガッツポーズ」を振り返ることができるようになるだろう。

 おそらく、「5万円のガッツポーズ」という言葉は、今後同様の制裁が下されるレースがあったとしても、年の単位で忘れられない響きとなる。

「数字」+「名詞」という構成のタイトルでよく知られているものに、テレビドラマ「101回目のプロポーズ」がある。初回オンエアは1991年。何度も再放送や、有名なシーンのリプレイが流されたことを差し引いても、33年も前の作品なのに、その響きはしっかり記憶に残っている。「101回目」を「102回目」や「103回目」と間違って記憶している人はいないはずだ。

 ヒロシ&キーボーの曲「3年目の浮気」も、西岸良平の漫画『三丁目の夕日』も、中上健次の小説『十九歳のジェイコブ』も、唯川恵の小説『100万回の言い訳』も、ダニエル・キイスの小説『五番目のサリー』も、金子達仁のノンフィクション『28年目のハーフタイム』も、アニメ「101匹わんちゃん」も、映画「2001年宇宙の旅」も、数字があとに来る形だが、山際淳司のノンフィクション『江夏の21球』も、なぜか、数字を間違えず記憶にとどめやすい。

 元号では、大江健三郎の代表作『万延元年のフットボール』、夢枕獏の小説『仰天・平成元年の空手チョップ』などがある。これは「元年」だから覚えやすいのかもしれないが、数字のうちと言えなくもない。

 理由はわからないが、数字と名詞をセットにして記憶すると残りやすいように、人間の脳はできているのだろう。

 最近物忘れがひどいので、何とかしなくてはならない。知り合いの写真家や画家から個展の案内をもらったことを思い出し、さあ行こうとしたら、だいたい開催期間を過ぎている。記憶力の低下は、非礼にも、損失にもつながる。

 イギリスのテレビドラマ「シャーロック」のシャーロック・ホームズも、アメリカのドラマ「メンタリスト」のパトリック・ジェーンも、「メモリーパレス(マインドパレス)=記憶の宮殿」という、覚えるべきものをどこかの場所や物と結びつける記憶術を駆使している。

 10年ほど前、元騎手・調教師の田村駿仁さん(田村康仁調教師の父)が、「大正9年生まれの騎手には名手が多い」と言っていた。日本にモンキー乗りをひろめた保田隆芳氏、同じ尾形藤吉厩舎の八木沢勝美氏がその代表格だ。大正9年は西暦1920年。その3年後の1923年、最年少ダービージョッキーの前田長吉が生まれ、競馬法が成立し、関東大震災が発生した。

 田村駿仁さんの言葉のおかげで、そのあたりの事象に関しては私も「メモリーパレス」を使うことができている。先述した、数字と名詞の組合せも「メモリーパレス」のひとつなのだろう。

 ほかにも何かいい記憶術を知っている人がいれば、ぜひ教えてもらいたい。

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