なぜイーロン・マスクはトランプに「近づいた」のか 背後にある“ビジネスの賢さ”

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2024年11月22日 07:51  ITmedia ビジネスオンライン

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イーロン・マスクは「政商」になるのか

 11月5日、世界で大注目の米国大統領選挙が実施された。結果は、大方の予想に反してドナルド・トランプ前大統領の圧勝。2025年1月20日に、第47代の米国大統領に就任することになる。


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 今回の選挙でキーパーソンとなったのは、何といっても実業家のイーロン・マスク氏である。2024年7月13日に東部の激戦州だったペンシルベニア州でトランプ氏が暗殺未遂事件に見舞われた直後、マスク氏はトランプ氏を支援するとXで宣言。そこから勝利まで、全力でトランプ大統領復活に向けて後押しをし、1億3000万ドル(約200億円)を投資した。


 そんなマスク氏の熱意に、トランプ氏もすっかり「取り込まれて」しまった。大統領選勝利宣言のスピーチでもマスク氏について「スターが生まれた」と語り、その後もほぼ毎日のようにマスク氏と密に付き合っている。次期政府の閣僚指名にもマスク氏が関わっている。


 世界一の富豪に上り詰めた百戦錬磨のビジネスマンであるイーロン・マスク氏には、何らかの狙いがあるはずだ。その狙いは一体どこにあるのか。


 これまでマスク氏の言動をウォッチしてきた筆者から見ると、今回の彼の動きは全てビジネスのために思える。ならばマスク氏は、トランプ氏のそばで影響力を行使することで、どんなビジネス的な利益を得るのだろうか。


●新政権によるビジネスへの「恩恵」とは?


 まずは実利の部分だ。トランプ氏が大統領選に勝利してから、マスク氏が経営する電気自動車メーカーのテスラや宇宙開発企業のスペースXなどの時価総額が急騰。それによってマスク氏の資産は700億ドル(約10兆円)も増えることになった。これによって資産総額は3200億ドル(約49兆円)にもなった。


 マスク氏が経営する企業はすでに米政府機関などと契約して多額のビジネスを行っているが、そうした動きがさらに拡大するはずだ。現在、17の連邦機関との間で100件ほどの契約を結んでおり、その取引の総額は30億ドル(約4600億円)規模と見積もられている。例えば、NASA(米航空宇宙局)はスペースXと衛星やロケットの開発と打ち上げで提携し、米軍はスペースXの衛星高速インターネットシステム「スターリンク」の導入契約などを結んでいる。


 これらの契約は今後、トランプ氏の新政権の影響力でさらなる恩恵を受けることになる。例えば、マスク氏が投資している自動運転などの先端技術は、米国の規制当局による調査対象になっているものもある。司法省や国家道路交通安全局、環境保護庁は、テスラの自動運転テクノロジーの安全性などを調査しているが、マスク氏が政府に強い影響力を持つことになれば、こうした調査は政府主導で棚上げになる可能性がある。


 さらに環境保護庁はテスラやスペースXに調査を行っており、証券取引委員会(SEC)や連邦取引委員会(FTC)もマスク氏が2022年に買収したX(旧ツイッター)の取引についてまだ調査している。これらもマスク氏のアドバイスによる規制緩和などで不問になるかもしれない。そうなると足かせがなくなり、ビジネスも拡大するはずだ。


 またライバル企業などを蹴落とすこともあり得るかもしれない。トランプ氏は、テレビやインターネットといった通信行政を担う連邦通信委員会(FCC)の委員長に、GAFAのビジネスに対して厳しい姿勢で知られるブレンダン・カー氏の起用を発表している。これはSNS運営やAI開発でGAFAとライバル関係にあるマスク氏にとっては都合のいい人事で、Xにとって有利に働くことになるだろう。


●どうやって懐に入り込んだのか


 ただこういう動きを見ていると不思議に思う。これほど自らにとって都合のいい「政府」の構築に向けて口を挟めるようになったマスク氏は、一体どのようにトランプ氏の懐に入り込んだのだろうか。


 そもそも南アフリカからカナダに引っ越し、米国の大学に入学して社会人になったマスク氏は、仕事に応募してもシャイすぎて、面接でうまく話せないような人物だったという。ところが、そこから世界一の富豪に上り詰め、気難しいトランプ氏の厚い信頼を得るまでになった。


 メディアなどでは、マスク氏が投資家などを口説く際に使っている手法はいくつもあると分析されている。筆者はその中でも、トランプ氏に刺さったポイントがいくつかあると見ている。


 例えば、明確なインスピレーションを与えるビジョンを示すことで、自分と付き合うことに夢を持たせる。自動運転から、ロケット・宇宙開発、火星移住、脳チップまで、遠い未来の技術を着実に実現に近付けている実績も説得力を増す。


 さらに、複雑なアイデアをとにかく簡潔に説明する。しかし、専門知識と信頼性をはっきりと示すことは忘れない。


 加えて、マスク氏はかつてこんなことを言っている。「自己分析を徹底的に行い、粘り強く、ただひたすら努力すること。毎週80〜100時間働くこと。これら全てが成功の確率を高める。他の人が週40時間働いている中で自分が週100時間働けば、同じことをしていても、彼らが1年で達成するものを4カ月で達成できる」


 とにかく働き、マルチタスクをする、というのが哲学だという。これについてはトランプ氏と気が合うはずだ。トランプ氏はショートスリーパーで1日4〜5時間しか眠らず、朝5時に起きてからはずっと仕事をしており、周囲にはワーカホリックとして知られている。


 これまで民間や政界でトランプ氏と仕事をしてきた人たちの書籍やインタビュー記事を見ると、おそらく上記のポイントがトランプ氏を引き付ける鍵になったのではないかと想像できる。こうした手法は、ビジネスパーソンにとって成功のヒントになるかもしれない。


●2人の蜜月は日本にとって有利に?


 もちろん世界で最もお金のかかる米大統領選で多額の支援を行ったマスク氏にトランプ氏がなびくのは分かる。ただ現在見ている限りでは、マスク氏とはそれ以上の「蜜月関係」がうかがえる。


 この関係は、日本にとって有利に働く可能性がある。


 外務省の関係者に話を聞くと、日本政府は現在、トランプ氏とどのように関係を築いていくか頭を悩ませている。というのも、トランプ氏は安倍晋三元首相と非常に親しい関係だったが、安倍元首相は暗殺されてしまった。


 そこで筆者は、トランプ政権下の日米関係で、日本の首相がトランプ氏と親しくなるために、まずマスク氏と関係性を構築し、そこからトランプ氏に接近する方法を取ることをお勧めする。なぜなら、マスク氏はかなり親日であり、日本のアニメやゲームなども大好きだ。


 さらにラーメン好きでもある。石破茂首相はラーメン議連の会長なので、そういうところから接近する。とにかく予測不能なトランプ氏相手だけに、変化球で付き合ったほうがうまくいくかもしれない。


 少し話が逸れたが、とにかくマスク氏はトランプ政権にも深く関与して、これからもビジネスマンとしてさらなる飛躍を遂げることだろう。気が付けば、米国の大統領であるトランプ氏を超えるような影響力を手にする日も来るかもしれない。ますますマスク氏の一挙手一投足から目が離せない。


(山田敏弘)



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