メルセデス・ベンツの本格オフローダー「Gクラス」が電気自動車(EV)になって日本に上陸した。不動の人気を誇る「ゲレンデ」は電化してどう変わったのか。悪路走破性はEVになって上がったのか、下がったのか。電気のG580、AMGのG63、ディーゼルエンジンのG450dの3台をオンロードとオフロードで乗り比べて実力を確認してきた。
なぜGクラスを電化したのか?
Gクラスの歴史は1979年に民間用として登場した「ゲレンデヴァーゲン」から始まる。1990年になると2代目Gクラスへとフルモデルチェンジし、現行モデルである3代目Gクラスは2018年に登場した。初代からエクステリアはそこまで大きく変わっていないが、中身は大幅に進化し続けている。そんなGクラスがEV化したとなれば、注目しないわけにはいかない。
今回試乗したのは、内外装の随所にブルーのアクセントが入るオプション充実の特別仕様車「G580 with EQテクノロジー エディション1」だ。
G580は4輪独立モーターを搭載する4輪駆動車で、動力性能は最高出力587PS(432kW)/最大トルク1,164Nmだ。
メルセデスAMG G63は4.0LのV型8気筒ツインターボエンジン搭載で最高出力585PS(430kW)/最大トルク850Nm、G450dは3.0L直列6気筒ディーゼルターボエンジン搭載で最高出力367PS(270kW)/最大トルク750Nm。こうしてスペックを比べると、G580がエンジン車に比べて引けを取らないどころか、むしろ動力性能で他を凌駕していることがわかってもらえるだろう。
G580は108kW/291Nmの交流同期モーターを4つ搭載することで、動力性能をG63よりも高めることに成功している。「Gクラスといえばガソリンかディーゼルだろう! なぜ電気自動車なんか出すの?」という声が多いようだが、GクラスをEVにしたのは、ガソリンやディーゼルでは達成できないハイスペックを実現するためだ。
「電気自動車を出せば話題になるから?」「環境に配慮しているから?」「いまさら電気自動車?」といった意見も多く寄せられるそうだが、メルセデス・ベンツ日本の担当者は「Gクラスの基本的な走行性能や悪路走破性を高めるためにG580 with EQテクノロジーが登場しました」と話していた。
G580は容量116kWhの2階層高電圧リチウムイオンバッテリーを車体下部のラダーフレーム構造に組み込んでいる。1回の充電で走行可能なWLTC一充電走行距離は530km。AC200Vの普通充電はもちろん、CHAdeMOの急速充電にも対応している。急速充電(150kW)なら約41分で電池残量10%から80%まで充電可能だ。自宅に備え付けるタイプの充電用ウォールユニット(定格30A/6kWタイプ)なら約14時間で充電が完了する。夕方に帰宅して充電を開始すれば、翌朝には長距離ドライブの準備ができている計算だ。
電気でもV8サウンドを堪能できる!?
G580の車両重量はG63(2,570kg)比で550kg増となる3,120kg。かなり重い車体だが、走り出しの軽やかさには驚かされた。ほんの少しアクセルを踏み込もうものなら、一瞬で時速100キロに到達してしまう。「大きくて重そうな車体だな」と運転席に座った瞬間に感じたのはいったい何だったのかというくらい、アクセルのレスポンスが軽やかだ。
それと同時に、Gクラスの着座位置はもともとかなり高いこともあって、そこにモンスター級ともいえる瞬発力が加われば、スーパーカーでは絶対に得られない極上のドライバビリティを体感できる。
エンジンルームのサウンドバーからは、これまでのガソリンモデルのようなエンジン音が流れてくる。サウンドエクスペリエンス「G ROAR」が作り出すV8のエンジン音は、車内のスピーカーからもわずかに聞こえるようになっている。EVでありながらV8エンジンのサウンドが堪能できるのは嬉しい。
オンロードではG580に試乗したあとG63に乗り換えた。
4.0LのV8ツインターボエンジンを搭載するG63は本格オフローダーでありながら、ガソリン車らしい滑らかな発進とパワフルな加速が得られる。ただ、G63の走りに不満は一切ないのだが、G580に乗った直後だと、やはりアクセルを踏み込んだときの瞬発力に欠けているように感じてしまった。それだけG580がすごいということか……!?
悪路走破性は圧倒的に電気!
オフロード試乗会の会場となった富士ヶ嶺オフロードでは、モーグルや池、キャンバー、ヒルクライムなどの悪路をG580とG450dで乗り比べた。もともと悪路走破性に優れたGクラスだが、G580はさらにその本領を発揮してくれた。
というのも、G450dよりも悪路での乗り心地が良好なのだ。アクセルを軽く踏んだだけで、急勾配のヒルクライムを余裕で駆け上がっていく。石が散乱しているぬかるんだくぼみでも、G450dが一瞬とはいえスタックした一方で、G580は何事もなく走破できてしまった。そのパワーには圧倒された。
ここまでの悪路に日本で出くわす機会はまずないものの、Gクラス本来の悪路走破性が電化によってにぶっていないどころか、むしろ高まっていることがしっかりと体感できた。
今回の試乗ではオンロードとオフロードでG580(電気)、G63(ガソリン)、G450d(ディーゼル)の3台を乗り比べることができた。もしも3台の中から1台だけ選べといわれれば、試乗前なら「絶対にG63!」と即答していたはずなのだが、今は「圧倒的にG580」と答えたい。加速したときの圧倒的なパワーにも、滑らかなハンドリングにも、エンジン音を選べるサウンドエクスペリエンスにも、そのくらい魅了されてしまった。特に、電気の力でここまでオフロード性能が高められるものとは思ってもいなかった。
こういった本格オフローダーこそEVにすべきだというメルセデス・ベンツの意向には大賛成。担当者は「Gクラスを電動化することによって、これまでにないパワーを実現できました。乗っていただければ、必ず電気自動車としてのGクラスの良さがわかってもらえると思いますし、販売拡大につながると確信しています」と話す。
Gクラスの価格は「G580 with EQテクノロジー エディション1」が2,635万円、「メルセデスAMG G63 ローンチエディション」が3,080万円、「G450d ローンチエディション」が2,110万円。いずれも庶民がすぐに買えるような価格ではないが、電気、ガソリン、ディーゼルのどれを選んでもリセールは良好(エディション1やローンチエディションは特に!)だし、後悔はしないだろう。
Gクラスを電動化したことに対して批判的な意見も耳にするが、乗ればその良さに気づくはず。EVの、そしてGクラスの世界観が大きく変わることは間違いない。
室井大和 むろいやまと 1982年栃木県生まれ。陸上自衛隊退官後に出版社の記者、編集者を務める。クルマ好きが高じて指定自動車教習所指導員として約10年間、クルマとバイクの実技指導を経験。その後、ライターとして独立。自動車メーカーのテキスト監修、バイクメーカーのSNS運用などを手掛ける。 この著者の記事一覧はこちら(室井大和)