さまざまな事情を抱えた人たちが利用するラブホテル。一般的には、ドキドキ、ワクワクしながら、ときにはソワソワと向かう場所だ。
東京の一等地にあるラブホ街でアルバイトをしていた山田亜希子さん(仮名・30代)。今回は、“理解できなかった客の行動”に関する2つのエピソードを教えてくれた。
◆女性2人組の怪しい行動
「私がバイトしていたラブホは、非対面型のシステムが導入されていました。チェックインもチェックアウトもフロントを通さず、タッチパネルとカードキーを使って完結するシステムでした」
客と直接接触する機会が少なく、仕事自体も単純な業務ばかりで働きやすかったという。そんな中で、山田さんにとって忘れられない出来事が起こった。
「その日、“40代くらいの男性1人”と“20代くらいの女性2人組”の3人がやってきました。タッチパネルで部屋を選び、カードキーを受け取って部屋に向かいました。ただし、3人での利用は“追加料金”がかかるんです」
フロントスタッフはモニターで人数を確認し、部屋に連絡して“追加料金”のことを男性客に伝えた。
「お客様から了解を得た後、30分ほどが経った頃に急にアラートが鳴ったんです。モニターを確認すると、“部屋のドアが開いた”と表示されていました」
しかし、部屋から出てきたのは、先ほどの女性客2人のみ。男性客が部屋に残っているはずだが、「何かおかしい……」と山田さんは直感した。慌てて部屋に連絡をしたのだが、男性からの応答はなかったという。
◆部屋に男性を残して先に帰ろうとする
フロントで女性2人に確認することになった山田さん。彼女たちは、「彼はシャワーを浴びているだけだから、早く帰らせてほしい」と焦っていたそうだ。
「その様子に違和感がありました。すぐに状況を察した別のスタッフが、『男性が部屋にいることを確認できなければ、警察を呼ぶ』と言いました」
彼女たちは、はじめは抵抗していたそうだが“警察”の一言で、しぶしぶ部屋に戻っていったという。その後、しばらくは静けさが戻っていたのだが……。
「部屋の利用時間が過ぎたにもかかわらず、チェックアウトをする様子が見受けられませんでした」
すると、男性客から「宿泊に延長したい」と申し出があったそうだ。
「スタッフ一同驚きましたが、結局3人で宿泊として扱われることになりました。そして、翌日の昼過ぎにチェックアウトしたんです」
ベテランスタッフによると、「男性を騙してお金を盗み取る計画が失敗に終わった」ということだったようだ。
「盗みが未遂に終わった女性たちは、少し憔悴しきった様子でラブホを出ていきました。部屋の利用時間を延長した理由は分かりませんが、一夜にしてひと騒動もふた騒動もあったのではないでしょうか」
◆驚きのリクエスト!“汚い部屋”を求める外国人カップル
「ラブホのバイトでもっとも印象的だったのは、ある外国人カップルです」
夜の時間帯にフロントに現れた男性は、ぎこちない日本語で、「汚い部屋、汚い部屋」と繰り返し言ったという。
「私は冗談だと思って、はじめは笑ってしまいました。でも、彼は真剣な顔で『いや、汚い部屋がよいんです』と言いました」
山田さんが働いていたラブホは部屋数が多く、それぞれ異なるデザインやテーマで内装されており、通常は“きれいな部屋”を希望する客がほとんどだ。
しかし、彼は、“汚れた部屋”を求め、どんなにきれいな部屋を見せても気に入らなかったそうだ。
「まるで映画に出てくるような美男美女カップルだったんですが、部屋のリクエストがあまりにも奇妙で、驚いたのを覚えています」
◆清掃前の部屋を選んだ理由とは…
「彼のリクエストを聞いているうちに、私も次第に要求が本気であることを理解しました。ラブホでは、“汚れた部屋”をお客様に見せることはないのですが、男性は、『どうしてももっと汚い部屋!』と譲らないので、最終的には、清掃が終わっていない部屋をいくつか見せることにしたんです」
その中で、シーツが乱れ、ゴミが散乱した部屋を見た途端……。男性は目を輝かせた。
「これだ!」と大喜びしたのだ。
その部屋を借りたいと言い出し、清掃前の部屋をそのままの宿泊料金を支払って宿泊することになったようだ。
翌朝、外国人カップルは「最高だった!」と言い残し、満面の笑みでチェックアウトしていったとのこと。
「この異例のリクエストは、私たちスタッフにとっても印象深い衝撃の出来事でした」
正直、何が最高だったのか山田さんには分からなかったのだが、「“汚れた部屋”で一晩を過ごすことが、彼らにとっては至福だったのだろう」と話した。
<取材・文/資産もとお>
―[ラブホの珍エピソード]―