つまらない世間話を繰り返す義母
「義父の急逝で、夫の実家へ引っ越し、義母と同居することになりました。もともと近距離に住んでいたけど同居となると緊張しましたね。いい人なのは分かっていたけど、やはり一緒に暮らすとまったく違う面も見えてきて……」そう言ってため息をつくのは、アキエさん(47歳)だ。高校生の息子と中学生の娘がいる。義母は70代半ば。健康なのだが、ひとりでどこかへ行くことができないタイプなのだという。
「義父とものすごく仲がよくて、いつも2人一緒でした。映画を観るのも、近所のレストランや居酒屋へ行くのも、いっつも一緒。だから義母はひとりで喫茶店すら入ったことがなかったそうです」
アキエさんは共働きなので、義母が家の中のことをしてくれるのはありがたかった。もともと住んでいた家だから、義母も自分がやるのは当然だと思っている節もあった。
「ただ、帰宅すると『ねえ、アキエさん、聞いて』『ねえ、知ってる?』というのが日課になりました。そこで繰り広げられる話は、全てテレビからの受け売り。外に出ないからテレビの情報しかない。その話はすでにネットニュースで2日前に読みました、というわけにもいかないから、へえ、そうですかと聞いていたんですが、『あなたって何も知らないのね』と言われて、さすがにカチンとくることも多くなって」
義母の言動に認知症を疑うようになるが
義母は、テレビからの情報でさえ、きちんとは把握していない。自分の都合で耳に残ったところだけが「ニュース」となる。「だからつい先日も、『台風、どこかにいっちゃったのね』と突然、言い出すわけです。動きが遅いからテレビで騒いでいないだけで、来週あたり来ますよと言ったら、『何言ってるの。もういなくなったのよ。テレビで何も言ってないもの』って。
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それとなく、夫からかかりつけ医に聞いてもらい、認知症検査をしたのだが、まったくひっかからなかった。夫は「おふくろは昔からああなんだよ」と笑っていたが、付き合わされるこちらはイライラが募るだけだとアキエさんは夫に当たり散らしてしまった。
半世紀前の会社員経験をアピールする義母
同じようなことは他にも起こっている。「義母の“自分の正義”アピールにイラッとくる」と言うのは、同居5年のアスカさん(43歳)だ。「たまたまちょっと会社の人間関係で愚痴を言ったら、『あなた、そういうときはね、自分が退いて相手を立てるの。それが上手な世渡りってものよ。私だってさんざん経験したからね』と、あたかも超正しいかのように説教してくるんです。
でも義母が会社員だったのは半世紀前の話。それ以来、外で働いたことのない人に、今どきの会社のありようなんてわかるはずがないですよね」
いつの話ですかと冗談交じりに言い返したこともある。すると義母は「人の心はいにしえから変わらないのよ」と涼しい顔だった。
「近所付き合いもそうなんですよね。うちは私たち夫婦が買った家に、義母が越してきた感じなので、最初はなかなか友だちができないんじゃないかと、ご近所さんに紹介しておいたんです。
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「洗練されていない」と地元の悪口
そのうち、義母は地域の人たちの悪口を言い始めた。この土地は洗練されていないとか、だからああいうケチくさい人たちがいるんだわ、とか。「それを聞いて、夫も笑っている。もともとこの地域は私の地元なんです。うちはもう親がいないので、実家を立て直して住んでいる。いわば私の親の土地を譲り受けた。だから夫も義母も、うちの両親の残した土地に住まわせてもらっているわけですよ。
そんな言い方をしたら嫌らしいけど、私としては地元を悪くは言われたくない。だから『私の地元が洗練されてなくて、すみませんでした』と言いながら夫を見たら、夫は嫌そうな顔をしていました。義母は知らん顔でしたけどね」
同居なんてしなければよかったとアスカさんは言いつつ、それでもなんとかうまくやっていくしかないんですけどね、見捨てるわけにもいかないしとつぶやいた。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))
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