受験は人生。自分の未来を形作り、挑戦と成長のプロセスを経て得られる、かけがえのない経験となるものです。しかし、熾烈な中学受験に翻弄される保護者たちは受験日を前に、期待と不安が入り混じるストレスフルな毎日を送ります。
【漫画】「なんでこんな問題間違えるの!?」キャンプ場に響き渡る怒鳴り声に…(全編を読む)
都内在住のTさんは、同じタワマンに越してきたNさん家族と家族ぐるみの付き合いをしています。Tさん夫妻には未就学児の娘がおり、Nさんの一人娘さんは2年生ということで娘のお姉ちゃん的存在。娘さんも懐いていました。家族ぐるみで食事会やキャンプに行くことも度々ありました。しかし、Nさんの「教育熱心さ」が限界を超え、家族全体を巻き込んだ「地獄絵図」が繰り広げられているのです。
小1から始まった中学受験への道
Nさんは、一人娘を御三家中学に入れることを目標に掲げ、小学校1年生から受験塾に通わせています。ちなみに「御三家」とは、東京にある桜蔭中学校、女子学院中学校、雙葉中学校の3校を指し、どれも難関校で高い学力を持つ生徒が集まる学校です。
Tさんは「どうしてそんなに早くから?」と驚きましたが、Nさんの説明はこうでした。「小4で入塾しようとすると、既に満席で入れないことが多いの。しかも、入塾テストで良い点を取らないと入れないから、早めに始めるしかないの!」
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Tさんが住んでいる地域は、教育熱心な家庭が多く、ほとんどの子どもが私立中学受験を目指しています。近隣には次々と学習塾がオープンし、Nさんは「何が何でも御三家」という目標を掲げているのですが、その環境では、それが特に異常とは思われません。しかし、この「当たり前」が、やがて家族を大きな試練に直面させることになるのです。
勉強か、キャンプか? テントの中での異様な光景
Tさん家族とNさん家族は、週末に郊外のキャンプ場へよく出かけていました。自然の中でリフレッシュするためのキャンプですが、Nさんにとっては違うようです。彼女は娘に、大量のテキストを持参させ、テントの中で勉強をさせるのです。しかも、その様子が普通ではありません。「問題が解けるまで、遊べないからね!」「なんでこんな問題間違えるの!?」と、Nさんの怒鳴り声がキャンプ場に響き渡ります。
Tさんは呆然としながらも、「遊ぶときは遊ばせればいいのに」と心の中で思います。これでは、リフレッシュどころか、親子共々ストレスが溜まるだけです。「無理にキャンプに来なくても」と思うのですが、Nさんの「娘の未来を思う母の強い決意」に押され、言葉が出ません。
カンニングの発覚と崩壊する家族
そんなNさんの過剰なプレッシャーが、ついに娘さんを追い詰めました。塾から連絡があり、「お嬢さんがカンニングをしていました」と告げられたNさんはショックを受けたものの、「これも勉強が足りないから!」と、ますます厳しく指導するようになったのです。
それでも娘さんは、「塾をやめたくない」と言い続けています。しかし、その言葉の裏には、「母親の期待に応えられないと嫌われてしまう」という恐怖が隠れているように見えます。そして、小学校1年生から塾に通うのが当たり前の生活になっていたので、受験をあきらめたとしても、ほかにしたいことも見つけられないのでした。
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辛いのは娘さんだけではありません。家族の崩壊の危機に瀕します。Nさんの夫はNさんの教育方針に反対しようにも、彼女の勢いに押されて何も言えないようです。家の中では、夫婦の温度感の違いから夫婦喧嘩が日常茶飯事になりました。
たまにNさんの夫に出会うと、ボソッと呟く言葉の中に、「離婚」や「別居」という言葉が出てくることがあり、Tさんは驚きました。もともと出張が多かったNさんの夫ですが、とうとう自宅に帰るのも億劫になってきたようです。Nさんは「娘のため」と信じて突き進んでいますが、その結果が家族の崩壊では本末転倒です。受験までこの家庭はもつだろうか…と、気が気でないTさんでした。
中学受験で家庭崩壊になりそうだった経験は
お子さんの中学受験で家庭崩壊になりそうだった経験はありますか?
▼30代女性・現在中3男子
確かに小6の夏は私も人格が変わっていたかもしれません。ちょっとでも息子が勉強をしていないと不安になって顔を見るたびに「勉強は?」と言っていた気がします。旦那は息子が勉強していなくても何もいわないので、そんな旦那にも腹がたってきて、旦那ともよく言い合いをしていました。焦りのない旦那をみる度に「なんでこの人、ぼーっとしてるの?」とまた腹が立ち、一時期は口も聞いていませんでした。
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▼40代男性・現在中3女子
娘の受験の時期は、妻が日々イライラしてるので、正直怖かったです。急に怖い顔になったり、大声を出したり、とにかく「早く受験終わってくれ」と思うばかりでした。多少人格が変わるのは許容しますが、娘の成績が悪い時に「なんで、こんなに悪い点数なの?バカなの?」と言ってた時、妻に対する見る目が変わりました。「こんな言葉を平気でいう人なんだな」と。結果、第一希望に合格したので、良かったのですが 中学受験は、もう二度と味わいたくないです。まさか大学受験でも同じ事があるのかと思うと、これから先、心配です。
▼40代女性・現在中1男子
うちは旦那がすごく熱心で、平日会社から帰ってきてずっと息子の横について勉強を教えたり、過去問の分析とかしていて 最初はありがたかったんですが 6年生の後半から、その執着とやり方が異常でちょっと怖くなりました。仕事そっちのけで息子の勉強をみているのをみると、正直「自分の仕事したら?」と思ってしまう自分がいました。旦那に熱が入れば入るほど、私がどこか冷めてしまって 離婚とまではいいませんが、旦那の違う一面をみた気がして、今でもたまに思い出します。
▼30代女性・現在中2男子
息子の塾の成績が悪くクラスがあがらないと、旦那はすぐに「またクラスあがれなかったの?もう無理なんじゃない?」とネガティブなことをいい、最後の捨て台詞は「塾代もったいないから、もう受験やめれば」でした。中学受験に対する根本的な考えが違うようで、「そんなにやらなくてもいい」という旦那。周りの家庭は、塾の送迎を旦那さんがしていたり、熱心に勉強をみてたりするのをみる度に「結婚相手を間違ったかな」と思うようになりました。
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Nさんのような家庭のエピソードは、実はよくある話なのかもしれません。「御三家の中学校に娘を通わせたい」という信念と、一度始めたことをやめるのは、負けを認めることだと思い込んでいるNさん。でも本当に大事なのは、家族全員が幸せであることではないのかと思うTさんなのでした。
(まいどなニュース特約・松波 穂乃圭)