Q. 「ワクチンで自閉症リスクが上がる」って本当ですか?
Q. 「『インフルエンザワクチンを打つと自閉症リスクが上がる』と聞きました。子どもはまだ2歳ですが保育園で集団生活を送っていることもあり、脳症などの合併症も怖いので、ワクチン接種を受けています。自閉症リスクも心配なので、来年からは接種を控えた方がいいのでしょうか?」A. 過剰な心配は不要です。接種しないリスクも考え、冷静に検討してください
アメリカや日本などの先進国において、「自閉症」と診断される子の数は、確かに増加しています。まだ小さいお子さんをお持ちのかたは、不安に思われることでしょう。ワクチンに関してはさまざまな説や研究がありますし、科学の発展と共に新たな事実が判明することもあります。しかし結論からお伝えすると、現時点で分かっている範囲では、過剰な不安は不要ではないかと思います。
以前、自閉症増加の原因の1つに、「チメロサールを含むワクチン接種数の増加」が関係しているのではないか、という仮説がありました。ご質問に書かれている不安は、この説によるものでしょう。この仮説は、2004年の米国科学アカデミーの医学協議会において、否認されています。
その後一度、否定するにも肯定するにも、まだ十分な証拠はあるとは言えないとされ、「チメロサールフリー」のワクチンを増やす流れが生まれました。アメリカ、ヨーロッパ、日本を含む各国の保健機関では、以前もごくわずかだったチメロサールの添加量をさらに減らす動きが進められました。
では、これによって自閉症の数は減ったでしょうか? 現時点での状況を見ると、世界的にチメロサールフリーワクチンが増えてきたにもかかわらず、自閉症の診断数は減ることなく、依然として増加しています。もし本当に因果関係があるならば、チメロサールフリーワクチンの増加に伴い、自閉症の診断数は減少していくはずです。
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何らかの病気が増加した場合、原因が何かをはっきりさせることは非常に難しく、それぞれの因果関係の有無が分かるまでには、多くの根拠を積み重ねていく必要があり、時間がかかります。
現時点では、自閉症の1つである「自閉症スペクトラム障害」には、遺伝子との密接な関連があることが分かっています。また、環境要因の1つとしては、妊娠初期の風疹との関連があると報告されています。
一方で、定期接種ワクチンへのチメロサールの使用が何らかの害をもたらすとした科学的根拠はないことから、世界保健機関(WHO)がワクチンからのチメロサールの排除を推奨したことはありません。ワクチン接種を受けないことで感染症にかかり、その感染症による後遺症などのリスクの方が大きいと考えるべきでしょう。
SNSなどには真偽不明な情報も多く、不安になり、自分では判断できないこともあると思います。何か不安に思うことがあれば、信頼できる主治医や薬剤師に相談することをおすすめします。
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清益 功浩プロフィール
小児科医・アレルギー専門医。京都大学医学部卒業後、日本赤十字社和歌山医療センター、京都医療センターなどを経て、大阪府済生会中津病院にて小児科診療に従事。論文発表・学会報告多数。診察室に留まらず多くの方に正確な医療情報を届けたいと、インターネットやテレビ、書籍などでも数多くの情報発信を行っている。(文:清益 功浩(医師))