なぜ女性国家元首が世界中で急増? 専門家に聞く「各国で人材の質が上がった理由」

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2024年11月24日 07:20  週プレNEWS

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1991年のメキシコの女性議員比率は8.8%だったが、2002年に義務化を伴うクオータ制を導入し2割を超えた。現在は50%に達している


自民党総裁選やアメリカ大統領選などで注目された"女性国家元首"。高市早苗もカマラ・ハリスも負けてしまったが、世界では女性リーダーたちが増加している。イタリアやスイスなど西欧だけでなく、メキシコ、インド、タイなど各地で誕生しているのだ(参照:【世界中で爆増!】15国、17人の女性国家元首たち ガラスの天井を突き破った彼女らの評価は?)。

なぜ近年になって、世界中で女性リーダーが生まれるようになったのか。政治学博士で、"女性と政治"を専門としている衛藤幹子法政大学名誉教授に、その理由を聞いてみた。

【写真】「女性と政治」が専門の衛藤幹子教授

*  *  *

■急に増えたわけではなく、数十年かけて増えている

――女性リーダーの誕生は、いわゆる先進国だけではなく、世界的に起きている現象なんですね。

衛藤 もちろん昔から女性の政治リーダーはいましたが、その数は少ない上に、政治的な手腕というよりも、著名な政治家一家に生まれたり、嫁いだりした後に、大統領や首相を務めた父親や夫の後継者となって地位に就く人が多かったんです。

――それでいうと、今年8月に就任したタイのペートンタン・シナワット首相の父は元首相のタクシン・シナワットで、野党からは「父の名前だけで首相になった」という批判の声もある。ただ、彼女のような政治家一家出身の女性はごく少数です。

衛藤 そうなんです。つまり、政治の世界で実力が認められて地位に就いている人が多い。これは、優秀な女性が突然変異のように世界中に生まれた結果ではありません。簡単に言うと、ただただ多くの国で女性の議員が増えただけなんです。

――増えただけ?

衛藤 はい。物理用語で「クリティカルマス」という言葉があるのですが、これは「結果を得るために必要とされる量」のこと。

女性と政治の関係でいえば、その国の女性議員の比率が30%を超えると、影響力が強くなり、リーダーが生まれる可能性が高まるといわれている。まず、量が増えることで、当然、人材の質も上がるんです。

――確かに、女性の国家元首を持つ国の女性議員率を見ると、メキシコでは上院下院共に50%、アイスランドは47.6%、北マケドニアは39.2%、ペルーは38.5%と高いですね。

衛藤 そうした国ではクオータ制という制度がさまざまな形で敷かれています。クオータ制とは、候補者や議席、政党幹部の一定比率を女性(あるいは両性)に割り当てる制度。世界的に女性の国家元首が増えているのは、そんなクオータ制が世界的に広がっているからです。

憲法で規定したり、守らなかった場合に罰則を設けたりする国も70ヵ国ほどあります。そのように強制力がある場合は即効性が極めて高いのですが、日本は努力義務止まり。そのため、衆議院の女性議員率は15.7%と低いままなのです。

――しかし、そんな日本でも女性首脳が生まれかけましたし、5.3%のスリランカや13.7%のインドでも女性のリーダーが生まれています。

衛藤 それが今起きている変革だと感じます。今まで女性政治家といえば、福祉や教育分野において母親や妻としての気持ちを代弁することで女性票を獲得していた。

しかし、高市早苗さんに共鳴して期待していた支持層に男性は少なくなかった。つまり、「女性だから」「男性だから」というよりも、政策や思想の中身で評価されている。少しずつ女性議員が増えていることで、女性の政治リーダーへの違和感や嫌悪感が薄くなってきているのだと思います。

――女性国家元首だけでなく女性政治家も増えているということですが、政治の現場に女性が増えることは果たしてプラスなのでしょうか?

衛藤 最近、企業がダイバーシティと盛んに言うのは、さまざまなバックグラウンドを持った人の中から優秀な人材を選ぶほうが合理的だということがわかってきたからです。

でも、それって当たり前ですよね。優秀な人を選ぼうとしたときに、なるべく分母を大きくするのは当然ですから。それは政治の世界も一緒です。「政治の現場に女性が増えるのはプラスか?」と考える前に「男性ばかりで政治することはプラスか?」と考えてみてほしいです。

メキシコのシェインバウム大統領はとても優秀な方ですが、メキシコで女性議員が増え始めたのは2000年代に入ってから。10年、20年という年月をかけて人数が増えたことで、彼女のような大統領が生まれた。

こうした女性国家元首の増加は一時的なブームではありません。女性政治家が世界中で増え続けている昨今、どの国でも生まれる可能性があるのです。

★「【世界中で爆増!】15国、17人の女性国家元首たち ガラスの天井を突き破った彼女らの評価は?」はこちらから


●衛藤幹子(Mikiko ETO) 
政治学博士。法政大学名誉教授。未来工学研究所シニア研究員。専門はジェンダー政治学で、女性の議会進出、クオータ制度など。著書に『政治学の批判的構想−ジェンダーからの接近』など

写真/アフロ

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  • 俺の周りには尻に敷かれてる人多い。大体上手くやってる。
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