都内のIT企業で働くAさんには、厄介な父親がいます。自分のことを最優先で考える人間で、家族のことを全く顧みない人でした。平日は遅くまで飲み歩き土日には自分の趣味に時間を費やす人で、Aさんはどこかに遊びに連れていってもらったことはありません。なんとか大学まで出してもらったことには感謝しているものの、極力関わりをもたないよう就職してからは絶縁状態でした。
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ある日、いつものように仕事をしているとAさんのもとに、母親から連絡が入ります。以前から病気がちだった祖父が亡くなったというものでした。Aさんは急いで祖父のもとに向かい、家族たちと対面しました。そこでも自分の父親が亡くなったにも関わらず、Aさんの父親は相続の話ばかり。Aさんの祖父は財産を多く持っていたため、Aさんの父親はそれを狙っていたのです。
後日、祖父が遺言書を遺していたことが判明します。ただし自筆の遺言書で、封書には入れられていませんでした。この遺言書の中身を見た父親は激昂し、「この遺言書は無効だ!」と叫び、丸めて口に放り込んでしまいます。叫び声に驚いたAさんが祖父の部屋に駆けつけた時には、すでに遺言書は父親が飲み込んだ後でした。怒る父親の様子から、どうも遺言書には遺産分割について父親に不利な内容だったのでしょう。
Aさんの父親のように遺言書を飲み込んでしまったり、または破り捨てたりした場合、法律ではどのように対応されるのでしょうか。北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに聞きました。
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ーAさんの父親のように遺言書を飲み込んでしまった場合、どうなるのでしょうか
このような事案の場合、遺言者の意思とは関係なくAさんの父親は相続人となる資格が奪われることになると考えます。これを「相続欠格」といいます。民法891条で定められていますが、同条第5号では、「相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者」は相続人となることができないとされています。
Aさんの父親がおこなった遺言書を飲み込む行為は、破ったり燃やしたりして遺言書を復元不可能な状態にして閲覧できなくすることと同様に、この条文の「破棄」にあたると考えられます。したがって、相続人としての資格をはく奪されることになるでしょう。加えてこの行為は刑法上の責任も問われる可能性があると考えます。
ー相続人の資格をはく奪されると、どうなるのですか
相続開始時にさかのぼってAさんの父親は、相続資格を失います。つまりAさんの父親は、Aさんの祖父の遺した財産を受け取ることができなくなるということです。遺言内容が不明ですが、仮に遺言書でAさんの父親への相続分が全く記されてなかった場合、この父親は遺留分の侵害額請求ができたのですが相続欠格に該当するとその請求もできなくなります。
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また遺言書の内容がわからなくなった場合でも、相続人によって遺産分割協議がおこなわれ、それぞれの相続内容は確定されます。この際、Aさんの父親が相続欠格となった代わりに、Aさんの父親の相続分は子供であるAさんが代襲相続することとなり、Aさんは遺産分割協議に参加することが可能です。
自宅保管による自筆遺言書には、紛失や焼失の他、この事案のように偽造、変造、破棄、隠匿の危険が生じやすいと一般にいわれています。こういったトラブルを避けるために、法務局の保管制度や公正証書遺言を活用することをおすすめします。
◆松尾武将(まつお・たけまさ)/行政書士 前職の信託銀行員時代に1,000件以上の遺言・相続手続きを担当し、3,000件以上の相談に携わる。2022年に北摂パートナーズ事務所を開所し、相続手続き、遺言支援、ペットの相続問題に携わるとともに、同じ道を目指す行政書士の指導にも尽力している。
(まいどなニュース特約・八幡 康二)
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