おぎぬまXのキン肉マンレビュー【コミックス第39巻編】〜シリーズを軌道に載せたあの悪魔超人。MVP級の活躍のワケ〜

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2024年11月25日 00:20  週プレNEWS

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『週プレ』復活シリーズ第2巻目、JC38巻をおぎぬまXがレビュー!!

衝撃の復活を遂げた『キン肉マン』新章の2巻目! 見どころはやはりあの悪魔超人たちの本編帰還! 正義超人、完璧超人に続き悪魔超人まで参入の三つ巴(どもえ)戦に心躍ります!!

●キン肉マン39巻

レビュー投稿者名 おぎぬまX

★★★★★ 星5つ中の5
  • シリーズを軌道に乗せた衝撃のワンシーンとは

前巻のラストはまさに衝撃でした。完璧・無量大数軍(パーフェクト・ラージナンバーズ)の苛烈な侵攻に対し、復帰が遅れている正義超人主力組に代わって迎撃に向かっていったのは、なんとまさかの悪魔超人軍!

ステカセキング、ブラックホールが早々に姿を現したのを皮切りに、以降も続々悪魔が出現。ミスターカーメン、アトランティス、ザ・魔雲天(マウンテン)が、世界各地で待つ完璧超人たちに挑みにかかります!

初期の名敵役として活躍した"7人の悪魔超人"たち。彼らが今の中井先生の手による超絶作画でよみがえったばかりか、各々試合まで見せてくれるというんですから、これはもう...特に往年からのファンにはたまらない展開です。

そして彼らを見守るように全試合の中継拠点、東京ドームにやってきたのが、かつて彼らの総大将だったバッファローマンでした。

何せ今回は24年ぶりの連載復活。こうなると普通なら同窓会的なお祭り企画をやってくれるもんだと読者の誰もが期待します。あの怖かった数々の敵超人が仲間になって助けにきてくれたに違いない、と。

しかし、久々に現れた我らがバッファローマンの様子がどうもおかしい。直後、再会の握手に差し伸べたテリーマンの手をバッファローマンはあろうことか、跳ね除けたのです!

明かされた真実は、彼らは決して正義超人の助っ人に来たのではないということでした。バッファローマンは再び悪魔に舞い戻り、仲間ともども悪魔超人なりの思惑を持って完璧超人退治に来たと語ります。ですが、その思惑の根源的部分までは明かされません。

思えば前回レビューでも語らせていただいたように、完璧超人たちは"不可侵条約の撤回"と口では言いつつ、本当は何を狙っているのかよくわからないまま起こったのが今の闘いです。

そこに現れた悪魔超人まで真の狙いがよくわからないとなると、結果的により状況が複雑化してしまっただけで、正義超人陣営としては本当になぜ闘っているのかが全く見えない!? 

それぞれの思惑が見えず、結果的に否応なく闘いに巻き込まれているというなかなか珍しいパターンで、どうやらこの新シリーズは単なる勧善懲悪のお祭り復活連載ではないぞ...といよいよ読者も勘づき始めたところで、焦点はそんな超人たちの世界各地での闘いぶりへと移っていきます。

その一番手はソ連でのステカセキングVSターボメン。どこから語ればいいのか、本当に見どころの多すぎて困ってしまう試合なのですが、そのハイライトはなんと言ってもやはり、ゼブラに変身したステカセキングによるマッスル・インフェルノ炸裂のシーンでしょう!

キン肉マンと対戦した頃のステカセはまだギャグ色の濃い時代だったのもあり、おっちょこちょいが災いしての敗北でした。しかし、その能力を活かせば、理論的には悪魔将軍のコピーも可能という潜在力を秘めていたわけで、のちに「もしかしたらアイツ、かなりの強豪だったんじゃないか?」とファンの間で語られたこともしばしば。

そんな長年のみんなの妄想が現実となって大爆発した瞬間、それがステカセ・インフェルノの衝撃だったと思います。

漫画って本当にスゴいもので、たったワンシーンでシリーズそのものが大きく動く瞬間があるんですよね。この一コマに、単行本一冊分のインパクトがあったと言っても過言じゃありません! まさに悪魔的プロモーションです。その重要な役目をステカセキングが担った...というのもまた面白いところ。今シリーズMVPに彼の名を挙げる読者も多いのではないでしょうか。

●ダルメシマンの斑点に本物の発想力を学ぶ

さらに、その後も怒涛の如く次々と、ネプチューンマン、マンモスマンと新たな強豪に大変身。しかし、彼の攻勢は残念ながらここまででした。なぜならあまりの好調ぶりに彼は少し、調子に乗りすぎてしまったのです。身の丈に合わない大技を駆使し続けたステカセキングの身体は、実は密かに悲鳴を上げていました。

ターボメンの秘技アースクラッシュを受けてその暴走ぶりはさらに加速、自らの出す技の威力に耐えきれなくなった身体はやがて自壊の運命をたどります。両腕と片足を失いボロボロになったステカセキングは、『完遂刺し(コンプリート・スティング)』によってトドメを刺され、大善戦虚しく悪魔超人最初の敗北を喫してしまいました。

さらに続くドイツでのミスターカーメンVSクラッシュマン戦も、わずか連載2週分でカーメン敗北という悪夢の超スピード決着ぶり!? しかし、これはこれで紛(まご)うことなき名勝負だったと...逆張りでも何でもなく僕は心から思うのです。

というのもこの闘い、ともに一撃必殺の大技を持つ者の対決で、要はそれをどっちが決めるか。いわば西部劇のガンマンの決闘のような、先に当てたほうが勝ちというシンプルな闘いであったと思うからです。その一撃を当てるまでの短時間内の様々な駆け引き、これが実に見応えありました。

そして、このハイスピード決着のおかげもあり、この巻は豪華なことに続く3試合目も最後の決着まで完全収録。それが当シリーズ屈指の大勝負のひとつと言っても過言ではない、中国でのブラックホールVSダルメシマン戦です。

これぞまさに超人対決! 四次元空間を操るブラックホールの特異性は言わずもがな、それに難なく対応を見せる犬の超人ダルメシマンもただ者ではありません。特に度肝を抜かれたのは、全身の黒い斑点模様(スぺクル)を自在に動かし、攻防に使うという特技ですね。

最近では、キャラクターの設定や物語の展開を、AIに答えてもらうという手法が可能な時代となりました。しかしAIは「犬の超人の特技を考えてください」と質問して、咬みつくとか、嗅覚がすごい...などと答えることはできても、「全身の斑点を集合させて相手に向かって飛ばす」と答えることができるのでしょうか? きっと、現代の技術ではそれはできないでしょう。

AIの役目がすでにある情報の中から適切な解答を導きだすことだとすれば、ゆでたまご先生がしていることは、この世の誰もが思いつかないことをゼロから生み出すことだからです!

イチ作家として自戒をこめて叫びたいのは、昔と違って今は、ネットを使って専門的な情報をいくらでも検索することが可能です。しかし、それは逆にいえば、自分だけしか知らない情報を持つことが非常に困難であることを意味しています。ダルメシマンが見せた能力の数々は、まさしく"アイデア"とは何かという問いに対する、ゆでたまご先生の答えでした。

さて、試合に話を戻しましょう。両雄の闘いは序盤こそ互角。しかし、やがてダルメシマンがブラックホールのあらゆる特技を封じていく、まさに完璧超人らしいスキのなさで、徐々に優勢に転じていきます。

鋭い牙で全身をくいちぎられ、満身創痍のブラックホール。すでにステカセ、カーメンと連敗を喫している悪魔陣営、やはり悪い流れは断ち切れないのか...。

ですが、キン肉マンと二度対戦し、いずれも敗北寸前まで追い詰めたブラックホールは違いました。その大逆転劇の顛末はぜひ実際の漫画をご覧いただくとして...総じてこの闘い、ブラックホールという超人のミステリアス、ジェントル、タクティカルという魅力のすべてが詰め込まれた最高の一戦でした。

最後は、待望の新フィニッシュ技"フォーディメンションキル"で勝利を決め、悪魔超人軍に初勝利をもたらした彼の一世一代の大一番、アニメでもこの闘いは既に放送済みですが、彼の魅力にメロメロにされた人も多かったのではないでしょうか。

かくして悪魔超人の力が完璧超人に通用する事実を彼がしっかり見せつけ、この三つ巴戦の行方はますます見えなくなったところで世界同時進行の団体戦は次巻、後半戦へと続いていきます!

●こんな見どころにも注目!

本編でも触れた通り、試合序盤は強豪超人たちの強力無比な必殺技を繰り出し続け、大攻勢を仕掛けたステカセキング。しかし、それをあえてくらい続けたターボメンは、やがて静かに語りました。「必殺技は技を受ける側だけでなく、打つ側も相応のダメージを被る」。

実はこれ、他のバトル漫画では結構見落とされがちな真実で、ゆでたまご先生がそこをしっかり描かれたのはご自身の格闘技経験などもおありなのでしょう。個人的に非常に興味深い事案でした。異能バトル作品のようで『キン肉マン』はやはりリアルに根ざした格闘技漫画なんだなと思わずにはいられない、印象的な一言です。

●おぎぬまX(OGINUMA X)
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家、小説家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン。ミステリ小説シリーズ『キン肉マン 四次元殺法殺人事件』、『キン肉マン 悪魔超人熱海旅行殺人事件』が好評発売中

漫画/おぎぬまX 構成/山下貴弘 ©ゆでたまご/集英社

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