画像提供:マイナビニュース メルセデス・ベンツがプレミアムミニバン「Vクラス」の新型を日本で発売した。高級ミニバンといえば日本のお家芸であり、トヨタ自動車「アルファード」がVIPの送迎車として大人気なのは皆様ご存じの通り。そんな日本でVクラスは輝けるのか、上級グレードの「プラチナムスイート」に試乗して確かめてきた。
全長5m超えのロングボディ
メルセデス・ベンツは1996年、それまで欧州などで販売していた商用車「ヴィト」を乗用車版に改良して発売した。これがVクラスの起源だ。今回の新型Vクラスは、2014年に登場した3代目Vクラスのマイナーチェンジモデル。基本デザインは大きく変わらないものの、内外装を刷新し、より洗練されたクルマに仕上げたとのことだ。
パワートレインは2.0L直列4気筒ディーゼルエンジンの1種類のみ。最高出力は163PS、最大トルクは380Nmとなる。ボディサイズや装備の違いによって以下の5つのグレードをラインナップする。
V 220 d、940万円
V 220 d ロング、975万円
V 220 d エクストラ ロング、1,020万円
V 220 d エクスクルーシブ ロング プラチナム スイート、1,355万円
V 220 d エクスクルーシブ エクストラ ロング ブラック スイート、1,370万円
今回は上記の中から、価格でいえば上から2番目のモデルとなる「V 220 d エクスクルーシブ ロング プラチナム スイート」に試乗した。
ボディサイズは全長5,140mm、全幅1,930mm、全高1,880mm、車両重量は2,530kg。全長だけでいえばV 220 dは4,895mmだが、最も全長が長いV 220 d エクストラ ロングとなるとV 220 d ロングよりも240mmも長い5,380mmとなり、見た目は小振りなバスといったところ。いずれにしても全長がかなり長いVクラスだが、注目したいのは内装(主に後席)だ。「プラチナム スイート」というグレード名を聞くと、どれほど豪華なのかと期待せずにはいられない。
さっそく後席に乗り込むべく、スライドドアを開ける。オフホワイトにも見える明るいベージュカラーのナッパレザーで仕立てられた「エクスクルーシブシート」は、2列目の標準装備だ(V 220 d ロングとV 220 d エクストラ ロングにはオプションで追加可能)。座ってみると全身が包み込まれる感覚で、車内が極上のくつろぎ空間になる。
足元には角度の付いたフットレストが。後頭部を優しく支えてくれるクッション付きヘッドレストも備わっている。シートは手元のスイッチで簡単にリクライニングすることが可能(もちろん電動)。シートベンチレーターの効きもよく、いたって快適だ。折りたたみ式のテーブルを展開すればノートPCを使って作業をしたり、食事を楽しんだりすることもできる。
ただし、エンジンをオフにしてしまうとリクライニングできなくなってしまうので注意が必要だ。
2列目シートは重くてスライドしにくい
3列目シートにも座ってみた。身長178cmの筆者でも、2列目シートを前方にスライドさせておけば足をめいっぱい伸ばせる。広さは十分なので、成人男性が3人で乗っても窮屈に感じることはないだろう。ただ、ドリンクホルダーが前寄りにひとつと、スマホくらいしか入れることができない細いポケットがあるだけと収納は少ない。3列目の使い勝手は微妙だと感じた。
2列目と3列目のシートは全て取り外し可能。そうすれば車両の後方全体を荷室空間として活用できる。ただ、シートはかなり重いので、実際に取り外すのはあきらめた。
3列目シートは使わないことにして2列目シートをめいっぱい後方にスライドすれば、飛行機のファーストクラスかのような快適空間が完成する。乗車定員は7名だが4人乗りの高級ミニバンとして割り切って使うのもありだ。
ただ、この2列目シート(エクスクルーシブシート)の前後スライドは手動でしか動かすことができず、これがまた非常に重くて動かしにくい。かなり力を入れないと前後にスライドしてくれなかった。
担当者に聞いたところ、2〜3列目シートを全て取り外せるようにしているため、シートのスライドは電動にしていないとのこと。2列目シートに座った状態で全身を使ってスライドさせれば多少は楽だが、とはいえ、3列目にアクセスするたびに、重い2列目シートをスライドさせなければならないのかと思うと少々気が滅入る。
また、このエクスクルーシブシート(2列目)はUSB-Cポートとスマホ用のトレイを備えているが、トレイは無線充電に対応していない。スマホを置くだけのトレイとなる。このあたりも改善してほしいところだ。
高級感は申し分ないが…
車内全体を見渡せば、上質なナッパレザーをふんだんに使っていて高級感は申し分なし。アルミニウムのインテリアトリムとアンビエントライトがアクセントとなっていて、高級感の中に引き締まった印象を与えることにも成功している。デザインバランスは絶賛したい。しかし、使い勝手の面では気になる点がいくつもあった。
走りについては、商用車ベースなので仕方ないことだが、滑らかでスムーズな走りを堪能することは難しかった。サスペンションには「AIRMATICサスペンション」を新たに採用し、滑らかな乗り心地を実現したというが、絶賛したくなるほどの乗り心地ではなかった。
Vクラスのライバルは国産の高級ミニバン勢となるはずだが、使い勝手の面からいえば、Vクラスにはもう少しがんばってほしいというのが正直な感想だ。質感の高さは文句ないが、かゆいところに手が届いていない。例えばトヨタの高級ミニバン「ヴェルファイア」であれば、最上級グレードを選んでも価格は892万円からで、上質な居住空間を満喫できて、使い勝手も申し分ない。
ベンツというブランド価値には揺るぎないものがあるし、Vクラスのエクステリアはかなり好み。買えるのなら買いたいという気持ちもある。
それだけに、もしも本当に購入するならという視点で実物に触れてみると、細かい部分が気になってしまった。ましてや1,000万円を超える価格ともなれば、ユーザーが多くを求めても無理はない。今後、日本のミニバン市場でVクラスが生き残っていくには、細かい部分をブラッシュアップしていくことが必須となるだろう。
室井大和 むろいやまと 1982年栃木県生まれ。陸上自衛隊退官後に出版社の記者、編集者を務める。クルマ好きが高じて指定自動車教習所指導員として約10年間、クルマとバイクの実技指導を経験。その後、ライターとして独立。自動車メーカーのテキスト監修、バイクメーカーのSNS運用などを手掛ける。 この著者の記事一覧はこちら(室井大和)