サウナを利用する人が増えていることを受けて、さまざまな商品が登場している。髪のダメージを防止するハット、熱さを軽減するマット、くもり止め加工を施したメガネなど。ほかにも、さまざまなアイテムが登場している中で、サウナ専用の腕時計が登場した。
商品名は「サ時計」(オリジナルモデル:9800円、サウナイキタイモデル:1万1300円)。カシオ計算機が開発した製品で、専用ボタンを押すと長針が12分で一周する。なぜ「12分」なのか。ご存じの人も多いと思うが、10年ほど前から「サウナー」と呼ばれている愛好家がじわじわ増え、心身をリラックスさせることを「ととのう」と表現して話題になった。
「ととのう」ために、サウナで体を温める→冷水で体を冷やす→外気浴などで休憩する。このサイクルを繰り返す際、のぼせや冷えすぎを防ぐために、適切な時間を測ることが重要になる。その目安として「12分」に設定したという(※)。
カシオの時計といえば、G-SHOCK、OCEANUS、PRO TREKなど人気商品を展開しているが、なぜサウナ専用のアイテムを開発したのか。開発のきっかけは、3年ほど前にさかのぼる。当時、コロナ禍ということもあって、サウナの利用が減少していたものの、やがてお客は戻って来る。そのときのために、サウナ用の時計を用意するのはどうかと考えた。
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開発リーダーの山下真司さんは、サウナーから不満の声を聞いていた。「サウナの中は熱いので、腕時計やスマートフォンを持ち込むことが難しい」と。実際、いくつかのサウナを見て回ると、時計をしていない人が目立った。カシオの製品を身に付けている人もいたが、同社は基本的にサウナ利用中の時計着用を推奨していない。例えば、G-SHOCKは衝撃や振動に強いものの、高温や高湿に強い構造をしているわけではないからだ。
また、多くの施設ではサウナ室に12分計を設置しているが、メガネを持ち込めないので「見えにくい」という声も。脱衣所以外に時計が設置されていないところでは、「いまの時間が分からない」「利用時間が過ぎてしまわないか不安になる」という人もいた。こうした声を受け、「サウナ専用の腕時計はニーズがあるのではないか」(山下さん)と考えた。
●アナログで、必要最低限の機能に絞ったほうがいい
山下さんは、上司に「サウナ用の時計を開発したい」という旨を伝えたところ、GOサインが出たので、さっそく開発に着手した。当初は、若者に人気のリーズナブルな時計、いわゆる“チープカシオ”のバンドを取り外し、代わりに銭湯などでよく見かける「くるくるゴム付きのロッカーキー」を装着した。
試作品の見た目が斬新だったこともあって、周囲の評価はよかったものの、さすがにこのまま販売するのは難しい。温浴施設とのタイアップ商品であればアリかもしれないが、一般販売は厳しいという指摘が多かった。
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次に考えたのは、デジタル時計である。時計と12分計を表示して、バンドは通常タイプのモノを装着した。この試作品が完成したあとに、消費者調査を実施する。デジタルがいいか、アナログがいいか。機能は多いほうがいいか、少ないほうがいいか。たくさんの人に話を聞いたところ、「アナログで、必要最低限の機能に絞ったほうがいい」という意見が多かった。
この結果を受け、アナログ仕様の表示にして、機能もシンプルに。バンドは通常のモノを装着していたが、「サウナを楽しむことや着脱のしやすさを考えて、銭湯などでよく見かけるカールバンド(くるくるゴム)を使いました」(山下さん)
サ時計の開発にあたって、G-SHOCKなどで培った技術を応用したわけだが、苦労した点もある。「高温と高湿に対応しなければいけない」ことだ。サウナの中で使えるようにするには、どうすればいいのか。「熱さ」については、耐熱電池を採用することによって、解決した(※)。
一方の高湿についてはどうか。「通常の樹脂を使うと、湿気がケースの中に入ってくるんですよね。透湿性の低い樹脂を採用することで、ケース内の曇りを抑えました」(山下さん)。
●G-SHOCKの“次の時計”
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サ時計はこうして完成したわけだが、現時点(11月26日)で店頭にはまだ並んでいない。12月2日から応援購入サービス「マクアケ」で販売する。結果を見て、事業化を検討するようだ。
サ時計のアイデアは、社内の新規事業プログラムで採用された。同社は2020年から、さまざまな事業ネタを探していて、そのアイデアを元に商品化にチカラを入れている。2023年には、エレキギターなどの音を変化させるエフェクターを開発し、マクアケで販売。目標金額に達したので、現在は事業化するかどうか検討を進めているという。
カシオといえば、電子楽器、電子辞書、計算機などを扱っているが、主力事業は時計である。ただ、近年はヒット商品が登場していないこともあって、新規事業にチカラを入れているようだ。
さて、G-SHOCKの“次の時計”は登場するだろうか。
(土肥義則)
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