ファミマとセブンが「伊藤忠化」する――? 経営陣による「9兆円」MBO、日本史上最大の企業買収劇のゆくえ

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2024年11月26日 08:31  ITmedia ビジネスオンライン

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セブン-イレブンのゆくえは(イメージ)

 セブン&アイ・ホールディングス(以下、セブン&アイ)が、カナダの小売大手アリマンタシォン・クシュタール(以下、クシュタール)からの買収提案に対抗する形で、9兆円規模の経営陣による買収、いわゆるMBOを検討していると一部の報道機関が伝えた。


【画像】伊藤忠商事はファミリーマートを実質完全子会社としている


 特筆すべきは、このMBOにファミリーマートの親会社である伊藤忠商事が関与するという観測ではないだろうか。この動きは、長らく維持されてきた国内コンビニ大手3社、セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソンの「均衡」を崩す可能性もありそうだ。


 クシュタールは10月にこれまでの買収提案から約2割上乗せし、約7兆円の買収案をセブン&アイに再提示した。この提案は、セブン-イレブンのブランド力と店舗網をグローバル戦略に取り込み、特にアジアや米国市場での競争優位性を高める狙いがあるとされる。


 一方、セブン&アイはこれに対抗するため、創業家などを中心に、MBOによる非上場化を検討しているという。創業家とはいえ、9兆円という天文学的なキャッシュを用意することはできるのだろうか。


 この点、実質的なキャッシュの出し手は「伊藤忠商事」に加え、セブン&アイ主力銀行の「三井住友銀行」を筆頭とした「3メガバンク」になる可能性が高いと見られている。伊藤忠の資本参加による資金提供と、各銀行によるMBO用の協調的な融資プログラムが実現すれば、本件は日本企業としては史上最大のM&Aを成し遂げることになる。


●株式市場は"半信半疑"


 セブン&アイの株価は今年8月には時価総額4兆円ほどしかなかったが、買収提案が取り沙汰されてからは株価は上り調子となり時価総額は記事執筆時点で約6.6兆円まで膨れ上がった。しかし、MBOが9兆円規模といわれていることに比べれば、市場価格は低い。


 これはつまり株式市場では、MBOの成立についてはいまだに”半信半疑”とみられていることになる。6.6兆円という時価総額はクシュタールの買収提案金額よりも低いため、今後もセブン&アイの動向は相当に流動的な展開が予想されるだろう。


●独占禁止法のハードルも?


 市場がMBOの成立について半信半疑なのは、「資金が用意できるか」という理由以外に、独占禁止法上の懸念もある。


 伊藤忠商事はファミリーマートを実質完全子会社としている。今回のMBOが成立した場合、セブンイレブンの持ち株比率は30%程度になるという見方が強いものの、国内コンビニ大手3社のうち、2社が同一資本の関与の下に置かれることは、市場の競争を過度に制限する可能性がある。


 公正取引委員会(公取委)としては、このMBOが実現した場合、独占禁止法の観点から厳格な審査を行うことが予想される。公取委は、取引が市場競争に与える影響を精査し、必要に応じて条件付きの承認や取引差し止め命令を行う権限を持つ。


 ファミリーマートとセブン-イレブンの連携が進むと、商品供給や物流の効率化が期待される一方で、市場での価格競争が減少し、消費者に不利益をもたらすリスクもある。


 今回のMBOが独占禁止法に抵触するかどうかは、今後の公取委の審査などにも左右される。ただし、MBOが成立しなかった場合、クシュタールによる企業買収が行われ、影響力が高い日本企業が外国企業に買われてしまうというリスクも残る。


 政府や規制当局としてもこの問題には慎重にならざるを得ないだろう。


●セブン-イレブンと旧財閥系企業との関係


 コンビニチェーン業界は、スーパー業界と同様、これまで旧財閥系企業とのむすびつきが強い業界である。「ローソンと三菱(商事)」「ファミリーマートと伊藤忠(商事)」の関係は有名で、セブン-イレブンだけが大手3社の中で「独立系」という見方もされてきた。


 しかし、一部ではセブン-イレブンは「三井系」と言及されることもある。その理由は、三井物産との長年の関係に起因する。


 米セブン-イレブンのフランチャイズ権を取得していたイトーヨーカ堂(現セブン&アイ・ホールディングス)が日本で事業を本格拡大した際、三井物産と資本・業務の両面で包括的な提携を行ったことが、今日のセブン-イレブンを作っているからだ。


 2005年には三井物産がイトーヨーカ堂グループの株式を買い付けたことで、同年9月に設立されたセブン&アイ・ホールディングスの大株主に三井物産が名を連ねることとなった。


 実際のところ三井物産や三井住友銀行は、セブン-イレブンの物流・金融網の構築を支え、成長に不可欠な存在となっている。


 例えば、三井物産の物流や流通業界におけるノウハウ・販路・物流網がセブン-イレブンの効率的な商品供給体制や在庫管理の実現に貢献している。加えて、三井住友銀行はセブン-イレブンのメインバンクとして、財務面で強力なバックアップ役を果たしている。ちなみに、セブン銀行の筆頭株主も三井住友銀行である(投資信託の運用期間やグループ関係企業を除く)。


 セブン-イレブンが海外市場、特にタイを中止としたアジア圏や北米でシェアを拡大する際も、三井物産の海外調達力や国際ネットワークが活用されたとみられる。


 こうした資本や業務面での連携が、セブン-イレブンを「三井系」と位置付ける理由となっている。


●円安が誘う外資 試される日本企業の選択


 ただし、三井物産のセブン&アイに対する株式保有比率は1.84%と小さく、株主としての直接的な影響力は限定的である。


 株主関係という観点でみれば財閥系の色は薄く、伊藤忠商事の実質完全子会社であるファミリーマートや、三菱商事の子会社であるローソンと比べると、やはり「独立系」とみて差し支えないだろう。


 伊藤忠商事がセブン&アイのMBOに関与できるのも、株主としての色が薄いことでセブン-イレブンの国際的な販路を活用したり、自社の販路を提供したいというシナジー効果を見込んでいるからではないだろうか。


 急速に進行している円安相場によって、海外企業からみた日本企業が”お買い得”になっている。外資系企業による大手企業の買収検討はセブン&アイのみならず、今後増加する可能性もある。


 11月20日のNHKニュースの報道によれば、創業家側は特別目的会社を設立し3メガバンクと米大手金融機関から8兆円超の資金調達に向けた交渉が進んでおり、早ければ年内にもTOBが実施されるという見方も出てきた。特別委員会の承認を得て、今年度中の買収完了を目指す方向で調整を進めているという。クシュタール側も「敵対的買収は検討していない」と表明した。


 コンビニ業界の勢力図を塗り替える可能性を秘めた本件。引き続き注目したい。


●筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO


1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手掛けたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレースを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務などを手掛ける。



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