今オフ、千葉ロッテ・マリーンズの佐々木朗希(23歳)はポスティングシステムを利用し、メジャーリーグの球団へ移籍する。
申請は来月以降だろうが、千葉ロッテはすでに手続きを行なうことを発表している。公示から45日の交渉期間中に契約が成立しなければ「千葉ロッテ残留」となるが、そういうことは起きそうにない。
佐々木の入団先については、ロサンゼルス・ドジャースと予測するメディアが圧倒的に多い。かつてシンシナティ・レッズとワシントン・ナショナルズでGMを務め、現在はスポーツ専門ニュースサイト『ジ・アスレティック』の記者ジム・ボウデンのように「佐々木はドジャースとは契約を交わさない」という意見もあるが、少数派に過ぎない。ドジャースが大本命であるがゆえ、あえてそれ以外の可能性を挙げているようにも見える。
控えめに言っても、ドジャースが佐々木をほしがっていることは間違いない。
2024年に、ドジャースで5試合以上の先発マウンドに上がった投手は10人を数えた。そのなかから、ジェームズ・パクストンは夏のトレードでボストン・レッドソックスへ移った(オフに引退を表明)。ウォーカー・ビューラー、ジャック・フラハティ、クレイトン・カーショウはFAとなった。10月に右肩の手術を受けたギャビン・ストーンの復帰は、2026年の見込みだ。
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現時点でドジャースに在籍している投手を5人、ローテーションに並べるなら、タイラー・グラスノー、大谷翔平、山本由伸、トニー・ゴンソリンに、5人目はボビー・ミラーかダスティン・メイ、ランドン・ナック、ジャスティン・ウロブレスキーが候補だろう。人数としては足りている。
けれども、2024年にメジャーリーグで135イニング以上を投げた投手は、この5人のなかにいない。グラスノーはこれまでもケガが多く、2024年の134.0イニングが最多だ。今年のポストシーズンは登板できなかった。山本はシーズン中盤に3カ月近く離脱。大谷とゴンソリンの登板はなく、ふたりとも2025年はひじの手術からの復帰シーズンとなる。メイも全休。ミラー、メイ、ナック、ウロブレスキーは、まだ完全開花には至っていない。
カーショウと再契約する可能性は高いものの、こちらも投げたのは7月下旬から8月下旬までに30.0イニングだけ。ポストシーズンの登板はなかった。来年3月には37歳となる。
【中5日のローテーションのメリット】
ドジャースの首脳陣は先発について、5人ではなく6人のローテーションを思い描いているように見える。
『ジ・アスレティック』のファビアン・アーダヤらによると、編成責任者のアンドルー・フリードマンとGMのブランドン・ゴームズはポストシーズンの最中とGM会議の期間中にそれぞれ、来シーズンの6人ローテーションを示唆するような発言をしたという。投手コーチのマーク・プライアーも、今月ポッドキャストの『ドジャース・テリトリー』に出演した際に6人ローテーションのメリットについて語っている。
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佐々木はこれまでNPBでの4シーズン、1シーズン130イニング以上を投げたことがない。2022年の129.1イニングが最も多く、ここ2シーズンは91.0イニングと111.0イニングだ。中6日未満の登板も一度もない。
5人ローテーションなら中4日、6人ローテーションだと中5日が基本となる。中6日→中4日の適応と中6日→中5日の適応を比べれば、どちらが容易であるかは言うまでもない。ドジャースからすると、佐々木が適応しやすくなるだけでなく、ほかの投手がケガに見舞われるリスクも軽減できる。ちなみに2024年の山本はポストシーズンを含め、いずれも中5日以上の登板間隔だった。
その一方で、先発投手を5人から6人に増やすと、ベンチ入りのロースターの人数は26人のままなので、リリーフ投手か野手をひとり減らす必要が生じる。リリーフ投手がひとり少なくなれば、その分、先発投手は長いイニングを投げることが求められる。
もっとも、ドジャースはそうせずに済む。大谷は先発投手として登板するだけでなく、DHとしても試合に出場する。二刀流の選手を擁しているのは、実質的にはドジャースだけだ。
また、佐々木はメジャーリーグ1年目から活躍できるとは限らない。ロサンゼルス・エンゼルスに入団した時の大谷の場合、ひじを痛めて最初の3シーズンは計53.1イニングしか投げることができなかった。2018年が51.2イニング、2019年がゼロ、2020年は1.2イニング。その後の3シーズンはいずれも130イニング以上を投げ、防御率3.20未満を記録した。
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【ダルビッシュのいるパドレスの事情は?】
2025年の佐々木のシーズン年齢は、メジャー1年目(2018年)の大谷と同じ23歳だ。
理由はともかく、大谷のように佐々木の最初の3シーズンのイニングが少なかったとしても、ドジャースはその間もポストシーズン進出を狙うコンテンダーであり続けることができる。
昨年オフは大谷を10年7億ドル(約1015億円/2024年〜2033年)、山本を12年3億2500万ドル(約465億円/2024年〜2035年)の契約で迎え入れ、トレードで獲得したグラスノーとは5年1億3656万2500ドル (約204億円/2024年〜2028年)の延長契約を交わした。来シーズンから数えて、佐々木の4年目は2028年だ。この時点では、大谷、山本、グラスノーの3人とも契約期間中。ストーンやナックらもFAにはなっていない。
野手では、ムーキー・ベッツとウィル・スミスが2028年以降もドジャースにいる。それぞれの契約は、12年3億6500万ドル(約391億円・当時/2021年〜2032年)と10年1億4000万ドル(約211億円/2024年〜2033年)だ。
たとえば、ドジャースと同じナ・リーグ西地区のライバルであるサンディエゴ・パドレスは、ディラン・シース、マイケル・キング、ダルビッシュ有に、2025年は全休のジョー・マスグローブを含めた先発投手4人のうち、シースとキングが来オフにFAとなる。長期契約の野手はドジャースより多く、2024年にメジャーデビューを果たしたジャクソン・メリルもいるものの、ドジャースと違って数年先のローテーションは見えていない。
それだけにパドレスは佐々木をほしがっているという見方もできるが、佐々木がパドレスに入団した場合、近い将来、整備されていないローテーションで孤軍奮闘という事態もある。エンゼルス時代の大谷ほどひどくはならないはずだが、あり得なくもない。
ドジャースは2013年から12年続けてポストシーズンに進出し、2020年と2024年はワールドシリーズ優勝を飾った。だが、それに満足することなく、より強大で長期にわたるダイナスティ(王朝)を築くつもりらしい。佐々木を迎え入れようとしているのは、目の前のワールドシリーズ連覇もさることながら、さらにその先を見据えた動きに思える。