米司法省がGoogleに「Chrome」売却要求……SEOはこれから「崩壊」するのか?

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2024年11月27日 09:01  ITmedia ビジネスオンライン

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米司法省はGoogleのChrome事業売却を要求した(イメージ)

 GoogleやX、Instagramといった巨大プラットフォームを利用したビジネスの成長戦略が今、変化を迎えようとしています。


【画像】生成AIを組み込んだ検索エンジンは急速に普及


 生成AIの登場によりゼロクリックリサーチ(検索結果ページで知りたかった情報を入手すること)が増え、「『SEO対策で上位表示させ、集客する』というマーケティング手法が通用しなくなるかもしれない。」「消費者は企業(広告)より個人を信頼する傾向にあるため、Webサイトへの訪問がますます減少するかもしれない」――このような、これまでの集客における方程式の崩壊が危ぶまれています。


 さらに11月18日、米司法省がGoogleの検索市場における独占状態を改善するため、同社のWebブラウザ「Chrome」事業の売却を裁判所に要請する方針であることが明らかになりました。


 これはMicrosoftに対して行われた2000年の独禁訴訟以来の、テック企業を制限する最も大規模な動きです。


 この訴訟の結果次第では、Web広告やSEO対策の業界構図が大きく変わる可能性があります。


 果たしてSEOによるWebマーケティングは本当に崩壊してしまうのか。本業界に身を置く者として考察してみたいと思います。


●Google検索が生成AIを依然圧倒


 まずは生成AIの登場以降、Google検索のシェアはどのように変わったのかを見ていきましょう。


 Google検索と生成AI検索の利用状況を比較すると、現在もGoogle検索が圧倒的に多く使われています。Google検索は1日当たり85億回以上の検索が行われており、その規模は生成AI検索をはるかに上回っています。


 一方で、生成AI検索の代表格であるChatGPTは、世界で1億8050万人以上のユーザーを獲得しており、急速に普及しています。


 GoogleがAI機能を検索に組み込んだSGE(Search Generative Experience、現:AI Overview)も注目を集めています。日本では20歳〜69歳の約4割がSGEを認知し、そのうち6割が使用経験があると報告されています。


 また、SGEユーザーの91.4%が欲しい情報を得られていると回答し、60.8%が検索結果の6割以上をSGEのみで完結させているという調査結果もあります。これらのデータから、生成AI検索の利便性と効果が認識され始めていることが分かります。


 生成AI検索の成長が著しく、今後の検索行動に大きな変化をもたらす可能性はありますが、現時点でもまだまだGoogle検索が主流といえます。


●検索からのWebサイト訪問は本当に減るのか?


 続いて、Webサイトのトラフィックについて見ていきましょう。


 今後、生成AI検索が主流になっていくことで、検索からのWebサイトへの訪問は確かに減少することが予測されます。ただし、完全になくなることはないと私は考えています。


 第1の理由として、生成AI検索で情報収集を完結させるユーザーが増える一方で、一定数のユーザーは複数の情報源を確認する傾向にあるため、ユーザーインタフェースの観点から、Webサイトへのリンクは残ると考えています。


 第2に、Googleなどのプラットフォームは、独占禁止法や著作権問題をなるべく避けるため、参考元サイトのURLを明記し続けると予測されます。プラットフォーム側も、良質なコンテンツの継続的な提供がプラットフォームの価値を支えているため、Webサイト運営者との共存関係を維持する必要があります。


 第3に、最新テクノロジーに対してやや保守的な日本人の検索習慣は、生成AIの「精度と信頼性」「使いやすさ」が向上したとしても、それだけでは簡単に変化しないと考えられます。


 仮に検索習慣が大きく変化するならば、スマートフォンのデフォルト検索エンジンが生成AI検索に変更されるなど、デバイス側の大きな変革があり、多くのユーザーが一斉に使い始めるようなきっかけが必要でしょう。そうでない限り、変化は緩やかに進むと予想します。


●「個人」と「企業」の二刀流でマーケティング戦略を


 続いて、インフルエンサーの台頭、つまり信頼される対象が「企業」から「個人」へ移り変わることによってWebトラフィックが減少するのかどうか見ていきましょう。 


 結論として、「企業」よりも「個人」を信頼する傾向は、一般的に言われているほど単純ではありません。博報堂生活総合研究所の2021年の調査によると、20代の半数がSNSとブラウザ検索を同時に使用しており、インフルエンサーの情報だけでなく、企業のWebサイトも参照していることが分かりました。


 また、B2Bの場合、特に大企業ではコンプライアンスの観点から「企業」としての信頼性を重視する傾向があります。「個人からの紹介」は受注率を高める可能性はありますが、企業が独自に持つ一次情報などのWebコンテンツは、リードジェネレーションにおいて重要な要素であり続けるでしょう。


 つまり、「個人」への信頼は確かに存在しますが、「企業」の信頼性も依然として重要といえます。消費者や企業は、個人の意見と企業の情報を組み合わせて判断を下していると考えられます。この複雑な情報収集行動を理解し、両方のアプローチをバランスよく活用することが、効果的なマーケティング戦略につながるでしょう。


●SEOへのビジネス投資は必要か?


 最後に、SEO不要論について見ていきましょう。結論から述べると、SEOへのビジネス投資は生成AI時代においても引き続き必要です。


 確かに、生成AI検索の普及により、従来のSEO作業の一部、例えば見出しタグや構造化データなどのマークアップ関連の重要性は低下する可能性があります。


 しかし、現時点では検索ボットによるWebサイトのクロールプロセスに変更はありません。そのため、クロール効率の良いサイト設計や、生成AIに高評価されるような質の高いコンテンツ制作は依然として重要です。


 また、各生成AIの評価基準は不透明ですが、Googleが従来重視してきた「バックリンク」「サイテーション(引用・言及)」「E-E-A-T(経験、専門性、権威性、信頼性)」といった指標は、情報の信頼性を測る上で今後も重要な役割を果たすと考えられます。


 つまり、SEOの形は変化しても、その本質的な重要性は変わりません。企業は引き続きSEO対策に投資し、変化する検索環境に適応していく必要があります。


●Webマーケティングのこれからについて


 ここまで、SEOによるWebマーケティングが崩壊するか否かについて考察してきました。


 以上を踏まえると、SEOのビジネスモデルは崩壊せず、今後、形を変えながらマーケティング手法として重要な位置付けを保ち続けると考えられます。


 検索エンジンの未来は、テクノロジーの進歩や訴訟問題、政治事情、デバイスとブラウザの関係など、複雑な要因が絡み合って決まっていきます。


 大きな潮流としては、従来の「青いリンク集」によるキーワード検索の利用は減少し、Google一強時代も終わりを迎えるでしょう。生成AI時代の到来により多くの企業が参入し、競争が活発化する中で「インターネットの秩序」がより重要性を増していきます。


 Googleは長年「良質なインターネット環境の構築」という大きな責任を担ってきました。外部サイトからのリンク(≒推薦)を情報の信頼性の指標としたり、コピーコンテンツの禁止、コンテンツ評価指標E-E-A-Tの重視、ユーザーインタフェースの評価など、さまざまな取り組みを通じてWebの質を向上させてきました。


 これらの基準に応えるSEO対策を進めることで、インターネット全体の情報の質が向上してきたといえます。これはGoogleが人類に残した大きな功績の一つといえるでしょう。


 私はSEOコンサルタントとして、プラットフォームとWebサイト運営者を結ぶ橋渡しの役割しかできませんが、今後の検索プラットフォームの主要企業には、Googleと同様に「良質なインターネット環境の構築」という使命を持って取り組んでほしいと考えています。


●筆者プロフィール:田中雄太


株式会社デジタルアイデンティティ SEOエヴァンジェリスト、コンサルタント。SEO集客からの売り上げ・問い合わせ増加など、セールスファネル全体のコンサルティングが可能。『薬機法管理者』の資格を有し、表現の規制が厳しい薬機法関連分野のマーケティングにも精通。



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