日産自動車が発表した2024年度の中間決算は、衝撃でした。純利益が前年同期比93.5%減の192億円となり、会見で内田誠社長は、世界の生産能力を2割削減し、グループ全社員の7%に相当する9000人の人員削減を実施するとしたのです。今回の決算が、いかに深刻なものかが分かります。日産は何をどこで誤ってしまったのでしょうか。復活に向けて必要なことと合わせて、探ります。
【画像】2019年当時に掲げた「Nissan NEXT」の骨子
●「好機」だったコロナ禍を生かせなかったツケか
大幅減益となった最大の理由は、北米における販売不振です。北米市場の連結営業損益として41億円の赤字を計上しました。前年同期は2413億円の黒字を計上し、グループ全体における営業利益の7割超を占める屋台骨だったにもかかわらず、この1年で急激な下降線をたどっています。
北米ではこの1年、二酸化炭素排出量の削減に向けた次世代自動車のトレンドについて、大きな変動がありました。EV(電気自動車)一辺倒で動いてきた業界の流れに、利用者側からの大きな揺り戻しがあり、一転してHV(ハイブリッド)車の人気が盛り返す事態になったのです。
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理由はいくつかありますが、EV価格の高止まりと補助金制度の打ち切りによって消費者マインドが冷めたこと、さらに充電ステーション整備が進まなかったこと。北米の厳冬によって、1回の充電でEVが走行できる距離が短くなってしまうことなどが、大きく影響したのでしょう。
日産はカルロス・ゴーンCEO時代から、次世代自動車をEVに決め打ちして突き進んできました。その結果、昨今北米で人気のHVで攻勢をかけられず、大きな打撃を被りました。また、ゴーン時代に掲げた拡大路線の修正計画として、2020年から4カ年の「Nissan NEXT」として生産能力と販売車種の削減を掲げたために、新車刷新の動きが取れなかったことも、大きなマイナス要因として指摘されるところです。
振り返ればコロナ禍は、半導体不足が深刻化して自動車の供給不足が起こり、軒並み高価格で販売できる好機でした。トヨタやスバルは新車投入やモデルチェンジで積極的な販売戦略を展開し、功を奏しています。同じ状況下にあって日産は、構造改革計画にとらわれていたためにみすみすチャンスを逃し、機動的な新車開発もままならず、新たな人気車種を送り出せなかったのです。
結果的に、人気車種は不在で不人気車種の在庫ばかりが増加。人気急下降のEVを含めて新車販売が販売奨励金頼りとなってしまい、収益を大きく圧迫しました。このような北米における一連の失策には、経営の戦略的な誤りと機動性の欠如が色濃く漂っているのです。
●求心力がない状態で、複雑な問題への対応を迫られた
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今回の決算を受け、大失速の理由に言及した日本経済新聞の記事では、日産の企業風土を問題視する記述が目を引きました。
「ゴーン時代から払拭(ふっしょく)できない経営風土」として、幹部社員が「指示待ち」をし、モノいわぬ習慣があるというのです。ゴーン氏は1999年、就任直後から「リバイバルプラン」に着手して圧倒的なトップダウン経営で改革を押し進め、成果を挙げてきました。絶対的なトップとなった氏は、その後の経営安定期も独断で物事を進めて、多くの指示待ち幹部を生み出しました。そしてその時代の幹部たちが、いまだに残っていることが、風土を変えられない原因だというのです。
しかし、問題は単にゴーン時代をひきずる幹部社員たちの指示待ち風土だけではありません。ゴーン氏退場以降の、経営体制の安定感欠如も大きく関係していると見ています。
2018年にゴーン氏の不祥事(金融商品取引法違反容疑)が発覚、逮捕・解任となりました。その後を受けたゴーン時代のナンバーツーである西川廣人氏に2019年、不当に多くの報酬を得ていた疑惑が浮上し、事態を収拾すべく辞任を余儀なくされました。現在の内田社長は、この混乱の収拾役として専務から急遽の登板となり、安定感欠如の問題はここから始まっています。
内田社長が商社出身ということもあってか、体制当初は提携先であるルノー出身のアシュワニ・グプタCOOおよび生え抜きで技術畑の関潤・副COOとの三頭体制でしたが、関氏が就任からわずか1カ月で日本電産の永守重信CEOに引き抜かれるという事態が発生。その後も副社長やCQO(最高品質責任者)らが相次いで退任するなど、経営体制に安定感を欠く状況が続き、内田社長の求心力に疑問符が付く状況が露呈しました。
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さらに2023年は、社長との確執がささやかれたグプタCOOも辞任。このような安定感を欠く経営体制が、事業戦略を推し進める上で障害になったことは間違いないでしょう。
EVを巡る100年に一度とされる業界の大変革期に、このような不安定な体制下で、ゴーン氏退任後のルノーとの提携内容見直しや資本関係の綱引きなどの対応を迫られたのは、かなり危機的状況だったといえます。結果としてルノーの支配下を抜け出したものの、これまでルノー傘下の経営が長く続いていました。
それにより、常にルノーの顔色うかがいをしつつ戦略を決定する流れが定着していたことは、経営のスピード感を失わせる一因になったといえそうです。未解決で残されたルノー絡みのいざこざもまた、ゴーン氏が残した負の遺産といえるでしょう。
●いまだ「ゴーンの呪い」から抜け出せていない
日産は3月にルノー傘下を外れて初めての中期経営計画を策定。2027年3月期に世界での販売台数を450万台前後に引き上げる計画を公表しました。しかし、今回の工場閉鎖計画によって、世界での生産能力自体は400万台まで減少する見込みに。計画策定からわずか半年で、主軸である販売台数計画自体がとん挫したことになります。この間、経済状況に特段大きな変化があったわけではなく、経営の見通しの甘さは目に余るレベルであり、内田社長の経営者としての資質には疑問符が付くところです。
今回の発表では、日産が保有する三菱自動車株のうち、約3割を売却することも明らかにしています。この株は、三菱自動車が2016年に燃費試験の不正問題を起こして経営危機に陥った際、日産サイドからの「救済策」として取得したもの。このとき、三菱自動車はルノー=日産グループ傘下に入っています。
今回の発表は、日産が遅れを取り戻すための開発費に加え、工場閉鎖や退職金などの費用負担増によって、グループ企業の持株を売却しなければならないほど資金面でも苦境にあることを示しています。
今後、米国はトランプ政権への移行によって、メキシコからの輸入で大幅な増税が予定されており、メキシコに主要製造拠点を持つ日産にとって、さらに収益面の追い打ちとなることは予想されます。日産の業績急降下は、事態の進展によっては巨額赤字転落による、経営危機にもつながりかねないところです。大株主に旧村上ファンド系の投資ファンドとみられる名前が入ったことも判明し、一部で噂される業務提携先のホンダによる資本参加、買収も現実味を帯びてくるかもしれません。
苦境に陥った日産を復活に導く対応策は、まず何よりいまだ抜け出せないゴーン独裁およびルノー支配下経営で築かれた、悪しき経営風土からの脱却ではないでしょうか。すなわち、内田社長を含めた経営陣の刷新による人心一新こそ、最優先で取り組むべきだと思われるのです。「ゴーンの呪い」を解いて、リバイバルプランならぬサバイバルプランを一刻も早く軌道に乗せることができるのか。業界大変革の時代に、日産に残された時間は決して多くはないでしょう。
著者プロフィール・大関暁夫
株式会社スタジオ02 代表取締役
横浜銀行に入り現場および現場指導の他、新聞記者経験もある異色の銀行マンとして活躍。全銀協出向時はいわゆるMOF担として、現メガバンクトップなどと行動を共にして政官界との調整役を務めた。銀行では企画、営業企画部門を歴任し、06年支店長職をひと区切りとして円満退社した。その後は上場ベンチャー企業役員などとして活躍。現在は金融機関、上場企業、ベンチャー企業のアドバイザリーをする傍ら、出身の有名超進学校人脈や銀行時代の官民有力人脈を駆使した情報通企業アナリストとして、メディア執筆者やコメンテーターを務めている。
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