「大きな病気をして医療費が高額になった場合でも、一定の上限額を超えた分が返金されるのが『高額療養費制度』です。がんや脳卒中、心疾患など、手術が必要だったり入院期間が長くなっても、金銭面の負担を抑えられる制度ですが、11月21日、政府はその上限額を一定程度引き上げる案を示しました」(全国紙記者)
消費税や防衛費のための増税に目が行きがちだが、こうした社会保障費の負担は右肩上がりだ。近著に『共働きなのに、お金が全然、貯まりません!』(三笠書房)がある、生活経済ジャーナリストの柏木理佳さんが解説する。
「たとえば協会けんぽの健康保険料は、月額標準報酬に対しての保険料率で決まります。昭和22年度には3.6%だった保険料率は、平成2年度には8.4%、現在では10%と上がり続けています。会社員であれば健康保険料は給料から天引きされるので、負担が増えてもわかりづらいうえ“会社が半分払ってくれる”というお得感があるため、増税と比べて政府が批判を浴びにくい側面があるのかもしれません」
気づけば、今や国民所得に対する社会保障負担率は20%弱。消費税や所得税など租税負担率が30%弱なので、国民負担率は50%に迫る勢いなのだ(’24年は45.1%になる見込み)。では、政府は今後どのような形で社会保険の負担を増やしていくのだろうか。
まず’25年度からの変更が確実視されているのが、冒頭の高額療養費制度だ。共同通信によると、厚生労働省は’25〜’26年度にかけて上限額を7〜16%引き上げる見通しだという。厚労省の医療給付実態調査を参考に、70歳未満で脳卒中(くも膜下出血を起こし開頭手術・3割負担・1入院あたりの費用51万9千円)の治療を受けた場合の自己負担額を試算してみると――。
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年収370万〜770万円の世帯なら、現在は9万4千730円の自己負担額の上限が、今後は10万1千361円〜10万9千887円に引き上げられる。つまり、6千631円〜1万5千157円ほど負担が増えてしまうことに。
また、開頭手術があるくも膜下出血の平均入院日数は約40日だ。
「高額療養費制度は1カ月にかかった医療費で計算されます。治療が2カ月にわたれば、2度にわたって上限額を支払うことになります」(柏木さん)
前述のケースで、治療が2カ月におよんだ場合を想定して試算すると(1カ月にかかる費用の半額を2カ月にわたって支払ったと仮定)、上限額が上がることで、患者の自己負担額は最大2万7千円も増える。大病をした後はどうしても収入は減りがちだ。高額療養費制度の“改悪”は“病人いじめ”にもなりかねない……。
高額療養費制度同様、来年度に控えているのは、国民健康保険の保険料上限額の引き上げだ。
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「現在89万円から3万円上乗せされ92万円に。これで4年連続の引き上げとなります」(柏木さん)
また医療費負担に関しても、75歳以上の後期高齢者の窓口負担は原則1割で、所得に応じて2〜3割となっているが、3割負担の対象を広げる議論が進められている。老後生活を支える年金制度はどうか。社会保障法が専門の鹿児島大学教授・伊藤周平さんが語る。
「厚生年金の保険料率は標準報酬月額の18.3%、国民年金は1万6千980円で固定されています。国としては保険料がこれ以上増えない分、マクロ経済スライドという制度で年金支給額を抑制します」
物価や賃金が上がれば、年金受給額も上がると思いたいが、’04年にマクロ経済スライドが導入されたことによって、年金受給額は物価や賃金の上昇率から“スライド調整率”を差し引いた分しか上がらない仕組みになっているのだ。
「さらに幅広く健康保険料や厚生年金保険料を集めるための議論もあります。たとえば年収が106万円を上回り、週20時間以上働き、従業員51人以上の企業に勤めている場合は社会保険へ加入する必要がありますが、企業規模要件をなくし、適用対象者を拡大する準備が進められています」(伊藤さん)
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現在、年収106万円でも社会保険に加入していない人の手取りは103万5千円。ところが週20時間働いて適用拡大されたら、厚生年金や健康保険料が新たに発生し、年間14万6千円も手取りが減ることになる試算だ。また、40歳以上が毎月支払う介護保険料も右肩上がりだ。
「制度が開始された’00年には全国平均で月額2千911円でした。65歳以上を対象とした第1号保険料は3年に1度見直されますが、今年4月、前期より3.5%増の6千225円となり、過去最高額を更新しています。今後も改訂のたびに増えることが予想されます」(柏木さん)
さらに、介護保険の介護サービスを利用した場合、現在は原則1割負担だが、今後は2割負担の対象者を増やしていくことが考えられる。’27年度までに拡大案が再検討されることになっているのだ。
「医療と異なり、介護は継続性があるため、どうしても負担が大きくなります」(伊藤さん)
要介護1でグループホームを週2回、訪問介護(生活援助45分)を週5回利用した場合で試算すると、介護保険サービスの自己負担が1割から2割になることで、年間14万1千円の負担増となった。
同様にさまざまな反発があり見送られているのが、国民年金の保険料支払期間5年延長案だ。月額1万6千980円の納付が5年延長されれば支払い負担は総額101万8千800円も増える。
「5年に一度公表される、年金の状況を記した『財政検証』のオプション試算で、5年延長した場合の計算がなされています。オプション試算は厚労省がいずれ着手したい事項なので、実現する可能性は十分にあります」(伊藤さん)
石破政権には、負担増によって苦しむ国民の声にきちんと耳を傾けてもらいたいものだが……。
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