11月20日、リクルートが北海道美瑛(びえい)町と「オーバーツーリズム対応、地域の本音と観光地の今後を徹底議論」として対談を行った。登壇者はリクルート側がじゃらんリサーチセンターの長野瑞樹研究員、美瑛町からは角和浩幸町長。
【画像】これはひどい! 迷惑観光客が押し寄せる美瑛町の観光スポット、観光客の路上駐車、私有地に無断で立ち入る観光客、対策のために看板を立てる様子(計5枚)
近年「白金青い池(以下、青い池)」が観光スポットとして人気の美瑛町だが、観光客による農地への立ち入りや路上駐車など、オーバーツーリズムに起因するさまざまな課題を抱えているという。対談内容である同町の取り組みやオーバーツーリズムの分析を踏まえつつ、オーバーツーリズムを解消するヒントを探る。
●「青い池」と「丘」で知られる美瑛町でオーバーツーリズム
美瑛町は北海道の中心付近に位置し、旭川空港から車で20分弱、札幌から2時間半のアクセスだ。草原や花畑からなる丘の景色や、青い池などの観光名所で知られる。中でも青い池は2010年代からたびたび話題となっていたが、コロナ禍以降はSNSなどで情報拡散があり、人気が過熱している。
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角和町長によると、2019年の同町への観光来訪者は241万人。2021年度は106万人まで落ち込んだが、2023年度は238万人にまで回復している。青い池の見ごろは5〜6月だが、冬の期間も草原に1本だけ立つ「クリスマスツリーの木」を目当てに来る観光客が多く、年中にぎわっている。
もともと美瑛町の主産業は農業である。以前から観光地として機能していたわけではなく、上述したような近年のにぎわいにより、オーバーツーリズム問題が発生している。丘陵付近では畑に無断で立ち入る観光客も多く、冬期はクリスマスツリーの木周辺で路上駐車も起きているという。
「観光資源が農業景観でもあることが、あつれきを生んでいます。農業では畑そのものが仕事の場ですから、写真を撮影しようとする観光客の立ち入りが作物の病原菌を持ち込んでくる危険性があり、農家の方々はその点を懸念しています。その他、市街地では観光客が道路を歩いてしまう問題も出ています」(角和町長)
こうした課題に対し、美瑛町では観光パトロールの実施や私有地への立入を禁止する看板を設置している。観光地の4カ所に混雑状況を監視するカメラも設置し、デジタルサイネージやWebサイトで混雑状況を知らせる取り組みなども進む。
●オーバーツーリズム観光地には4つのパターンがある
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リクルートの長野氏は、オーバーツーリズム観光地を4つの型に分類できると話す。
「オーバーツーリズムは『都市型』『リゾート型』『自然型』『アイランド型』に分類できます。都市型は京都や鎌倉などの都市部、リゾート型の代表地には軽井沢などがあります。自然型は富士山や屋久島、アイランド型は西表島が該当し、美瑛町はアイランド型に近いと考えられます」(長野氏)
美瑛町が該当するアイランド型オーバーツーリズムの定義は「リゾート型に類するが、離島や山間の集落など、周辺都市からアクセス手段が限定される地域」。オーバーツーリズムにより、自然環境や住民の生活への悪影響が起き得るという。
長野氏は続けて、住民のオーバーツーリズムに対する意見は「不安」「不快」「不利益」の3つに分類できると話す。
不安は「安価なホテルや小売店がなくなってしまう」など、従来の良さやアイデンティティーが損なわれることへの懸念だ。不快は「路上でお酒を飲む人がいる」「大声で話す人がいる」といったモラルに対する嫌悪感が該当する。不利益は「混雑でバスに乗れない」「食べ歩きしながら店に入ってきて、展示品が汚れる」といった具体的な実害に対する意見である。このうち、美瑛町では不快と不利益に関する意見が目立つと角和町長は話す。
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●反対に屈せず、対策を進めるべきだ
長野氏によると、観光地付近の住民による不安や不快は、混雑する場所で顕著に現れるという。その解消のため、角和町長は今後「駐車場利用税」と「宿泊税」を導入し、オーバーツーリズム対策の財源とする予定だと話す。
駐車場利用税は青い池の駐車場にて、通常の利用料に加算する形で徴収する。普通車は現在500円だが、1000円の税を加算して1500円になる予定だ。駐車場利用税の導入に関しては以前から報道されており、SNSでは「もう行かない」「高すぎる」などの意見が散見された。しかし、それこそが対策の狙いといえる。
昨今、美瑛町だけでなく、国内の観光地で入場料の導入や値上げが進む。多くの消費者からは否定的な意見があるものの、有料化や値上げは質を向上する効果がある。例えば、東京ディズニーリゾートは値上げや年間パスポートの廃止によって、チケット以外の物品・飲食販売が増加し、客単価が大幅に上昇した。
他の観光地でも、有料化によってゴミ捨てなどのマナー違反が大きく改善した例はある。一部の反対こそあれ、美瑛町の取り組みも不安と不快、不利益の解消に貢献するはずであり、他の自治体も続くだろう。
●著者プロフィール:山口伸
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。
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