人口減で避けて通れぬ「海外進出」 狙うべき国・市場、スタイルのヒントを探る

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2024年11月29日 06:41  ITmedia ビジネスオンライン

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この30年、世界と比較して成長できなかった日本企業(出所:ゲッティイメージズ)

 かつて、日本企業の海外輸出は1980年代後半の円高を受けて活発化しました。それが今では、「国内市場の飽和」を背景として、さらなる成長を遂げるためにグローバルに進出するしかない――といった消極的な文脈で語られることが多くなっています。


【画像】ビジネスパーソンが押さえておくべき、2050年の各国の人口、各国GDPの平均成長率など(計4枚)


 「失われた30年」という言葉を聞いたことがある方も、多いはず。1989年には、世界の時価総額ランキングトップ20のうち、70%(14社)を日本企業が占めていました。しかし、2023年2月末時点では1社もありません。


 次の図からは、上位企業の時価総額が飛躍的に拡大しているのがみてとれます。1989年に1位だったNTTの時価総額がそのままだったとしても、2023年には50位以内にすら入らないほど、世界各国の企業は発展を遂げたのです。


 また、金融業や製造業が上位を占めている1989年と比較し、2023年は、IT企業や事業が複合的に展開され相乗効果を創出している企業が多く見られます(例:アマゾンはクラウド事業、通販事業、サブスク事業。テンセントはSNS事業、金融事業、ゲーム事業など)。


 つまり世界市場で戦うには従来の事業モデルでは勝率が高まらず、多様な顧客に多様なシーンで利用してもらえる、新たなビジネスモデルや技術を保持した展開が必要だと想定されます。


 上位にランクインしているのは、世界中をマーケットとして展開している企業ばかりです。もちろん、売り上げの拡大を求めず、利益重視の経営にシフトする戦略もあるでしょう。しかし企業規模の拡大を求める場合、グローバル市場への展開は避けて通れない道ではないでしょうか。


 そして、前述したように、ビジネスモデルこそ多様性を重視し、ターゲットはグローバルを見据える戦略設計が求められていると感じます。


●人口とGDPで、これからの世界を予測すると……


 今後のグローバル市場の大きな指標として、人口とGDPを確認したいと思います。次の表は、2024年時点で人口ボリューム上位の国が2050年に向けてどの程度増減するか整理したものです。


 今後、日本、中国、ロシアで人口が減少していく見込みです。対して、人口増加が著しいエチオピア、フィリピン、ベトナムなどは日本の人口を追い抜き、低所得層が減り、中所得層が増えて経済が活性化していくことが予想されます。こうした国々は、日本がかつて迎えた高度経済成長期のようなゾーンに入っていくのです。


 GDP成長率でも、日本は世界各国と比較して厳しい状況にあることが分かります。グラフ内の赤線で囲った国は、人口増加とGDP拡大の両面から考える今後の「成長有望国」。日本企業でもこれらの国に進出するケースは多く見られます。


 特に増加しているのが、小売りや製造です。小売企業ではグローバルを主戦場にシフトしている傾向にあり、ユニクロや無印良品は既に海外店舗の方が多く、ニトリは2025年3月期が、国内新規出店数(62店舗)を海外出店数(100店舗)が上回る計画で進行しています。


●「単なる横展開」ではない海外展開の好例


 小売業や消費財メーカーの海外進出の多くは、既存ビジネスを軸に海外にも横展開する「国内需要の縮小を補う」スタイルですが、昨今では独自の技術とビジネスモデルで、当初から世界市場を軸に展開する企業も増え始めています。


 前述した、新たなビジネスモデルや技術によってグローバル市場をターゲットに見据えた戦略を展開する企業を紹介したいと思います。


 その一つが、インターホールディングス(東京都渋谷区)です。真空に関する特許技術を有し、フードロスやGHG(温室効果ガス)などの課題解決に貢献するビジネスを展開しています。例えば、同社の真空パック技術を使えば、野菜の新鮮さを長期間保持できたり、オリーブオイルの酸化がしにくくなったりするそうです。


 こうした技術を、メーカーに対しては大容量の業務用真空パック、小売には真空量り売り機、消費者には真空マイボトルといった形でチャネルに分けて提供することで、サプライチェーン全体でフードロス削減やCO2削減に貢献しています。


 同社のビジネスモデルは大きく「(1)製造したモノを販売する」「(2)技術ライセンスを提供するライセンスビジネス」「(3)温室効果ガス削減キャッシュバックを行うカーボンクレジット環境コンサル事業」に大別できます。環境意識の高い欧米に始まり、アジアにも業容を拡大していく構想を描いており、2026年には(1)と(2)で900億円、(3)で300億円、合計1200億円の売り上げを計画しています。


 もう1社の例として、人流データを提供するunerryも紹介します。海外アプリユーザーIDを2.7億抱え、人の動きに関するビッグデータを中心としたビジネスを展開している企業です。


 同社はビッグデータを保持することで、小売業の出店計画や来店率計測だけでなく、まちづくりに不動産、観光・エンタメやモビリティ、物流、ヘルスケアなど、あらゆる産業に貢献するポテンシャルを秘めています。既に国内よりも海外の方がユーザーを多く抱えていることから、潜在能力の高さがうかがえます。unerryのモデルも、インターホールディングスと同じく技術特許(ビーコン取得技術)を軸にAIによる分析力も合わせ、グローバルをターゲットとしていることが特徴です。


 海外進出にはばく大な投資だけでなく、各国の規制や商慣習など数々のリスクを伴います。このようなリスクに負けず、社会的な貢献意義も高いビジネスの良例が、今回紹介した2社といえるでしょう。国内市場がシュリンクしていく日本において、こうした世界市場を狙う企業が多く誕生することを願うばかりです。


 最後までお読みいただき、ありがとうございました。


(佐久間 俊一)



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