10月12日にスペインで開催された、ファナテック・GTワールドチャレンジ・ヨーロッパ第9戦/スプリント・カップ第4戦『バルセロナ』レース1の結果は、チームWRTがセーフティカー(SC)の導入手順に関する異議申し立てを行った後に無効となり、その後のポイント整理の結果、ベルギーチームがオーバーオール・チームタイトルを獲得することとなった。
2024年のスプリント・カップ最終大会は10月11日から13日にかけて、カタロニア・サーキットで実施された。週末のふたつのレースのうち最初のレース1は、大雨の影響で早々にSC導入がコールされ、終盤になってリスタートを迎えたあとブーツェンVDSの9号車メルセデスAMG GT3エボ(ジュール・グーノン/マクシミリアン・ゲーツ組)が勝利した。
SCランは当初、トレゾア・アテンプト・レーシングとウインワード・レーシングのマシンが絡んだ最初のラップの事故によって引き起こされた。その後激しい雨が降り出したことで先導走行が延長され、レースは残り10分を切るまで再開されなかった。
しかし、SROモータースポーツ・グループは11月28日、チームWRTがベルギー王立自動車クラブ(RACB)・スポーツ国立裁判所に上訴したことを確認し、その訴えが認めれたため、当該レースの結果は無効とされた。
11月12日に行われた審理は、レース直後にWRTが提出した最初の抗議が却下された後に行われた。チーム代表のヴァンサン・ボッセ、スポーツディレクターのピエール・デュドネ、パフォーマンスおよびデータエンジニアのアントワーヌ・エルブロが代表を務めた上訴で、WRTはスチュワードの行動がファナテック・GTワールドチャレンジ・ヨーロッパの競技規則第20.5.2条に違反していると主張した。
この条項には、スプリント・カップのレース中に義務付けられているピットウインドウは、「ピットウインドウが開く予定の時間にセーフティカーがトラック上にあるか、フルコースイエローが運用されている場合」に延期されると書かれている。
しかしWRTは、最初のラップのクラッシュによって引き起こされた最初のSCが雨のために延長された後、ピットウインドウは開かれ、延期されなかったと指摘し、これは「明らかに第20.5.2条の明確な文言に違反している」と指摘した。
チームはさらに、「聴聞会でレースディレクターが述べたように、その時点で安全性が懸念されたのであれば、なぜ赤旗を使ってレースを中断しなかったのか理解に苦しむ」と述べ、SCランの間にピットウインドウが開いていたことで同時多発的なピットインが生まれ、ピットロード内で危険な状況が生じた可能性があるとしている。
公聴会にはエミル・フレイ・レーシングの代表者も出席した。同チームは“利害関係者”として出席しており、「(チームWRTの)上訴が成功すれば、より高い順位を獲得できる可能性があるため」弁論を行うことを許可された。
スイスのチームは、SCの撤去に関するメッセージが出された後に撤回されるなど、SCラン期間中の状況が混乱していたことに加え、ピットストップのウインドウが開いていることが放送では示されていたものの、チームには数分後まで知らされなかったことで、一部のチームが有利になったと主張した。
エミル・フレイは、ピットウインドウのメッセージが放送された直後にピットインした9号車メルセデス(ブーツェンVDS)が、SCやコンディションの悪化が進むトラックでスリップに苦労している他のクルマによって減速されなかったため、ピットインのタイミングによって大きく差をつけることができたと指摘。
同チームによると、これにより9号車メルセデスはピットインが遅れたライバルと比較して「ほぼ1周分のタイムを稼ぐ」ことができ、このことが最終的な勝利に貢献したという。
■レースを無効とした判断
裁判所は判決の中で、SC下でのピットストップのウインドウに関する条項が「正しく適用されていない」というWRTの主張を認めるとともに、レッドフラッグを宣言すべきであったという意見に同意し、次のように結論づけた。
「競技規則第20.5.2条に違反してピットウインドウを開くと宣言したレースディレクターの決定が、競技者にどのように伝達されたかを考慮すると、適用されるべき規則に違反が発生したと考えられる」
また控訴裁判所は、このことと当該レースにおけるグリーンフラッグ下での走行がわずか6分強だったという事実を鑑みて、レースの結果はFIA国際競技規則の第1.1.1条に規定されている“実力と公平性”に基づいていないため、ポイントの付与は不公平であると判断した。
そのため、バルセロナでのレース1の順位は取り消されることが決定し、一度は競技者に与えられたポイントも無効となっている。
■ウインワードのチャンピオンが幻に
この裁定によってレース1のリザルトがキャンセルされた結果、チームWRTはライバルのウインワード・レーシング・チーム・マンフィルター(48号車メルセデスAMG GT3エボ)を総合チーム順位で上回り、タイトルを手にすることとなった。
レース1のポイントが差し引かれたため、ウインワードの6.5ポイントのアドバンテージはWRTの1ポイントのリードに変わっている。
なお、レース1のポイントが差し引かれても計4つのクラスのドライバーズチャンピオンは、いずれもタイトルを失うことはない。オーバーオールでチャンピオントロフィーを獲得した48号車メルセデスのルーカス・アウアーとマーロ・エンゲルは、WRTペアのドリス・ファントールとシャルル・ウィーツのペア(32号車BMW M4 GT3)を3.5ポイント差で上回っている。
WRTの勝訴に貢献したエミル・フレイ・レーシングは、ブーツェンVDSの勝利が幻となり、彼らが16.5ポイントを失いランキング7位に下げたあと、69号車フェラーリ296 GT3を駆るジャコモ・アルトーとティエリー・フェルミューレンのペアが、姉妹車19号車フェラーリのベン・グリーン/コンスタ・ラッパライネンに次ぐランキング4位に順位を上げた。
ゴールドカップでは、サンテロック・レーシング(25号車アウディR8 LMS GT3エボII)のポール・エブラード/ジル・マグヌス組がランキング2位に入り、CSAレーシングのサイモン・ガシェとルーカス・レベレを上回った。
最後に、10号車メルセデスAMG GT3エボのセザール・ガゾー/オーレリアン・パニス組がシルバーカップのクラス優勝を逃したことで、ブーツェンVDSのペアはチームWRTのサム・デ・ハーン(30号車BMW M4 GT3)にランキング2位を奪われた。デ・ハーンはスプリント・カップ最終戦を欠場したにもかかわらず、チームメイトでチャンピオンを獲得したカラン・ウイリアムズに次ぐ2位となっている。