【2024年秋ドラマ】『3000万』“連続ドラマの醍醐味”を体感する傑作

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2024年11月30日 21:11  クランクイン!

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クランクイン!

安達祐実(2021年撮影)  クランクイン!
 10月からスタートした秋ドラマも佳境を迎えてきたが、今期では“連続ドラマならではの醍醐味(だいごみ)”を存分に味わえる作品に出会えた。『3000万』(NHK総合)である。

【写真】安達祐実、無修正で“今”をさらけ出す

 連ドラを見ていて、続きが気になって仕方がないところで終わり、次週の予告が流れる。「来週まで待てん!」となって1週間が経ち、やっと続きが見られる。そしてまた続きが…。全話一気に公開される配信ドラマなどと比べて、1週間待つのは不便だが、この時間も含めて楽しめるのが、連ドラの醍醐味である。毎週ドラマが放送される曜日に彩りを与えてくれる。

 今や配信などでいつでもどこでも見られるが、待ち切れないドラマは、放送が始まる時間にテレビの前に座り、“ながら見”ではなくじっくりと見たい。それが『3000万』だった。

 23日に最終回を迎えた本作は、企画の成り立ちが特殊である。発端は本作の演出を務める保坂慶太氏が2022年に立ち上げた脚本開発プロジェクト「WDRプロジェクト」だ。ドラマの企画開発に参加したいプロの脚本家や作家志望者を公募し、2025名の応募者の中から10名を選出。さらにその中から4名の脚本家が集まり、2023年7月から共同で脚本を開発したという。

 ヒットした海外ドラマを徹底的に研究し、時間をかけて作られたという脚本は、ストーリーにしてもキャラクターにしても緻密に構成されていた。

 とはいっても、大筋のストーリーはシンプルだ。4人の脚本家の中で原案を作った弥重早希子氏は本作の物語について以下のように説明している。

「平凡な家族の前に、ひょんなことから怪しい大金が舞い込んでくる。それを自分たちのものにしようとしたことから、泥沼の災難へと巻き込まれていく」(NHK広報局note「土曜ドラマ「3000万」 明けない夜はない チームを信じ書き続けた日々」より)

 シンプルながらも物語にぐいぐいと引き込まれてしまうのは、構成のうまさとともに、キャラクター造形がしっかりしているから。どの人物も、“この人はいい人”“この人は悪い人”と一面的に描かれていない。どのキャラクターも人間味あふれる魅力に溢れていた。

■人間味あふれるキャラクターがストーリーを動かす

 主人公の祐子(安達祐実)は、我慢を強いられる生活から抜け出したい思いから、夫の義光(青木崇高)と共に3000万を自分たちのものにしようとする。しかし犯罪グループに脅されて犯罪の片棒を担がされると、今度は息子の純一(味元耀大)を守るために捕まりたくないと主張する。彼女の行動だけ見ると身勝手にも思えるが、非常に人間的だともいえ、“家族を守るため”という切迫した思いが伝わってくる。はじめは弱々しかった彼女が後半に進むにつれ、どんどんタフになっていく姿に心をつかまれた。

 犯罪グループの指示役・坂本(木原勝利)もまた“悪人”としてだけの描かれ方はされていない。普段他人から金品を奪う犯罪を犯しておきながら、末次(内田健司)が長田(萩原護)を装った電話にあっさりだまされ、助けに行こうとして逮捕される。意外と人情派だったのだ。怒りをコントロールするため、自らアンガーマネジメントの講習を受けている姿からも、人間らしい弱さが見えた。

 すべての始まりである3000万を奪った実行犯のソラ(森田想)もまた犯罪者ではあるのだが、愛すべきキャラだった。蒲池(加治将樹)をフライパンで殴って湖に沈め(故意ではないが)、最終話では穂波悦子(清水美砂)をためらうことなく殴る一面もありながら、純一と2人で話すシーンで見せた柔らかな表情は、まるで親戚のお姉さんと話しているようだった。最後に、奪った金を持ち主の元に返しに行く姿など、彼女の根底には優しさが流れていたように思う。

 ドラマを見ていて、作り手がストーリーのためにキャラクターを動かしていると感じると冷めてしまうことがあるが、本作ではそういうことが一切なく、むしろ人間臭いキャラクターたちがストーリーを動かし、先の読めない展開を作り上げていた。

 主演の安達祐実は放送がスタートする前、本作について「こんなに面白いドラマが作れてしまった、どうしよう!!!という心境です」とインスタグラムにつづっていたが、この言葉には納得だ。『3000万』は、毎週の放送を心待ちにする楽しみを改めて実感させてくれた。このような心揺さぶられるドラマにまた会いたい。(文:堀タツヤ)
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