中国科学技術大学や浙江大学に所属する研究者らが発表した論文「Terabit-scale high-fidelity diamond data storage」は、レーザーを使ってダイヤモンドに情報をエンコードし、安全かつ長期保存を実現するデータストレージ技術を提案した研究報告である。
この技術の中核となるのは、ダイヤモンドの中に形成される「GR1中心」と呼ばれる特殊な構造である。GR1中心は驚くべき安定性を持ち、室温で1014年、226.85度(=500K)の高温でも1000年という超長期の保存が可能である。また、光による読み出しを何度繰り返しても劣化しにくいという特長を持つ。
データの書き込みには、超短時間のレーザーパルスを使用する。このパルスは非常に低いエネルギーで済み、69nm(1nm=1×10^-9m)以下(波長の12分の1)という極めて小さな領域にデータを記録できる。
この技術により、1立方cm当たり14.8テラビットという高密度のデータ保存が可能となった。書き込み時間はわずか200フェムト秒(1フェムト秒=1×10^-15秒)で、データの読み出し精度は99%を超える。
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ダイヤモンドストレージには3つの読み出しシステムがある。1つ目は532nmレーザーを使用し99.99%の精度を実現する共焦点顕微鏡方式、2つ目はCMOSカメラを使用し最大3600並列チャンネルで99.24%の精度を達成する広視野並列読み出し方式、3つ目はマルチプレーンプリズムで光を8つに分割し、異なる深さの3層を同時に読み出して99.45%の精度を達成する多層読み出し方式である。
さらに、ダイヤモンドは熱を極めて効率よく散逸する性質を持つ。このため、高速で大量のデータを書き込む際に問題となる熱の蓄積を防ぎ、安定した記録性能を維持できる。
この技術の実証実験として、「猫」の画像データ(5万5596ビット)を記録し、99.48%という高い精度で読み出すことに成功。さらにエドワード・マイブリッジが撮影した写真セットである「動く馬」(1887年)も、わずか200×200×8μmという微小な空間に保存できることを示した。
このダイヤモンドストレージは、高容量、超長寿命、超低消費電力、超短時間露光、高忠実度での並列記録・読み出しという特性に加え、電界・磁界・高圧などの極限環境にも耐える堅牢性を備えている。
Source and Image Credits: Zhou, J., Su, J., Guan, J. et al. Terabit-scale high-fidelity diamond data storage. Nat. Photon.(2024). https://doi.org/10.1038/s41566-024-01573-1
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※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2
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