不動のボランチとしてジュビロ磐田の黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。
そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカーはプレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!
第115回のテーマは、今季限りで引退を表明したジュビロ磐田の山田大記について。地元出身で磐田サポーターから愛された山田選手を磐田OBの福西崇史が振り返る。
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■磐田サポーターにとって特別な存在
――先日、山田大記選手が今シーズン限りでの現役引退を発表されました。この発表を受けて、まずは率直にどう感じられました?
福西 決断の理由や求めるプレーのレベルとかは彼自身にしかわからないですけど、正直まだまだやれるだろうと思います。経験に裏付けされた判断、プレーの意図は随所に感じるし、プレーの質自体も十分に高いレベルにあるので、個人的にはまだまだ大記のプレーを見たいなと思いましたね。
彼とは磐田に行ったときによく話しましたけど、やっぱりチームのためにどうすればいいかというのをずっと考えていて、怪我が多くなってそれをピッチで見せるチャンスがなかったときは歯痒い思いをしてきたと思います。彼は本当に責任感が強いので、話していてもそういうところはすごく伝わってきました。
――山田選手はどんな人柄なんですか?
福西 真面目ないいやつですよ。彼らがやっているプロジェクトを見てもわかるとおり、子供たちのためを思って活動ができるし、それはチームメイトに対してもそうで、正義感の強い男ですよ。
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――彼らのプロジェクトを見ると、磐田への思いの強さを感じられますね。
福西 そうですね。地元出身のアカデミー育ちでサポーターにとって特別な選手ですけど、彼にとっても磐田というのは思い入れの強い、特別な場所だと思います。だからこそいろんな人を巻き込んで活動しているし、チームでも先頭に立ってやんなきゃという思いはすごく強いものがありますよ。だからこそ、ここでの引退なんだと思いますね。
■若いうちから周りのことを思える選手だった
――山田選手のデビュー当初の印象は覚えていますか?
福西 当初からドリブルで突破できるし、パスも出せるし、点も決められる全体的に能力の高い選手でしたけど、その中でも「ボールをくれ!」という良い意味で強気なメンタリティを持っていましたよね。勢いやキレがあるなかでテクニックもしっかりしているいい選手だなと思いましたね。
――キャリアを重ねていくうちにどんな変化が見られました?
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福西 若いうちは前で受けて積極的に仕掛ける選手でしたけど、年齢を重ねるにつれ、ゲームを作る側にも回ることができて、周りの選手に気が利くプレーができるようになっていきましたよね。それからプレーの幅も広がって、ユーティリティなプレーヤーにもなっていったと思います。
――山田選手はプロ2年目でキャプテンも任されましたよね。
福西 そこも彼の性格を表していると思いますね。若いうちから周りのことを思える人間性を持っていて、プロ2年目でもキャプテンシーはあったし、責任感も強かったので任せやすかったと思います。ドイツから帰ってくるときもいろんな選択肢がある中で、磐田復帰を選んだのは磐田への思い入れもそうだし、責任感というところもあったと思いますね。
■辛い時期をまとめる山田の苦悩
――ドイツから磐田に戻ってきてからの山田選手はどう感じました?
福西 やっぱり意識の高さは、帰ってきた当初はとくに違うなと思いましたね。その意識の違いを周りの選手たちがどう感じるか。そこに磐田は苦悩しているところはあると思います。
――近年はJ2降格とJ1昇格を繰り返すシーズンが続いてキャプテンの山田選手の苦悩もあるんじゃないかと思います。
福西 クラブ全体が不安定なところもあって、それは当然チームにも影響があることなので、そこをまとめるのは本当に大変だったと思います。彼がこのタイミングで引退を発表したのは、ここでチームがまとまって奮起してほしいという思いがあってのことでもあると思うし、磐田はもっとピッチの中で気持ちを出せると思うんですよ。
FC東京戦で大記がPKを決めて、望みを繋いでくれたわけですから最後1試合、残留をかけてみんなが「大記ために」と奮起してくれることを願いますね。
■伊東輝悦も50歳でついに引退
――山田選手のほかにも今季は多くの選手が引退表明をしました。その中で伊東輝悦選手も50歳で引退を発表されました。
福西 ついに引退ですか。テルさんとは一緒にプレーもしたことありますけど、側で見ると鉄人と言われる所以がわかりますよね。年齢を重ねると気力が続かなかったり、メンタル的にキツいようなときでも彼は黙々とやれる人なので、そんなテルさんがついに辞めるんだって思いましたね。
――伊東選手のストイックさはどんなところに感じました?
福西 テルさんのストイックさは、自分を厳しく律するというところはもちろんあったと思うんですけど、それよりも一番は「自分のしたいことをする」というストイックさだったと思います。周りの人に流されず、自分の意志を貫ける強さを持った人で、だから50歳まで現役を続けられたんだと思いますよ。
――ベテランになってくると気力が続かなくなってくるというのはよく聞きますが、そこは本当に強いものを持っていたということですよね。
福西 これはもう真似できないものですよ。怪我をしても淡々と治して、コンディションを戻すこと。この戻すということが本当にしんどい。でも50歳まで毎年ちゃんと自分の体を追い込んでコンディションを作り続ける強さ、ストイックさは驚異的だったと思います。
――磐田のライバル、清水エスパルスの中心選手の一人だったわけですが、嫌な選手でした?
福西 めちゃくちゃ嫌でしたよ。相手の嫌なことができるし、それを声を出して主張するというより、こっそりできるタイプで、本当にいやらしい選手でしたね。味方にしたら安心できるというか、頼りになる選手ですよ。
――福西さんは同じボランチでしたけど、伊東選手から学ぶことは多かったですか?
福西 多かったですね。磐田は上手い選手ばかりでしたけど、その中で周りに合わせながらも自分を出すやり方というのは、テルさんから多くのことを学びましたね。
辞めてしまう寂しさはありますが、今はとにかく「お疲れ様でした」という一言ですね。引退後になにをされるかわからないですが、サッカーに携わってテルさんの貴重な経験を次の世代に繋いでほしいと思います。
構成/篠 幸彦 撮影/鈴木大喜