小山美姫インタビュー
2024シーズンのモータースポーツ界では、スーパーフォーミュラに初参戦したJujuに大きな注目が集まった。しかし、日本人の女性ドライバーで活躍しているのは彼女だけではない。
小山美姫、27歳──。
幼少期から国内のさまざまなレースで好成績を残し、2019年に新設された女性ドライバー限定レース『Wシリーズ』のオーディションに合格。単身でヨーロッパに渡った。
Wシリーズで2シーズン戦ったのち、2022年から活動の舞台を日本に戻してフォーミュラ・リージョナル日本選手権に参戦し、年間ドライバーズタイトルを獲得。FIA公認の男女混合シングルシーターの選手権で、史上初の女性チャンピオンに輝いた。
|
|
2023年はスーパーGT(GT300クラス)にも初参戦。国内最高峰のツーリングカーレースを経験すると、2024年はスーパー耐久の最高峰クラスに挑み、日本人女性ドライバーとして31年ぶりの優勝という快挙も達成する。
そして11月には、フォーミュラE世界選手権の公式テストの最後に設けられた女性ドライバー限定セッションに参加し、4番手タイムを記録。さらに12月にはスーパーフォーミュラの公式テスト/ルーキーテストにも呼ばれた。今、最も勢いに乗っている彼女に話を聞いた。
※ ※ ※ ※ ※
── フォーミュラEのテスト参加の話をもらった時は、正直どんな心境でしたか?
「まさか、こんな話が来るとは思っていなかったので、まずは感動しました。いつもだと私のほうから『このレースに出たい!』と言って、周りの人に協力してもらうことが多かったのですが、今回は自然な流れで話をもらえました。
|
|
きっと、見えないところでもたくさんの人が関わって、この機会につながったのだと思います。自分のために動いてくれた人がいることを思うと、とてもうれしかったです」
── テスト参加前にドイツにあるチームのファクトリーを訪問した際、どんな準備をしたのですか?
「シート合わせと、シミュレーターを使ってマシン操作の確認です。まずはハンドルのスイッチ類をチェックして、その役割の多さに驚きました。
ボタンの操作ひとつで随分とマシンが変わりますし、タイムアタックする時はボタンの設定も変わります。しっかりと適切なタイミングで切り替えないと、十分なパワーが出ないこともあって......。そういう項目が多いです」
【正直ビビっているところもあった】
── 実際にフォーミュラEの車両に乗ってみた感想は?
|
|
「チームのファクトリーに行く前から『ハンドルはかなり重いよ!』と聞いていたので、テスト当日まで時間はありませんでしたけど、トレーニングなどの準備はできるかぎりして行きました。また、レギュラードライバーのテスト走行も見学させていただきました。
走りだけでなく、ドライバーとエンジニアさんのコミュニケーションなどで気づけることもありましたし、走行前に自分のなかで流れをシミュレーションできたのも、実際の走行に役に立ちました」
── フォーミュラEのハンドルは重かったですか?
「みんな『ハンドルが重い』と訴えていたので、正直ビビっているところはありました。しかし実際に乗ってみたら、重いことに変わりはないですが、想像していたほどの重さではなかったです。
テストでは最初、トラブルで走れない時間もありましたが、チームとともにシーズンに向けた準備や走行をこなすことができて、みんなから『すごくいいプロセスだったよ!』と言ってもらえました。あらためて、こういう機会を作ってくださったみなさんに感謝しています」
── 今回は女性ドライバー限定のセッションということで、参加したメンバーもWシリーズ出身者が多かったようですね、懐かしいメンバーにも再会できましたか?
「はい。『おお!久しぶり!』という感じで、みんなと騒いでいました(笑)。本当に久しぶりだったので、お互いに『どう過ごしていた?』と近況などを話して。特にアリス・パウエル(イギリス/2021年Wシリーズ総合2位)とかアビー・プリング(イギリス/2024年F1アカデミー年間チャンピオン)とか。
あと、タチアナ・カルデロン(コロンビア/2020年〜2021年スーパーフォーミュラ参戦)ともけっこう話しました。Wシリーズのオーディションに彼女が来た時に私も現場にいて、彼女がスーパーフォーミュラに来る前から面識はありました。
とにかく会えてうれしかったですね。Wシリーズの頃は本当にみんな仲がよかったです。もちろんレースでは本気ですし、仲良しこよしの関係ではありません」
【スーパー耐久で31年ぶりの快挙】
── これまでいろんな挑戦をしてきたなかで、苦労することも多かったと思います。しかし、さまざまなカテゴリーで活躍した結果、フォーミュラEテストの話も舞い込んできました。
「あらためて、限られた状況のなかでベストを尽くすしかない、と思います。先のことを見据えて計画や目標を立てることはもちろん大事なのですが、その先のことを変えることができるのは、今しかない。
なので、目の前のことを大切にすることが、よりよい未来をつくることになります。限られた状況のなかで、向き合うことがある状況に感謝しながら、ベストを尽くす。そのなかで結果を示すことができれば......。その繰り返しだと思います」
── 大事なのは目の前のこと、ですね。
「でも個人的には、チャンスをもらえるだけでも本当にありがたいことだと思っています。結果を残すか残さないかは自分次第ですけど、そこに挑戦する機会をもらえるか否かは自分だけではどうにもならないこともあります。
今までも周りの人たちの協力と支援でチャンスを掴めてきましたが、特に今年は周りが率先して動いてくれて、私自身もすごく驚いています。『私のためにこんなに動いてくれているんだ!』と。フォーミュラEのテスト参加もそのひとつです」
── ほかにも今年、挑戦する機会を得たことは?
「今年はLSTA(ランボルギーニ・スーパートロフェオ・アジア)にも自分のスキルアップの一環として挑戦しました。自分にできることだけでなく、同時に周りの人も私に尽くしてくれました。幸いなことに、結果も内容もよかったです。スーパー耐久でもチームメイトからいいところを学び、吸収していって、その成果が第5戦・鈴鹿の初優勝だったと思います。
それもこれも、レースに出られたから、初めて内容と結果が生まれたわけで。もしレースに出るチャンスがなかったら、その指標みたいなものも生まれていませんし、今、手にしているものもすべてありませんでした。周りの人たちのおかげです」
【自分にとってレースがすべて】
── 小山選手にとって、なによりマシンに乗ることが大切なんですね。
「今までのレース人生のなかでも、今年は特に『レーサーとして走れること』に対して感謝というか感動を覚えました。『私はここにいて、今週もマシンに乗れて、レースができる』ということに感謝と感動の気持ちを持ちながら毎回コースインしていました。それが幸せでした。
やっぱり人間なので、生きていたらいいことも悪いこともあると思いますけど、いざ週末になるとレースのことに没頭している自分がいます。それだけ『レース』というものが自分のなかですごく大切なものとして占めているのだと思います。
毎回レースが終わったあと、ふっと思い返すのですが、レース前まで頭にあった日頃の嫌のことなどはまったく覚えていなくて、そのレースやセッションのことしか頭にない自分がいます。そういう時に、あらためて『自分にとってレースがすべてというか、大切なものとして占めている割合が大きいんだな』と実感します。
この大切なものをここまで続けることができて、2024年はいろんなカテゴリーで走れたことは、幸せだなと思いました。そういうひとつひとつの積み重ねが、次のチャンスにつながるんだと感じています」
【profile】
小山美姫(こやま・みき)
1997年9月5日生まれ、神奈川県相模原市出身。5歳からレーシングカートに乗りはじめ、2015年からFIA-F4選手権に参戦。2017年に競争女子選手権の初代チャンピオンとなる。2019年はホンダのサポートドライバーとしてフォーミュラレース「Wシリーズ」とFIA-F4選手権にダブルエントリー。2022年はフォーミュラ・リージョナル・ジャパニーズ・チャンピオンシップに参戦してドライバーズタイトルを獲得。2023年は日本人女性ドライバーとして11年ぶりにSUPER GTで走り、2024年はスーパー耐久で女性ドライバー初の総合優勝を果たす。